第1話 能天使再降臨
第八位階下位
間も無く夜明けだ。
やや短い睡眠を取り、目覚めた僕は、早速アナザーにログインした。
即座に状況把握を行い、各方面が問題無く推移している事を確認する。
まぁ、当たり前と言えば当たり前だ。
僅かばかりのクエスト主催報酬を黒霧に送り、その采配に大半を委ね、竜や天使等新顔の育成状況を事細かに見ていると、それは起きた。
「……黒霧」
「転送済みです」
声を掛けるまでも無い。
旧遺跡の町、現古都インヴェルノの上空で、突如として空間の歪みが発生した。
歪みの大きさから、間違いなく転移魔法だ。
それは即座に、更に大きな歪みに飲み込まれ、全く別の場所に転送される。
行き先は、シテンの鏡面世界。
僅か一瞬の間を置いて、歪みは空間を繋ぎ、其れ等は現れた。
シーリン LV334MAX
四枚翼の天使。
天意軍十二柱の幹部、エクスシアのシーリン。
かつて遺跡へ天罰を下そうとし、あえなく敗走した割りかし判断の早い大天使だ。
彼女は前の3倍を越えるゴーレム天使と、他幾らかの天使の様な物を連れて、再度インヴェルノ上空へやって来た。
僕はゆったりその推移を見守る。
周囲をさっと見回したシーリンは、インヴェルノの位置や向きには何の疑問も抱く事は無く、ゴーレム天使達を急速に配置して行く。
空に大規模な三重魔法陣が描かれ、シーリンはその中枢で、前よりも明らかに強い聖槍を構えた。
「愚かしき背神者供めっ! 今こそ神罰の刻ッ! 『断罪の鉄鎚』ッ!!」
問答無用で聖槍から放たれた閃光は、その時点で既に前回のジャッジメントと同じ大きさの光の柱となり、三重の魔法陣を越える事でそれを更に増大させた。
——着弾。
目も眩む様な爆発、響き渡る轟音。
光が薄れ、見えて来たのは——インヴェルノどころか、王都や鉱山街が丸々消滅した大地だった。
地中から溢れたマグマと海水が混じり、唸りを上げる暴風と、巻き上がる水蒸気。
地上は正しく地獄絵図。
その地獄を作った張本人は、冷めた瞳で地上を見下ろす。
「……ふん、他愛無い……英霊軍には余計な借りを作ってしまったな」
さっさと転移で去ろうとしているが、僕はその、英霊軍の余計な借りに興味がある。
送り込んだのは、天武六仙が一人、アニス・ユース・アンスタン。
それから七聖賢の2人、レイ・セードーとノーレル・クレッヒア。
達人のレベル600オーバーを3人も送り込むのは戦力的に過剰だが、それは避け得ぬ事でもある。
何せ、見下ろしたそれ等、天使の翼と光輪を持つ、天使の様な何かは——
アニス・アンスタン エインヘリャル LV362MAX 状態:隷属
ノーレル・クレッヒア エインヘリャル LV510MAX 状態:隷属
レイ・セードー エインヘリャル LV557MAX 状態:隷属
——見知った顔をしていたから。
他にも複数いるエインヘリャルに見覚えは無く、レベルも精々100から200。
だが、大切なのはその魂がどうなっているのかだ。
是非詳しく調べさせて欲しい所。
まぁ、レイやノーレルの本物が此方にある以上、偽物なのは間違いないが。
取り急ぎ戦って見て、その後魂の回収で良いだろう。
天使の方は……試しに少し仕込みをして泳がせようか。
早速、戦場に降り立った3人が動く。
アニスが弱アニスを一撃で屠り、そのまま流れる様に雑魚ゴーレム狩りへ向かう。
対するレイとノーレルは、お互いの偽物と向かい合った。
「……うーん、マイナーチェンジ感」
「光輪がある、油断はするなよ」
自分等と向き合う2人に、シーリンは嗤った。
「はっ! 異形がッ、巣を焼かれてのこのこと這い出てきたか!」
少しはレベルを上げ、装備も良い物を付けて来たシーリン。しかし所詮はレベル300代で止まる練度か、2人の特段隠していない力をまるで見抜けていない。
「さぁやれ! 1匹残らず浄化しろ!」
シーリンの指示を受け、虚な瞳の偽物レイとノーレルが動いた。
弾かれた様に接近し、無数の剣戟が響き渡る。
次の瞬間——僅かな血が宙を彩った。
本物レイ君の血だ。
「ふんっ、多少はやる様だな……だが、それらは古の英雄! 何処まで抗えるか、見もの——」
そこまで言った次の瞬間、偽物レイとノーレルがバラバラになった。
溢れた血と肉片は、白い砂の様な物に変わり、落下と共に崩れ行く。
「……こんな物か」
「これが昔の僕……」
一応受けてみたノーレルは、そこそこ深い傷が付いた腕甲を見下ろし、同じく一応受けてみたレイは、ざっくり切られているけど骨で止まってる腕を見て、強化された昔の自分の余りの弱さに嘆いている。
まぁ、昔の自分と決まった訳ではないが、そこ等辺は魂を調べてみれば良い。
傷を直ぐに再生させた2人に対し、シーリンはここに来てようやくゴーレムも減ってる事に気付いた様子。
慌てた様な顔で指示を出した。
「っ……やれっ!」
その他の英雄が動き、レイ君達へ群がる。
白い粉となって一瞬で消え行くそれ等が作った隙に、逃げ足の早いシーリンは転移の魔法陣を展開し——
「根城は滅んだ! 次は貴様等だ!!」
捨て台詞を吐いて転移するその瞬間に——僕の狙撃が心臓付近を貫いた。
爆発的に広がった光が収まる。
弾けた僅かな血が、偽りの地上に落ちた。
ポツリ、ポツリと咲き誇るのは、何処までも鮮やかな、赤い花。
僕はさながら花を愛でる様に微笑み、何処とも知れぬ天を仰いだ。
「ふふ……」




