幕間 出来る事、出来得る限りに
第四位階下位
講義を受ける事で得られる物は大きい。
それが、ここ数日の俺の感想だ。
手鍋を揺らしながら、少し横を見る。
マリオネットがすり鉢で炭を砕き、ゴリゴリと小気味の良い音が鳴っていた。
「……どんなもんだ?」
問うと、マリオネットはその木製の手で、炭の粉を摘んだ。
サラサラと零れ落ちる物がある一方で、やっぱりまだまだ大きな粒が見える。
「まだ掛かるか」
そう言ってる内に、マリオネットが何処からか篩を取り出し、粉と粒を選り分けた。
貸し工房を使うのは初めてじゃないし、何処も同じ作りになっているが、物が多いから何処に何があるかなんて殆ど覚えちゃいない。
その点マリオネットは優秀だ。全部覚えてるし適切に使える。すげぇ器用で物作りに役に立つ。
炭を選り分けたマリオネットの小さな手が俺の手を抑えた。
そのまま鍋を傾けて、樹脂の溶け具合を見ている様だ。
マリオネットは一つ頷くと、擂り粉木を手渡して来た。
そろそろ混ぜ始めるらしい。
炭の残りを潰しつつ、マリオネットの作業を見下ろす。
溶かしたトレント樹脂に、投入するのはスライムの魔石とうさぎの糞を砕いた物。
トレント木材で作った炭も順次投入し、混ぜ合わせる。
講義によると、スライムの魔石は物質を硬化する作用が常時存在し、砕いた魔石は煮凝り的ゼラチン的な料理方面の使い道もあれば、元々粘度の高い物をより硬くしやすくする事も出来るとか。
なんか魔力を流すと言う工程を挟むとその硬化を一層早める事が出来るとかなんとか。
一応魔力を流すと言う作業は物作りにも戦闘にも効果的なので頑張っちゃいるが、もっぱらマリオネットの担当だ。
コイツは何でも出来る。天才かもしれん。
他方炭は、粒に空いた細かい穴に樹脂が入り、強度が増す。
うさぎの糞は、中にある消化し切れない強い繊維を樹脂に混ぜる事で、対衝撃性が上がる。
これで、簡易的だが接着剤の完成だ。
日持ちなんてしない、固まったらそれで終了なので、急いで次の工程に移る。
用意したのは、山の迷宮の一部地域で取れる針葉樹的な木材で作った矢柄だ。
何ならただの木で、トレント木材の方がレアだしそっちのが良くね? と思ったが、どうもトレント木材は重いし年輪も不揃いだとかで、マリオネット的には良くないらしい。
そんな矢柄に、ハケや筆で羽を付けて行く。これはまじで慎重な作業だ。
俺は少し雑破に付けて行き、それをマリオネットが都度微調整し、魔力を通して硬化させて行く。
実際に矢を使うのがマリオネットだから、そこら辺の調節は俺なんかより確実だ。
なんか羽にも拘りがある様で、風の残影イベントで大量にあった在庫の中から、鷲の風切り羽なる羽だけを残して使っている。
それが終わったら、鏃の取り付けだ。
使うのは、雑多な屑魔石。
今回作るのは、いつもの尖った魔物素材による単純な矢では無く、ちょっとだけ値が上がるが、マジで強力な矢だ。
小指の爪くらいの純度が低い魔石。それを削って小さいが尖った鏃にし、更に繊細に削って刻まれたのは、衝撃爆発の術式。
講義では幾つかの簡単な術式として、物質の硬化や含有魔力による小規模爆発、衝撃起動等他色々を教えて貰った。
今回使うのはその衝撃起動と爆発の術式テンプレを組み合わせた、講義でもやった程に基本的でシナジーある組み合わせだ。
矢に仕込むと飛距離が伸びるが、基本は破石みたいな手投げ爆弾に使う。
まぁ、屑魔石の爆発なんて正直たかが知れてる。刺さるだけよりマシって話だ。
そんな屑魔石も接着剤で取り付け、マリオネットが微調整&硬化。
これで、ハンドメイドそれなり矢が完成した。
早速一本持って、受付に行って見る。
「クロギリさん、鑑定相談おなしゃっす」
「はい……買取価格はおよそ1,800MCです」
「マジか」
マリオネットもびっくりして動きが止まってる。いやいつもの事か。
普通の矢が再利用可能で800MC、廉価で品質低め且つ壊れやすいけど殺傷力据え置きの矢は400MC、逆に丈夫で命中精度も少し上がるらしい矢は1,200。
そこからオプションをどれくらい付けるかで値段は全然変わって来る訳だが……1,800か……。
