掌話 カナタより、見果てぬ最果て 一
第四位階下位
「これで終わってくれッ! ラピッドシザー!」
「ホーククロー!」
放たれた剣身のオーラが結晶へ突き刺さり、高く響く異音を撒き散らしながら結晶を削る。
それと同時に緑の大きな鳥が結晶へ鉤爪を突き立てた。
ポーション類はもう無い。これでダメだったら、もう……!
果たして——結晶は僅かに色を減じさせたが、砕ける事は無かった。
「くそっ」
「まだ足りないのっ?」
何か無いかと辺りを見回すも、そこに立っているのは俺とフウカだけ。
先の攻撃で皆死に戻りやら気絶やらになっている。
見回したそこ、木が組み合わさった床の窪みに、それはあった。
あれはッ、死に戻りのドロップかッ?
「来るよ!」
その声に、上を見上げた。
枝葉の天井に現れたのは、合計20数個の蕾。
その数が大体プレイヤーの人数だと言う事に今更ながら気付く。
それらの蕾は、瞬く間に花開いた。
「走れ!」
どれが此方を狙ってくるかは分かったもんじゃ無い。その狙いがかなり正確な事だけが事実だった。
打開のアイテム目掛け、ひた走る。
次の瞬間——物凄い衝撃が肩を打った。
「ぐぅッ!?」
もんどり打って硬い床を転がる。
視界の端で、青白い光が弾けたのが見えた。
上も下も分からない一瞬の中で、HPバーが2割も減るのを確認した。
同時に、フウカのHPがギリギリ残っているのも見えた。
必死に立ち上がり、目の前に転がる拳大の種を睨む。
「くっそ」
軽いが硬い種だ。放っておけば芽吹いて敵になるが、構ってられねぇ!
受け身が取れずに痛む手足を叱咤して、それを拾った。
「あぁーッ! くそッ恨むならボスを恨めよ!」
拾ったそれは、瓶の形的に上級マナポーション。
多分イベント用に奮発した奴だ。
上級マナポ高ぇんだよなぁー! 俺ももっかい買わなきゃ……。
その微炭酸な液体を呷り、直ぐに剣を構えた。
剣先を吊るされた結晶へ向け、武技を放つ。
「ラピッドシザー!」
ギャリンと凄まじい音が鳴るも、足りない。
長くは無い硬直が終わる前に、フウカに声を掛ける。
「雑魚をやってくれ!」
「頑張る!」
とは言えHPはミリだ、長くは持たない。
直ぐに次弾を放った。
種が芽吹き、根と葉が現れるのを横目に、更に1発。
種だった物が動き出すのを尻目に、また1発。
「死んでくれッ!」
そう叫びながら、もう1発。
「キャッ」
フウカの悲鳴が聞こえた。
パーティーメンバー欄のフウカのHPが灰一色に染まり、死亡状態になる。
青白い光が、あちこちで煌めいている。
「ぐっ」
衝撃が足を打った。
雑魚が群がって来るのに構わず、1発。
「がっ」
衝撃に膝が折れ、地面に倒れ込む。
手足に枝が突き込まれ蔓が叩き付けられ、葉が視界を塞いだ。
せめて最後の、一撃を。
僅かに見える視界の中、剣先だけを結晶へ向け——
「ラビッド、ジザァーッ……!」
——放ったそれは、結晶に罅を入れるに留まった。
……っぱ大剣士とか海狩りみたいにカッコよくは行けないかぁ……。
死が近付くその最中、ふと声が聞こえた。
それは遠くから響き、徐々に近付く。
「ィィィイッ——」
見上げた僅かな視界に映ったのは、蔓と枝を巧みに使い、猿の様に樹冠を駆け抜ける——
「ィヤッハァァーー!」
——森ヒャッホイニキの姿だった。
「うはっ」
森ヒャッホイニキの棘付きナックルが光るのを最後に、視界が暗転する。
……変な笑い出ちゃったじゃんよ。
◇
死に戻りから暫くして、襲撃イベントはクリアされた。
アイテムは使い尽くすし、お金は多少ドロップするしで割と散々な結果だったが、なんせ今回はボスに攻撃できた。
この攻撃出来るか否かってのは結構大きな事で、具体的にはボスドロップが報酬に入るか否かに影響があるっぽい。
そんな訳で、ゴトッと現れた2つの箱を、フウカと一緒に開ける。
中に入っていたのは、黄色の属性石とその上位らしき、おそらくエレメンタルジュエル、透き通った球体に、エレメンタルクリスタル、綺麗な双三角錐? みたいな結晶。
それに加え、ボスの木片らしき物と、同じくボスの物と思われる不揃いの結晶、それと倒した魔物の沢山のドロップ。
そんな中に、小さな宝箱が入っていた。
「おぉ?」
「うん、今回はボスにきっちり攻撃出来たから、ボスドロップも豪華だね」
フウカのホクホク顔を横目に、宝箱を取り出し、開けてみる。
「おぉ〜」
「ん? なに、え? なになにそれ?」
そこにあったのは、赤いクッションに鎮座する、透き通った黄色の球体。
心臓がばくばく鳴っていた。
残影と相対した時もこうはならんかったぞ。
「こ、これって……」
「まさかまさかの……?」
土神の残滓……?
「——や、や、そんな……いやでも宝箱だしぃ?」
わざわざ宝箱だもんな? マジかよ。
「や、絶対に、ねぇ? あー、どきどきして来た」
フウカも興奮気味に頬を赤らめ、手で顔を扇ぐ。
「と、取り敢えず鑑定して貰いに行こうぜ」
「そ、そうだね。取らぬ狸のって言うしね」
「そうそう、間違ってたらアレだし」
「うんうん、アレだね」
やや慌てつつ、大きな箱を閉じてクランインベントリに入れた。




