第53話 昏迷の舞台 二
第六位階上位
上空をゆるりと移動し、城の上まで来た。
そこに待つのは、リブラ・ドラクル。
そうこうゆっくりしている間に、各地で標的との戦闘は激化している。
まぁ、予定は所詮未定だが、概ね予想通り進むだろう。
宙を舞う白い少女の前で止まる。
少女は、僕をじっと睨み付けた。
「……貴様……曲がりなりにも一度主と仰いだ相手を裏切ったか」
「誰かを主と仰いだ事は一度も無いかな。血は拝借したけどね」
「戯れ事をっ」
静かな怒りを宿す少女を改めて良く見る。
全体的に白い少女だ。
特段色進化系では無いのは、それが持つ属性から分かる。
聖や光の属性を持っていない事から、元々はアルビノ個体であったと考えられる。
そのルーツは、旧ベルツ大陸で起きたマレビト招致、レイド・オブ・ウォーズ。通称レイウォーの、マレビトによる召喚術で生成された個体ないし、従魔術で使役された個体であろう。
何にせよ、マレビトの加護の影響下にあった事は疑い様の無い事実だ。
論拠は、彼女が保有する、彼女用に換装されたであろう試練の装備である。
大方、アルビノ個体を珍しがって捕獲したか、運良くそう言ったレア個体が生成され、希少性から大切に育てられた物と思われる。
そんなリブラ・ドラクルは、赤い瞳に赤の魔眼因子を保有している。
それはほぼ開眼に至っており、赤の力が永い時の中で彼女の魂を最適化している事は想像に難く無い。
容姿は僕と程近い身長と長く白い髪、赤い瞳から、ペルセポネと符号がほぼ一致するが、ペルセポネが垂れ目気味で半目なのに対し、リブラは吊り目気味でぱっちり開かれている。
半ば幼女と言っても過言では無い彼女のこの国における立場は、帝王ヴァンディワルの妹。
王妹殿下であり、その実力は帝王ヴァンディワルより一段下の公爵級だとされている。
だがその実は、帝王ヴァンディワルより一段上だ。
纏う装備は、最初から全力の試練装備、アリエス一式。
白地に黄色が走る派手なワンピース、雷霆咆哮に、同じく派手な雲の様なデザインの靴雲蒸竜変。青い線の走る籠手天之瀑布。
頭上には藍色のティアラ、暴渦天環が、胸元には涙滴結晶白天羊の魂が輝いている。
一見した基礎性能、レベル800クラス。
それに加え試練の装備を纏ったその想定戦闘力は、レベル850にも至る。
更には、赤系統の魔眼を持つ為、あくまで850は最低ラインだ。
それに対するは、吸血鬼方面軍最高戦力、サンディア。
レベルは750であり、装備はコレと言った物が精々月紅宮のみ。
後はサンディアの進化に合わせ、完全に取り込まれ進化を果たしたサンディアよりは劣る程度の剣や服だ。
そこだけを切り取って見ると、その戦闘力は800に届かないと言える。
増してや、サンディアはつい今し方レベル700クラスのアンテを下したばかりであり、消耗もある。
絵面だけ見たら万に一つも勝ち目は無い。
リブラはその吊り目を更に吊り上げ、サンディアを睨み付けた。
対するサンディアは、ニコリと微笑み首を傾げる。
「っ……童女の見てくれでとんだ化け物よ」
アンテをヤッたサンディアの剣を見て言うリブラ。自己紹介かな? もしくは振る舞いを見ての判断か。
正しく抜き身の剣が如く、戦意を滾らせながら、リブラは会話を続ける。
「貴様等は何故此処に来た! 答えよ……!」
サンディアを睨み、サンディアに剣を向けるリブラに対し、サンディアは剣で僕を指した。
取り敢えず構図がおかしくなるから剣で指すのはやめなさい。
返答は慎重に、彼女が納得し、死力を尽くして戦える様にしなければならない。
色々と考えてはいた。
例えば、レミアが上手い事竜血鬼に覚醒したので、名前を付けられなかった復讐の手伝いでこの国を滅ぼすとか。
例えば、王国に来ていた吸血鬼が目障りだったから全て滅ぼすとか。
だがまぁ、行動に整合性を持たせ、尚且つ一般的な感性を持つリブラに気持ち良く全力を出して貰うには、ちゃんとリブラの立場も理解してやらねばならない。
つまり——
「最高のショーだったよ」
僕は微笑み、リブラを見下ろす。
「無意味に戦い、死に急ぐ莫迦者。格上相手に勝てると思い込んだ愚者。技術を極めたつもりの魯鈍。歩む道も分からず苦しむ道化」
嘲笑う様に微笑み、見下す。
「君達が無様に足掻く様は、とっても面白かった」
「……外道め……!」
本当に良かったよ。強いて言うなら第二幕はもうちょっと頑張って欲しかったな。
これでも戦うには十分だが、降伏と言う退路はきっちり絶っておこう。
「レベル上げのおまけにしては良い物だ」
マレビトの配下だったならば、この意図くらい分かるだろう。勝たねば終わる。当たり前の事だ。
まぁでも、クエストクリアで貰えるであろうボーナス経験値よりもおまけの拾い物の方が良い物だと僕は思うけどね。
おまけがメイン。良くある話である。
「ふんっ、そう言う事か、良く喋る眷属かと思ったら貴様、テイマーだな?」
「そうだよ」
そうそう。配下の子達全員が一斉に襲い掛かって来ても退けられる手前、テイマーメインじゃないけどね。
得心が行った様子のリブラは、牙を剥いて吠えた。
「浅慮なマレビトめっ、貴様の邪智暴虐、此処で潰えると知れッ!」
怒りを宿し振るわれる血の刃を前に、僕はサンディアへ合図する。
「食べて良し——」
——刹那、無尽の刃が交錯した。




