掌話 カナタより、見果てぬ最果て 三
第四位階下位
「はぁぁ……?」
やけに装備の整った集団が、続々と見上げる程の壁を飛び越えて行く。
まるで風が吹いたかの様に、それらは駆け抜けて行った。
「……」
「……」
「……」
……この高さを、ジャンプで……? 10メートル以上あるぞ?
「……跳躍系のスキルですかね? 足が光ってましたし」
「一番前の人、剣を2本持ってました。もしかして……双剣使い……?」
あんな高さをジャンプ出来るステータスの奴なんて、最近全く表に出てなかった双剣使いに違いない。
山の迷宮はボス部屋広場が事実上の天辺。
それ以上はあちこち回り込んでも崖に囲まれてて登れない。
その山の迷宮の上に、双剣使い達が軽々登ってった?
こんなん、何かあるに決まってる。
「山の迷宮の本当の頂上……」
「気になりますね」
「なんとかして行けないかな……」
フウカやスピリトーゾさんと一緒に上を見上げ、何か方法が無いかと考える。
例えば……門を開けて錘の付いたロープを投げれば門の上までは行けるか? 行ったとして、門の上から崖の上まではまだ距離がある。門の幅は広いけど足場としては心許ないし……。
「うーん……無理か……?」
「……行ける、かな?」
スピリトーゾさんの呟きにフウカが直ぐに反応した。
「スピリトーゾさんは何か案が?」
「うーん、案と言うか……ゴーレムに投げ上げて貰うのはどうかなって。失敗したら壁に激突ですけど」
「あぁ〜」
それは、どうなんだ? ゴーレムのパワーは分からんけど、スピードは遅いイメージがあるぞ。
「ちょっとやって見ていいですか?」
「あぁ、そりゃ勿論。俺も気になりますし」
「是非、ワクワクしますね!」
「それじゃあ……サモン」
スピリトーゾさんがカードを持ってそう言うと、目の前にゴーレムが出現する。
それも……ただのゴーレムじゃない。
「おっ!?」
「き、金属ゴーレム……?」
陽光を反射するメタリックな巨体。イベントの徘徊ボスと同じだ。
「あ、これ、さっき進化したばっかりなんです」
「すげぇ……」
「へぇぇ……」
実質ボスを従えてる様なもんじゃん……モンスターカードもっとしっかり強化しようかねぇ?
ゴーレムはスピリトーゾさんの指示を受け、大きく腕を引いた。
スピリトーゾさんはその手のひらに乗り——
次の瞬間——投石器の様に腕が大きく振られ、スピリトーゾさんが跳ね上がった。
「「おおおっ!?」」
スピリトーゾさんは山なりでは無く真っ直ぐ飛び、崖を掠めるギリギリで上にすっ飛んで行った。
「…………死んだんじゃね?」
「……崖の上に岩とかあったら流石に」
当たりどころによってはなんなら床でも死ねる。
少し待つと、スピリトーゾさんがよろよろと現れ、手を振ってくれた。
「おぉー、生きてた」
「ほっ……で?」
「……でだ」
手を振り返しながら、ゴーレムを見上げた。
……さっきのをやる訳? ……暴投したら、即死じゃない?
そうかと思っていると、ゴーレムがぱっと消滅した。
スピリトーゾさんが送還したんだろう。
「……1人で行っちゃうんかな」
「……いや、マジックバック漁ってるっぽいし、何かあるんじゃないかな」
フウカの言う通り、良く見るとスピリトーゾさんはバックに手を突っ込んでいた。
直ぐにその後ろでゴーレムが再召喚され、スピリトーゾさんが取り出したのは……ロープ。
確かに、そっちの方が全然楽だな。
降ろされたロープに掴まり、ゴーレムに引き上げて貰う事で、危なげなく崖を登り切った。
◇
距離と角度の都合上、下から上の様子を見る事が出来なかった山の迷宮。その崖の先は、何も無い斜面だった。
見上げればやや勾配のある坂道が続き、何十メートルも進んだ先で、ある時ぽっかりと道が消えている。
新たな崖か、それとも真っ平になっているのか。
果たして、駆け足で敵のいない斜面を登り切り、見えて来たのは、すり鉢状の砂地。そして——
——巨大なボスモンスターだった。
「はぁぁ!?」
「な、何あれ……」
「凄い……!」
体躯で言うと残影程では無いものの、間違いなくレイド級モンスター。
一見して山の迷宮のボスであるワームに見えるが、サイズ感がざっと十倍近くはある。
それに加えて、おそらくボスと同じと思わしきワームが、何十匹も砂地を泳いでおり、度々砂から現れては溶解液を振り撒いていた。
——地獄の様な光景だ。
下手をしたら、襲撃イベント最終フェーズ並みの戦力。
ボス部屋のワームが、凄まじい制限を受けていたのだと、自在に動き回るその様を見て、痛感した。
そんな地獄の中で、暴れ回っている連中がいる。
無数のボスを物ともせず、光を放つ剣や槍で次々とボスの群れを斬り捨てている。
明らかに普通じゃない。
PVの銀の天使とその配下に比べれば大した事は無いのだろうが、それでも比べられる程には尋常の状態には無い。
大剣士達や他の二つ名持ちも随分強いが、この集団を前には霞むだろう。
二つ名持ち達は一つの目標であり先駆者だが、目前に立つそれらは、一つ一つの到達点に見えた。
どれもこれもがあまりにも輝き過ぎていて、目移りして視線が定まらない。
そんな中で、左右から機械的な音が聞こえた。
宙に浮いているのは、撮影用の結晶。
パシャリパシャリと響くのは、画像スキルのシャッター音。
つい目に焼き付けようとしてしまったが、撮影が出来たんだった。
取り急ぎ結晶を起動して動画を撮りつつ、俺は俺でその光景をじっと見詰める。
フウカとスピリトーゾさんには悪いが、生で見れるのは今だけなんだ。




