第59話 閉幕と新たな幕開け
第三位階下位
上手い具合に日が差した。
切り取った天蓋は黒霧が回収し、水が流れ込まない様に大地を操作して、日の光で日陰者共を殺菌消毒する。
彼等の夜は、永すぎた。
サンディアの絶大な支配により、日の光では早々死ななくなった筈なので、ここいらで一度くらい日干しにしてやろう。
差し込む光はまだ半分も地底を照らしていないが、やがて全ては光の元に姿を晒すだろう。
サンディアがふらりと落下を始める。
今度こそ、限界を絞り出したのだ。
成果は上々。
僕はレベル1の貧弱ボディのまま、周辺の魔力を一息に吸引し、念動力で落下の勢いを殺す。
今度は僕がサンディアを抱え、地底へ降り立った。
弱々しくも微笑みを絶やさない彼女を、撫でて労う。
のそのそとやって来たリブラへ、視線を向けた。
「……」
「……」
暫しの沈黙。リブラはゆっくりと口を開いた。
「……一つ、聞いても良いか」
「構わないとも」
「……」
また、沈黙。その瞳は少し、悲しげに伏せられていた。
「……死した者達は、其方の眼鏡にはかなわなんだか?」
「生き足掻く気概が足りなかったからだ」
越えられない試練は与えない。越える為の努力が足りないだけの話だ。
「一部邪魔だから御退場頂いた者もいるがね」
「……そうか」
飲み込み難しを飲み込まんとする、まともな感性のリブラに、僕は続けた。
「君達の弱さも含め、そこら辺はこの後ブラッシュアップして行こう。幸にも邪悪顕現の余波は魂に直接ぶつける事が出来たし。状況はそう悪くない」
邪神には遠く及ばなくとも、貴重な経験だからね。
サンディアの支配共々しっかりと受け止めて貰った。
気絶と言う逃げ道も無い上に肉体と言う防壁も無いので、寧ろダメージが大きいだろうが。
「な、にを言って……彼等は死んだのだぞ」
「貴重な戦力だ、蘇生くらいするさ」
「蘇生…………?」
まぁ、戦力と言うには甚だ疑問だが……サンディアの指揮下として大きな手間にならない即戦力であるのは確かだ。
リブラは困惑した様子で言葉を紡ぐ。
「蘇生など……出来る筈が無い……体の欠片すら残っていないのだぞ……!」
断言する彼女に対し、僕は敢えて見下し、明言する。
「そう思うならそれが君の限界だ。精進したまえ」
大丈夫大丈夫。スペックは十分だから、後は知る事と慣れる事、たったそれだけの話だ。
僕は内心をそのままニコニコと微笑みながら、サンディアを抱えてリブラの横を通り過ぎる。
少し距離を取ると、ふと、影が差した。
見上げた空に浮かぶのは、後処理に駆け付けた黒霧軍団。
対ディアリード用に動かしたのは、レベル700クラス黒霧50体にレベル600クラス黒霧100体。
十分な武装を持つそれらは、どちらか一方でも吸血鬼達を封殺し絶滅させるのに十分な戦力だ。
足元で空間転移魔法陣が光を放った。
不意に僕は振り返り、リブラを見る。
呆然と、あまりの脅威の出現に目を見開いている彼女に、軽く手を振って——
「また後でね」
——暫しの別れを告げた。
◇
帰還後間も無く、本体との同期、もとい同化を始めた。
今回も、一部ザコッパになってしまった侯爵とかいたが、ほぼ完璧な仕上がりと言えるだろう。
……まぁ例の彼も自らの未熟さと見識の浅さ、目算の甘さ、即ち身の程を思い知れただろうし、むこう数百年はモチベーションになるに違いない。
結果を見れば完璧だ。
それに、パッと見て強い公爵達やそれ以上の王達以外にも、大きなポテンシャルを秘めたダンピール達を徹底的に扱く事が出来た。
流れ行く無尽蔵の情報に身を委ね、魂の深淵へ同化する。
支配地、プレイヤーの動向、配下の状況、共に順調順当。
新しく人が増えるが、収容所の設置も完了しているし、配置計画も完成している。
吸血鬼達は、取り急ぎ最低限の状況理解だけ進めて、一時収容所にて順次教育を施す。
後は……特段ディアリードから変なちょっかいを受けては……ん?
……天使の襲撃があったの……?
第十六節:第一項、吸血鬼の攻略——完




