第5話 空の心に満たすモノ
第八位階下位
吸血鬼の支配により得られた物は、クエストクリア報酬だけでは無い。
愚かな吸血鬼達が長年溜め込んだ大量の木端魔道具もあれば、大量のDPを持った大小様々な迷宮達もある。
何より、 1つの神話と、 1つの伝承、そして 1つの、霊験の器。
要は、ヴァンディワルへの畏れから生じた高位吸血鬼を強化する信仰と、ダンピール達の恐怖と怒りと虚無から生じた黄泉の信仰。そして血の歴史を有する吸血鬼の帝国改め、血鬼郷と言う大地。
取り急ぎ魔道具は黒霧に管理させ、有用な物は調整して吸血鬼達の武装としてリメイクする。
それから、血鬼郷は整理して月紅宮に取り込ませ、それらの管理として黒霧化処理を施した新たな迷宮核を配置する。
吸血鬼の信仰は、サンディアを筆頭とした吸血鬼達全員を補強する一つの魔法、神話として、サンディアにその整備と管理を任せよう。
最後の黄泉の伝承に関しては……ちょうど良い物がある。
先ず、ダンピールの信仰、その楽園思想の約束の地が存在するかどうかで言うと……これが存在する。
信仰の吹き溜まりに、吸血鬼を含めた血鬼郷の人々の魂を絡め取る機能が確かに存在している。
ただし、それが楽園かと言うと、そんな事は無い。
ただ絡め取っているだけで、楽園の顕現には至っていない。
あの世の入り口だけがあり、門の先は何も無い。
それに加えて、迷宮の吸収力が強い為、数百年の時間があって尚、僅かな魂しか捕らえられていない……だけでなく捕らえた魂も保護が弱いので混ざったり薄れたりしている。
やはり何百年の時があったとて、信ずる者の質と数が少なければそんな物だ。
そんな半端な信仰と、それに絡め取られた魂達に、ちょうど良い器があった。
そう、ダンピールの中指の骨だ。
元より、そして信仰により、この骨と楽園に絡め取られた魂達は、切れない縁が繋がっている。
これを利用し、比較的まともな新しい魂を、破損した古い魂で補強、骨をコアに精兵を顕現させ、おまけに月紅宮内に適当な楽園をでっち上げてそこの兵士とする。
サンディアの保有する神話の足しになるだろうし……死者を人質に生者を従える策でもある。
まぁダンピール達の教育はするけど、なにぶん吸血鬼達に虐げられて来た歴史が長い。
罪に罰を与えると言う名分で打ってある策も効果的だろうが、これはダメ押しの一手だ。
幸いな事に、最新一世紀に至っては、願いと想いの大きさ次第で、迷宮の吸収力にも打ち勝てる程には神気も溜まり、信仰の質も上がって神性が強くなっていたので、吸血鬼へ直接的な恨みを持つ革命軍に対するジョーカーになる。
……何ならそのジョーカーを含む赤にまつわる連中は、フォーレンへのジョーカーでもある。
まぁ、良い拾い物と言う事だ。
それでは、早速精兵達とお話をして来よう。
◇
一時収容所にて一般ダンピールや吸血鬼達が順次教育を受けている最中、僕は僕で精兵達との会話を試みた。
革命軍の大半は、未来に危機を感じていた若者か、被害を被るのを見て来た古参であり、幾らかが吸血鬼に直接的な恨みを持つか、先祖の恨みを受け取った者達だ。
と言う訳で、打った手札の一つ、多くの罪深き吸血鬼達に赦しを与える編集済み映像と、被害者向けの加害者に赦しを与える映像をインプット。
おまけにダンピール達の意識の加速による魂の休息と、死者蘇生が付く事で、全員がやめてあげ……許すと快諾した。
まぁ、被害者の気が晴れるまで拷問の映像……ではなく赦しの場を見せ、おまけに必要な人には説得もしたので、当然の結果である。