「……使い捨てですけど」
「その点を考慮しても、使用された素材、取り分けウインドイーグルの風切り羽がやや高価である為この値段になります」
「原価的な話かぁ……」
「また、ウインドイーグルの風切り羽は命中精度に大きく補正が掛かります」
「ほう」
マリオネットの見立ては正しかった訳だ。
「確実に当てると言う点では評価が出来ますが、当たる当たらざるを問わず必ず使い捨てになる所は多少の減点対象になります」
「成る程」
「改善点は……情報料として2,000MC頂くか、ギルド併設の図書房、各都市に存在する図書館、本屋等から情報を得る事を提案します」
「それはまぁ、払いますとも」
探しに行くのはダルすぎる。って言うか、本屋なんかあったんか。
「はい、確かに……改善点は、ウインドイーグルの風切り羽にウインドイーグルの魔石を砕いた粉を塗布する事です。スライム魔石粉と一緒に少量の水に溶かし、羽に塗布する事で命中精度を大きく向上させる事が可能です」
「成る程」
魔石の利用については他の素材加工でスライムの魔石を良く使うって事を聞いたぐらいだったが……同じ素材と同じ魔石を使えば効果を上げられる感じか。
「また、リスティアに存在するトレントの亜種、硬身樹の木材を矢柄に使う事で、対火性や対衝撃性が上がり、屑魔石程度の爆発ではびくともしなくなります」
「ほほぅ……トレントを矢柄にか……」
「硬身樹は他のトレントと違い、部位による重量比の差は殆どありません。良く乾燥させた後、硬身樹の魔石を溶かした水に24時間漬け、再度乾燥させる事で強度を大きく上げる事が可能です」
「な、なるほどぉ」
素材加工、奥が深いな……。
「……強度を増すのはスライムの魔石で代用出来たり?」
「可能ですが、保水性も上がる為、乾燥の工程が長期化ないし魔法使用による乾燥の必要が出て来る他、屑魔石の爆発には耐え得る強度ですが、硬身樹の魔石よりは劣ります」
「ふーむ……ありっちゃありか……」
確か乾燥の魔法符が千円だし、一応小ボスのカチカチトレントの魔石は3万とかで、リスポーンスパンと人気度、ドロップ率から考えると入手難度は……結構な手間だ。
その点木材はほぼ確定ドロップだし、クロギリさんに発注を出せば少しの手数料で直ぐに買える。そしてスライムなんて結構何処にでも沸く。
あぁ……そうなるとスライムの魔石は結構在庫が欲しいし、他にも木材とか魔石とか、物を置いとける場所がマジで欲しいなぁ……。
貸家借りるか? でも拠点作っちゃうとなぁ……どうせ住むならぽんぽん転居するより長く住みたいし。
クロギリさんを見ながら思案していると、その変わらぬ美人顔の口が小さく開かれた。
「……因みにですが、アイテム預かりサービスを現在調整中です」
「なっ……なんだと……!?」
……実際問題貸し収納袋と比べてどうなん? 値段と効果の比率が大事なのだぜ?
「予定しているおおまかな内容は、10ftコンテナサイズを1日1,000MC。取り出しは各地点にいる私にお声掛け頂ければいつでも無料で可能です」
「……な、なんだと……?」
サイズが良く分からんが大きそうで、取り出しはクロギリさんいればOK。そして何より収納袋と比べて凄い安価!
「ち、因みにサイズを詳しく」
「おおよそ幅3m、高さ2.5m程度です。内部の整理は不可ですが特別な指定が無い限り効率的に収納します。また期間が1秒でも過ぎて、取り出しが無い場合、内部のアイテムを徴収し1日分を賄います。徴収されたアイテムは同じ値段で買い戻す事を可能とします」
って事は、全部お任せで少し過ぎても実質ペナルティ無し、それなりに大きな物も預かって貰える便利仕様。凄い良い。
「より大きな物を収納したい場合は複数借りる事で可能です。冷蔵や冷凍保存時はそれぞれ2,500、5,000MCで受付致します」
「あー、確かにナマモノもあるか……」
「サービス開始日は未定ですが、近日中に開始します」
「その時はよろしくお願いします!」
いやー、良い情報聞いちったなぁ。スピリトーゾとか一とかにも教えてやろ。




