第54話 昏迷の舞台 三
第六位階上位
あちこちで敵が死ぬ事により少しづつ上昇しているレベル。その増大するアビリスキル枠を知覚能力に振り、戦いを観察する。
瞬きの間に交錯するのは、サンディアの血と影と剣、そしてリブラの血と影と雷と水。
基礎の魔力質はレベルに準拠し、手数においても装備の補助でリブラが上。
サンディアはより一層魔力を練り上げる必要があり、手数を増やす為に演算を行う必要がある。
だと言うのに、サンディアには十分な余裕があった。
湧き出て飛散したサンディアの血はリブラの殆どの攻撃を弾き、剣と腕がリブラの血を受け止めては摘み食いを繰り返す。
捕食と言う無駄な演算をしながらも、終いには影が弾幕の隙間を狙い澄まし、リブラへ直接攻撃を仕掛けている始末だ。
事此処に至れば、僕もそろそろレベルで力を測るのを止めるべきだろう。
経験則だがおそらく、レベルで力を測れるのは、およそレベル700までだ。
それ以降は、想定値に大きなズレが生じる。
——何故か?
これもまた、簡単な話だ。
レベル限界は、戦闘経験のみで上がる物では無い。
成る程、確かに、長く生き残るにはそれなりの戦闘能力が無くてはならない。
よって、レベルが高い者は生き残って来た実績。戦いの歴史がある。
だが、それと同時に、その生には戦い以外の経験もまた多く詰め込まれている。
それに対し、急速にレベルアップしたうちの子達はどうだろう?
ひたすらに戦闘だ。
そのレベルは、その生は、戦いで出来ている。
1,000年生きてレベル800と戦闘だけして生きてレベル750では、後者の方が強いに決まっている。
勿論、レベルが上がる事で耐性や保持魔力容量、その質等が上がり、レベルが上がれば上がる程強くなって行く。
装備も、試練級の装備とあっては、その魔力保持容量も錬成される魔力の質も高く、戦闘の補助装置としては正しく最高峰と言って良い物だ。
ただ、サンディアは、魔力の質でそれ等を大きく上回り、質を支える莫大な演算力とそれに特化したスキル練度で、格上且つ魔力量も5倍近いリブラを事実上圧倒していた。
言ってしまえば、サンディアは今の僕だ。
本体から分離し、十分の一にも満たない演算力の僕。
その素体をレベル750まで上げたのが、今のサンディア。
何か手を打たないと、練度の大差ですり潰されるぞ?
そう思った次の瞬間、リブラの声が響いた。
「武威を示せ! アリエスッ!!」
刹那、リブラは淡く金色を纏い、赤い霧を爆散させた。
かなりの高濃度な血の霧だ。
そうと思う内に、赤い雷が迸りサンディアの剣がそれを迎撃する。
幾度も鳴り響く雷と金属音。生じる余波が大気を揺らし、天蓋が少し、崩落する。
僕の知覚を振り切るそれは、見えはしないが読めはする。
赤い雷はリブラだ。
角に尾、翼を生やし、竜人化した上に霊体化して、魔力の基礎質を一段上げると同時に高速移動が出来る様になっている。
赤い霧の中はリブラの領域だ。
これが彼女の切り札だろう。
アリエスの対象となった白天羊と竜血鬼の力を組み合わせた、瞬間的な能力の爆発的増大。
それは一種の、神域だ。
蜃が自力展開した霧の神域と比べると術としての強度は劣るが、それを肉体の性能で十二分に補っている。
これには、サンディアも摘み食いをする余力は無い様で、ギアを一段引き上げた。
必中時にしか使わなかった影を霧への防御に使い、血を操って周囲の攻勢魔力を粉砕、闇色の剣を作り出し、二刀流で赤い雷を捌いている。
赤の雷は見事な物で、闇の剣を数度の交錯で破壊している。まぁ直ぐに作り直される訳だが。
雷の余波は防ぐより受けて分解する方が効率的の様で、この状況に置いてもサンディアはほぼ無傷と言って良い。
残念ながら、リブラはサンディアの修行相手としては中の下の様だ。
……だが、リブラの修行相手にサンディアは有効だ。
そして、全力を出し切っている今こそが、彼女を成長させる最高のタイミングなのだ。
「……サンディア」
ただ一言、小さく呟く。
それだけで、雷鳴轟く赤い渦の中心に立つサンディアは、理解した。
彼女も上に立つ者の一人。やるべき事は分かっている。
ギアが、また一つ上がった。
仙気混じりの真気はより純粋な真気となり、それでも尚神気は使わない縛りプレイ。
言うなれば、神気を使わない全力。
リブラが、未だ追い付ける可能性がある領域。
赤い霧は叩き付けられる攻勢魔力により忽ちに薄れ、速度と手数で押していたリブラは攻勢を増した血と影の乱舞により押し返される。
先程まで破壊出来ていた物が、先程まで押し込めていた物が、急に勢いを増し、壊せなくなる。
それに焦ったか、リブラは叫んだ。
「アリエスッ!! 真価を見せよッ!!!」
試練の装備はそれに応え、魂を削りながら質を僅かにでも押し上げる。
同時にリブラも、魂から力を捻出し、更なる竜化と共に角が結晶質へと変化して行く。
魂の操作。それは魂魄表層を操作する、真気法の領域。
戦いは激化し、力を小出しに上げて行くサンディアへ追い縋る。
そして——
——邪悪が胎動した。




