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【書籍化】錬金術師ユキの攻略 〜最強を自負する美少女(?)が、本当に最強になって異世界を支配する!〜  作者: 白兎 龍
第一章 Another World Online 第十六節 エルダ帝国の攻略

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第57話 夜明けの舞台

 



 ふわりと宙に浮かぶ。


 心まで浮かび上がる様な笑み。その視線は手元に向けられていた。



 青白い球体。それは本体には劣れども、間違いなく高品質の蒼銀だった。


 重要なのはエネルギー総量では無い。


 その濃度であり、性質であり、融和性だ。



 それは彼女の主が、彼女の為に作った、エネルギーの結晶体。

 宝珠オーブを魂に取り込むよりも深く、そして広く、それは魂に融和する。



 正しく宝物のそれを、胸に掻き抱いた。



 じわりと、浸透する。


 じわりじわりと、広がっていく。



「……♪」



 体が震える。


 細胞が歓喜する。


 肉体を、魂を構成する全ての因子が絶叫する。



 ——深く、深く、満ちて行く。



 大きく、大きく、広がって行く。



 暫し縮こまって震えていたサンディアは、徐に懐から一升瓶を取り出した。

 真っ赤な液体が詰まったそれを、ぐいっと傾ける。



「ゴキュッゴキュッ!」



 凄まじい音を立ててそれを一息に飲み下した。


 拡大した器に、親和性の高いエネルギーの充填。

 口元から滴る血を拭い、その手をぺろぺろ舐め、サンディアはご満悦だ。


 質の高い蒼銀を魂に取り込み、髪色がいっそう青白くなったが、それ以外に大きな変化は無い。


 ——そう、足りないのだ。


 次のステージへ進むには、後少し、伝説が足りない。


 そして、それは今日、手に入る。



 一千年の永きに渡り、統治され続けた永久とこしえの国。


 その地を統べた、帝王達。


 淀み、揺蕩う、無明の衆愚。



 故に吹き溜まる、永遠とわの信仰。



 それだけあれば、足りるだろう。


 理想に手が、届くだろう。



 彼女は鼻歌交じりに、目に付いた石ころを蹴りに向かった。





 噴き上がる邪気に、確かに恐れがあった。


 だがそれも、交わり、身に宿す事で無くなった。


 鳴り響く警鐘は常闇と消え、残った物は、僅かな警戒と、増大した力による全能感だった。



「は、はははっ!」



 ウェンザードは嗤う。



 鞘走る小刀から邪気が膨れ上がった時は不味い物かとも思ったが、身を一つにしてみれば拍子抜けだ。


 大きな力ではあるが、御し切れる力。


 力が大きく跳ね上がり、満ちて行くのを感じていた。

 これならば、最早ヴァンディワルであろうと敵では無い。



「この力なラッ、お前らノ神ニも届クかァッ?」



 邪悪の出現に対して動揺した様子を見せないアスフィンは、ただただ悲しげに呟いた。



「……貴殿程の武人が、その程度の事も分からなくなってしまうのか」



 哀れみの視線。その意味を問う前に、それは目前に現れた。



 月光を纏う銀の髪。


 血よりも鮮やかな赤い双眸。


 暗闇にあって尚透き通る様な白い肌。



 その幼げな器から迸る、あまりに巨大な力の気配。



 軽やかに、降り立つその様は、まるで、星が降りて来たかの様だった。



「……オまぇガカみカッ……!」



 少女は胸を張り、頷いた。



 ——次の瞬間、赤黒い刃と赤い刃が衝突した。



「ハハッ!」



 余波が壁や天蓋を崩落させる。


 莫大な力の衝突だと言うのに、小揺るぎもしない神を前に、ウェンザードは高く嗤い——ナナメにずれた。



「ハハ、ハ……?」



 目前にいて、鍔迫り合いをしていた筈の神が、いなくなっている事に遅れて気付く。


 あまりの衝撃が意識を打ち据えた。


 永き時を堕落して来たとて、刹那の交錯で何も分からないなぞ、あり得ない。



 体を蝕む強靭な魔力が邪気と対消滅し、己が魔力で肉体を再生させながら、ウェンザードは思考する。



 やたらと体を包んでいた興奮が——冷え込む。


 その段になって、彼は初めて、視野を狭窄させる無数の雑念に気付いた。



 いつの間にか、叫びが聞こえていた。


 いつの間にか、怨嗟が響いていた。



 邪魔な雑念が、意識を覆っていた。



 ——五月蝿うるさいッ!



 一喝する。


 意識に響く声が、柔な雑念の群れを打ち払う。



 それは一つの奇跡であり、予定調和。


 意識を覆い、感覚を蝕み、多くの誤認を植え付け、その魂を支配しようとしていた邪気は、達人の一撃を受けた武人の歓喜・・を理解出来なかった。


 それが支配の分水嶺。



 ウェンザードは哀れみの意図を悟り、己を恥じて、猛省した。


 振り向き様に放った斬撃は、先に倍する鋭さで、サンディアへ迫る。

 ウェンザードを支配しようとしていた邪気は裏方に周り、少しでも多く生者を削れる様、ウェンザードを援護する。



 鋭く強固な斬撃は——サンディアの指に摘まれ、停止した。



 何の反動も無く、何の破壊も齎さない。


 その光景に、ウェンザードは背筋を震わせた。



 武の極点。頂きがそこにある。



 じわりと、指を伝って流れた銀の光が、邪気を祓う。


 即座に再生成した血の剣で、次の斬撃を打ち込む。



 それは大きく、空を斬った。


 剣の腹に添えられた指が、斬撃を大きく逸らしたのだと気付く。



 いつしか、未だに纏わりついていた雑念が消え、意識が鋭敏化して行く。



「ハハ、はははッ! もっと、もっとだ……!」



 もっと見せてくれッ、頂点をッ、その技をッ……!


 まるで英雄譚をせがむ子供の様に、無邪気に振るわれる斬撃を、サンディアは自在に止め、逸らし、避ける。


 振るわれる毎に、何処までも鋭くなる斬撃はしかし、ある時急に、終わりを迎えた。



 彼にとってそれは、何処までも続く武勇伝の途中。


 まるで、子供はもう寝る時間だとでも言うかの様に、最後の斬撃が胴を斜めに、切り裂いた。



 もう再生はしない。


 短くも濃密な戦いの最中、全ての邪気が取り払われていたが為に。


 強過ぎる格上の真気を、ウェンザードの気では打ち払えぬが為に。



 斬り捨てられ、地に倒れ行く彼の顔には、喜びがあった。



「ははっ! 見えた! 見えたぞーッ!!」



 今際の冴えに、歓喜で震える気狂いに、サンディアはパチリとウインクし、親指を立てて見せた。



 

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永遠未完『魔物解説』……ネタバレ含む。

よろしければ『黒き金糸雀は空を仰ぐ』此方も如何?
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