第6話 照らされた道へ
第五位階下位
ふと気付くと大きなベッドの上に座っていた。
目が覚めたと言うよりも、ずっとぼーっとしていた様な気がする。
パチリパチリと瞬きすると、視界が少し見えやすくなった。
そこにあるのは、未知の世界だ。
耳で聞き、鼻で嗅ぎ、肌で感じる以上に早く、多くが見えている。
やけに暖かい場所だった。
やけに安らぐ場所だった。
やけに穏やかな場所だった。
ただ、いつも目覚めた時にあった温もりだけが、ここには無かった。
「……」
頬を伝う何かを拭う。
状況は分かってる。どう言う原理か、色んな情報が頭の中に満たされていた。
あの戦いの後、とんでもない化け物の集団が現れ、吸血鬼もダンピールも関係なく、全てを呑み込んで行った。
多くの吸血鬼と一部のダンピールが罰を受け、その怖気を纏う絶叫は思い出すだに響いて聞こえる。
全てが、埒外から現れた神によって、終わりを迎えた。
俺は……生き残ってしまった。
濡れる瞳を擦り、開かれた視界の隅に、光があった。
「っ……」
「やぁ、おはよう」
すっと抜ける様な声。波の様に広がるそれは容易く肉体を貫き、魂まで響き渡る。
この眼には、それは限りなく深い、光に見えた。
「……神……神様よぉ……」
それが神と呼ばれるモノなのだとしたら、どうしても、嘆かずにはいられない。
「……どうして……どうして……もっと、早く…………」
その先が出て来る事は無かった。
恐れか、怒り、プライドか、はたまた深い、諦念か。
そうか……諦めている方が楽だから、苦しくないから、だから大人達は——
「——君達に試練を課したのは僕だ」
「……試練……?」
問うた俺に、光は微笑み、頷いた。
「迷宮内で強力な魔物を当てて基礎を整え、強力な吸血鬼を当てて急速な成長を促す」
「……ぁ?」
「無論、吸血鬼を扇動してダンピールを襲わせたのも僕だし、手勢を操って君達革命軍が動かざるを得ない様にしたのも僕」
視界が赤く染まる。
何でもない事の様に、穏やかな微笑みすら湛えて語る光の、狂気と傲慢に、体が震える。
嘘を付く理由なんて、無いだろう。
ただただ、死んで行った、皆の顔が過ぎ去って行った。
「……なんで…………」
「試練を課すのが僕の仕事だ」
「……なんでっ……」
「君達にはそれなりに才があったからね」
「……なんでっ……!」
「後悔して死ねば、怠惰な君達も少しは行動を改めるだろう?」
過ぎた怒りと、悲しみが、涙となって溢れ出る。
傲慢だ。あまりにも。
殺しておいて……全てを奪っておいて……何故笑っていられる……!!
メギリメギリと手が変じるのが見えた。
血が沸騰した様に、身体中が熱い。
「魂の錬磨に必要なのは、何処までも上を目指す向上心だ。それが足りない者達には、後悔を抱かせるのが有効だからね」
敵わないのは分かっている。及ばないのは理解している。
それでも……それでも……! 相入れな——
「くすんっくすんっ」
「っ」
泣き声が聞こえた。
聞き覚えのある声だった。
見下ろしたそこには、布の垂れ幕の下から覗き込む様に、良く見知った、家族達の顔があった。
「……な……ん」
視界の色が変わる。
込み上げていた怒りが、流れる様に抜け落ちて行く。
俺が言葉を紡ぐ前に、パンッと手を打つ音が響いた。
「……ここら辺で手打ちとしておこう」
ニコリと、光は変わらぬ笑みを浮かべている。
「今が大事だから、苦しめさせて貰った」
下からわさっと飛び出て来たコルニとイーネシス、ナターシャが勢いそのままに飛び付いて来る。
「ロイー!」
「ロイッ!」
「兄さん!」
「お、お前ら……」
温もりがあった。無くしたと思っていた、温もりが。
光はずっと変わらない笑顔で、此方を見下ろしている。
「次もこうなるとは限らない。大切な物を守りたいなら、努力は惜しまぬ事だ」
そう言うと、光は音もなく部屋を立ち去った。
此方を見上げて来る皆を見る。
やけに暖かい場所だった。
やけに安らぐ場所だった。
やけに穏やかな場所だった。
温もりが傍らにあった。
確実に、死んでいた。
思えば、俺もまた、確実に死んでいた筈だ。
一体、その力が、どれ程の高みなのか……抗おうとする事の、どれ程愚かな事なのか、思い知った。
——アレは理だ。
今までは吸血鬼の帝王達が。
そしてこれからは、あの、空に輝く月の様な、光が——
「……ゃでも、性格悪過ぎだろ」
「美人なのに!」
「それ!」
「やっぱり皆思います!?」
そんな軽口が叩けるくらい、安らかで、穏やかで、優しい光が——