そんなこんなで、ダンピールの中で残すはロイ君達と革命軍幹部のみ。
早速鬼札を待機させ、後者4名がいる病室へ入った。
そこでは、基礎教育の履修と赦免ダイジェストを視聴し終えたオーダン氏による、罪の告白が行われていた。
実の所、オーダン氏の種への裏切りと言える行動は、吸血鬼と繋がりを持った事だけだ。
ダンピールに被害を与えた訳でも無く、寧ろ目的の達成に大きな助けとなる、吸血鬼内の革命のうねりを正しく見据えていたと言える。
これには、他の3人も文句は無く、理解を示した。
ただただ、それを許せないのはオーダン氏その人だ。
吸血鬼に恨み骨髄だったが故に、利用する為とは言え与した事が、どうしても割り切れない、許せない。
「オーダンは悪くねぇよ! だって誰も傷つけなかった! そうだろ!」
「そうだねぇ……あれだけ恨んで、悲しんでいたから、いつか自暴自棄になっちまうんじゃ無いかと思ってたけど……しっかり、考えてくれていたんだねぇ……」
ギム氏が強く擁護し、ランダ氏が深々と頷く。
ヴォーグ氏もまた、真っ直ぐと視線を合わせ、頷いた。
「奴等とて一枚岩では無かった。リスクはあるが機会があれば俺もやっていただろう。自分を責めるな、万策を尽くさなかった俺こそ責められるべきだ」
吸血鬼と言う種族に対する拒否感の大小はあれど、ダンピールにだって悪人はいるし吸血鬼だって全てが敵では無い事を理解しているから、尽くせる手があったと、ヴォーグ氏はオーダン氏に決断をさせてしまった己の弱さを嘆いた。
反省が出来るなら成長出来る。例えその歩みが遅かろうと……僕の手元なら手遅れは無い。
僕は静かに、口を開いた。
「これからは吸血鬼とも恐れず交流してね」
頷きながらそう言うと、そこは流石の老獪な戦士達、一瞬驚いた様な顔をしつつも、直ぐに持ち直した。
「……あんな物を見せられては、な」
「……納得せざるを得ないだろうね。あたしらの苦しみがどんなに大きくても、何度も心が擦り切れる程の死を繰り返した訳じゃぁないからね」
「……思うところはあるがなぁ……やられた奴等がそれで納得して、溜飲を下げたってなら俺達が戦う理由は……」
そこで言葉を区切ったギム氏。何十年と経った今も立ち消えなかった想いが、彼等の中に渦巻いているのだ。
復讐を企てたオーダン氏もまた、目を伏せ、今は昔の悲劇に整理を付けようとしている。
怒りの矛先に天罰が降り、振り上げた拳は行き場を失った。
ただただ強く握り締められたその拳に宿るのは、燃え残った悲しみと、折り合いを付けきれなかった後悔、そして大きな空虚だろう。
そんな全てを飲み込もうとする彼等に、僕は微笑んだ。
「……十分だ。それで良いとも」
まぁ、概ねそうなる様に情報操作をした訳だが、その根源たる物は彼等の人格であり人徳だ。
大なり小なりの復讐心と向き合って、介添ありきでも乗り越えようとしているなら、十分評価に値する。
僕は微笑みながら、言葉を続けた。
「……実を言うと、進むと決めた人達には支度金と前祝い替わりの報酬があってね……入ってどうぞ」
視線が入り口に集まる中、開かれた扉の先にいたのは——ラーナ氏。
ピシリッと時間が止まる中、僕は軽い足取りでラーナ氏の横を抜ける。
「多少の記憶の欠損は仕方無い物と思って納得して欲しいね」
そんな言葉と共に、ラーナ氏の背を押した。
ラーナ氏は言葉に詰まった様子で皆を見ていたが、やがて口を開き——
「……皆、久しぶり……ちょっと老けた……?」
少し困った様な笑みを浮かべた。
ちょっと……まぁ、前は目も見えなかったもんね。




