掌話 カナタより、見果てぬ最果て 二
第四位階下位
掲示板に書かれてたクロギリさん勤務店の内、一食3万くらいのちょっとお高い個室付きの料理屋に入った。
勝利祝いも兼ねての身を削る出費だが、メインはあくまでクロギリさんの鑑定や相談だ。
「土神の残滓です」
「っし!」
「やった……!」
鑑定結果は、やっぱり土神の残滓だった。
降って湧いた幸運。棚からぼたもち。マジかよラッキー。
「やったねカナタ! どうする?」
「どうするったって、どうする?」
超高い激レアアイテムって事しか良く知らんけど、まぁ、なんか凄いらしい。まともな感想が抱けないくらい。
「買取ですと300万MC。オークションスキルによる取引では600万MCの値が付いています」
「「ろ、600……」」
顔を見合わせた。
狩場が広がったとは言え、人も今までの10倍いる訳で、実力が付いて来た今でも稼ぎとしては微増が良いとこ。
レンタルマジックバックとかポーションとか投資とリスク、ログイン時間を考えると、1日の稼ぎは精々50万行けば良いくらい。
襲撃イベントではそれを1時間そこらで稼げちゃう訳だが……一気に600万はやばいな……実質大体2週間分を先取り出来る訳で……最前線組の背中が見えるぞコレ。
「ど、どうする?」
「ど、どうだろうなぁ」
売るか? いやでも強化とかにも使えるらしいし——
チラリとクロギリさんを見ると、声を掛けるまでもなく応えてくれた。
「武具の作成、強化にも多大な効果を齎します。どの様な性能を付与するかにも寄りますが、全ての素材を持ち込みの上でも200万MC程度は掛かります」
「うへぇ」
「200万……」
200万……今自由に出来るのは50くらいで、今日の分売っても2人分で100いかないくらい? 少し足りねぇー。
でも、直ぐに届きそうではある。
再度フウカと顔を見合わせ、頷いた。
「武具強化の見積もり、出して貰っても良いですか?」
っぱ売るより使う方が良いよな!
◇
使えればだけどな……。
時刻は既に零時を回っている。
イベントを利用した転移で鍛錬島に降り、山の迷宮で狩を始めておよそ3時間少々。
夜とは言え、と言うか夜だからこそか? 人が多く、狩はあまり上手く行かない。
かと言って、人の少ない所は環境が過酷でどの道稼げない。
山は勾配とか段差とか崖登りとかあるからやり辛く、人の数は森とか湖に比べりゃ随分マシだ。
そんな中で3時間彷徨いて、ようやくおおよそ50万を稼ぎ、おまけにボス部屋の鍵の最後の1個を手に入れた。
「よしよし、順調!」
「マジックバック多めに借りといて正解だったね」
「ほんそれな」
やっぱりネックは安価な荷車とかを持ち込めなかったり荷物多いと歩くのが大変な点で、奥に行くほど人は少ない。
まぁ、今イベント中で大体の奴は2時間に一回イベントに行くってのもあるか。
その代わり敵も多く、被弾が多いのでポーション的な経費が……まぁ、誤差範だな。
「さ、て……取り敢えずボス部屋前まで行って、誰もいなかったら戻るか」
「時間的にいなくもなさそうだけど……いなくても引き返してる間に必要量は稼げそうだね」
「おう!」
コレで念願の必殺技習得だ!
◇
程々に戦いを経て、ボス部屋前広場に着いた。
流石に深部とあって雑魚でも強めだったり旨い奴が多く、追加で数万MC分の稼ぎになった。
そんなこんなで広場を見渡すも……。
「……いないかー」
「いないねー」
今殆どの奴はイベント中だしな。それでも1人2人いるもんだが。
ともあれ、いないもんは仕方ない。2人じゃボスは無理だろうし、引き返すかー。
そう思いながら振り向くと、遠目に1人、人影が見えた。
坂を登って来ているのは、知ってる人だ。
「……あれってスピリトーゾさんじゃない?」
「そうっぽいな」
間違っててもどの道交渉するし、大きく手を振ってみる。
すると、仮称スピリトーゾさんも大きく手を振ってくれた。
「……スピリトーゾさんだったら行けるな」
「装備付きのゴーレムって普通にボス級だもんね」
マジでそれな。武装付きのゴーレムとか、大型ボス相手にめちゃめちゃ強いだろ。早い奴には弱いだろうけど。
「……大剣士がゴーレム配備を検討してるって話し聞いた?」
「あー、動く防壁として有志と試験的に導入って話し?」
「そうそうそれそれ」
数が揃ったらきっと壮観なんだろうなぁ。
そうこう話してる内に、小走りで本物スピリトーゾさんが来てくれた。
「こんにちはーじゃなくて、こんばんは! カナタさんとフウカさんでしたっけ?」
「こんちはっす! カナタっす」
「フウカです。スピリトーゾさんお一人ですか?」
「はい、ここのボスなら1人で行けるかもなって」
「え!? 1人で挑戦するつもりだったんすか?」
「ええ、まぁ。寝る前に」
なるほど〜、デスペナはログアウト中もカウント進むからなぁ。
って事は、スピリトーゾさんも鍵全部持ってるか。
「因みになんすけど……直ぐに寝ます?」
俺の問いにスピリトーゾさんは少し考え、にこりと柔和に微笑んだ。
「あぁ〜……いえ、いつもこのくらいの時間に寝てるってだけなので、ボス戦2回とかも出来ますよ」
「あ、ありがとうございます。2人だとちょっと厳しそうで」
「ありがとうございます、もし誰も来なかったら下山する所でした」
上手い事勝てそうだし、報酬の話しとくか。
こっちがペアで活動してるって事を考えると頭割りはちょっとな……戦力的にもゴーレムが決め手になるだろうし、鍵はどっちも持ち込み。此処は半分が妥当かなぁ?
「報酬なんすけど、半々でどうっすか?」
「えぇ? まぁ、そちらが良いなら構いませんが」
「勿論、スピリトーゾさんの戦力当てにしてますからね!」
「それ言ったらこっちも御二人の戦力期待してますし」
「じゃあちょうど半々で良いですね」
フウカがきっちり締めてくれた所で、早速ボスに挑む。
広場の端から門の前へ歩み——
——ふと、視界の端で何かが動いた。
すわ、敵かと、ダンジョン探索で染み付いた反射で振り返り、同時にボス部屋前広場は敵が出ない安地だった事を思い出す。
そこにいたのは、見慣れぬ、複数の人影。
それらは瞬く間に広場を駆け抜け、見上げる程に大きなボス部屋の門が付けられた更に大きな崖を——
——飛び越えた。




