第2話 見下ろす者達
第六位階中位
「ぐっ……ごほっ……」
内から込み上げる血を吐いた。
背と胸からドクドクと血が滴り、意識が明滅する。
しかしそれもゆっくりと収まって行った。
「……はぁ、はぁ……ぺっ……」
残る血を吐き捨て、再生を待つ。
最後の瞬間、何かに攻撃された。
そもそも攻撃された事すら気付かなかった。
衝撃があって、その後の激痛。見下ろした胸元には、聖天の鎧に開いた穴。
「……くそっ、何がデーモンロードの全力を物ともしない鎧だッ」
所詮は戦場にも出れない臆病者の作る鎧。高々地上の悪魔程度に貫かれるなどっ……! ……厳重に抗議せねばなるまい。
「英霊軍も英霊軍だ! 模倣品の模倣品なぞっ、欠陥の塊では無いのかッ!!」
そうに違いない! そもそも彼の英雄、レイ・セードーやノーレル・クレッヒアの魂を失うなどと言う大失態、ドミニオンの降格すら不思議ではないと言うに!
少しふらつきながらも、下界門の間を出る。
長い通路がもどかしい。
少し歩き、見えて来た門衛、総軍の兵士2人に声を掛ける。
「おい! 貴様! 中の掃除をしておけ!」
「は、はい!」
横を通ろうとすると、止められた。
「エクスシア様、汚染除去を——」
「見て分からないかッ! 心癒槽を使うっ、退けッ!」
「し、しかし——」
「総軍の下級兵士風情がっ、この私の邪魔をするかっ、その顔、覚えたぞッ!」
「ひっ、ど、どうかお許しを——ぐぁっ」
頭を垂れる愚かな総軍を押し除けた。
少し押した程度で、壁に背を打ち付け蹲った。総軍の雑兵が、分を弁えぬからそうなるのだ。
第一、汚染除去などと余計な手間、魔界落ちした連中のみがしていれば良い物を。無駄な時間は掛かるし何をしているかも良く分からん。
「……貴様、何か言ったか?」
「め、滅相もありません!」
「……ふん」
まぁ良い……とにかく治療が優先だ。
門を出た直後、それは目の前にいた。
「あらぁシーリンさんじゃありませんかぁ」
「ちっ……何の用だ」
私と同じ、武闘派のエクスシア、アルカノ。
相変わらずの寝惚けた様な目に、卑しい肉の付いた体。怠けの証だ!
こんな奴に付いて行くアルカノ近衛隊なる有象無象共の考えが分からんっ、それに頼るアルカノもだ! これで第二翼などと、断じて認められん!
「いーえー? たまたま通り掛かっただけですよぉ? そう言うシーリンさんはー……また敗走ですかぁ?」
「敗走では無い! 奴等の巣窟を滅ぼした! 十分な功績だ!」
くすくすと卑しい嗤い。アルカノに着いて回る高々大天使程度の小娘も同じ様に嗤った。
「おかしいですねー? また鎧を壊してー」
「それは鎧が欠陥だったからだ」
「それに英雄はどうしましたー? 置いて来たんですかー?」
「模倣品の模倣品なぞ戦力にならん!」
「ふーん?」
アルカノは嫌味な視線で此方を見下ろす。
「……さっきから貴様、何が言いたい……!」
「いーえー? 私がデーモンロードと戦った時はー、全然傷付かなかったのになーと思いましてぇ」
「それは……!」
くすくすと笑いながらそう言うアルカノに、血が沸騰した。
「私がっ……弱いとでも言いたいのか……!!」
「いえいえー? 第一翼様が弱いなんてー、とんでもないですよぉ。ただ運が悪かったのかなって」
「貴様っ……! ぐっ……」
傷口が開き、走る痛みに呻く。
「あらら〜、早く休んだ方が良いですよぉ? 私は任務がありますからこれで〜」
胸を抑え、立ち去るアルカノ達を睨み付ける。
「クソッ!」
壁を殴り付けた。
鈍い音が響き、壁がひび割れる。
たかが地上の悪魔程度にっ……何故こうも上手くいかない……!




