第48話 蒙昧の舞台 二
第六位階下位
フォーレンvs.セバスチャン、及びサンディア軍幹部+αvs.猛虎会の激戦必至な戦場を見つつも、僕は一つの約束を果たしにそこへ向かった。
付き従うは、吸血鬼方面軍最高戦力、サンディア。
これは致し方ない事なのだ。
何せ彼女となった元彼は、肉体と魂の完全な定着と安定が未だ果たせず、端的に言って不安定で弱々しい。
魂を絞り切るには極めて悪いタイミングである。
何より、此方のレベル700オーバーな吸血鬼が5体しかいないのに対し、敵は6体。その内2体はおそらく800にすら届き得る。
一番弱い子には拘っていられないのだ。
……まぁ、レベルの話をしたら、吸血鬼メイド部隊全70名はレベルにして680を越えており、野良の700程度なら普通に渡り合えるのだが。
まぁ、彼女等には蒼血会と白百合の騎士に立ち塞がると言うタイセツなオシゴトがあるので仕方ないのだ。うむ。
レベル500くらいの強化兵が相手なら、2対1で余裕があるくらいだろう。
総数150を相手に70では若干足りないが、そこは鍛え上げられた技と研ぎ澄まされた連携を御覧じよう。
そんな訳で、全体的な質は高いものの大将が弱い鳥の一派には早々に御退場頂く。
僕は門の前に降り立ち、昨日と同じ少女にニコリと微笑み掛け、指をさした。
すると少女は門に触れ、次の瞬間、夜を彩る赤い花になった。
胴を穿たれ地に塗れた少女の横を通り、砕けた血濡れの門を踏み越える。
少し、灰が舞った。
現れたアンテは、大きく開かれた目で、僕を見る。
「……な、んで……?」
僕は変わらぬ笑みを浮かべ、口を開いた。
「約束したからね。捕まえに行くって」
僕は両手を広げ、アンテを見下ろす。
「捕まえに来たよ」
次の瞬間、遅れて現れたエレノアが牙を剥く。
「アンテ様! やはり此奴は敵! 得体の知れない勢力の間者に違いありません!!」
即座に生成された血の刃の質は……やはり、期待通り、エングレイのそれを超えていた。
アンテの元、一種競争する社会が形成されていたのが、鳥の一派を此処まで引き上げたのだろう。
僕は笑みを深めた。
「私が斬りますッ……!!」
そう言って踏み出したエレノアへ、サンディアは銃を模した手を向けた。
バチコーンと星が飛ぶ様なウインクと共に放たれたのは、血の弾丸。
それに対し、エレノアは咄嗟に血の刃を防御に使った。
……此処らへんに、格上や同格との戦闘経験の無さが出るね。
自らの防御で対処出来ない攻撃を受けた事が無い。
万一抜かれても、再生出来ると思っている。
相手が得体の知れないモノならば避けるべきだったし……残念ながら避けようとしても避けれる攻撃では無かった。
ドパンッと水が弾ける様な音が響いた。
「……な……にが……」
直径僅か数ミリの弾丸は、エレノアの胸に風穴を開け、エレノアを急速に灰へと変える。
エレノアは自らの死を認識出来ず、何も言い残せないまま灰の山となった。
アンテは、此処に来て、ようやく、敵を目に映した。
刹那、極大の魅了を宿した魔眼がサンディアへ向けられ、血の剣が逆袈裟に抜き放たれる。
迸る斬撃は天蓋へ当たり、生じた余波は、複数の迷宮により強化されているその天蓋を大きく破壊した。
中々の瞬発力。しかし残念ながらレベル相応の力では無い。
サンディアは斬撃をしゅわりと回避し、音も無く、一筋の赤い残光を残した。
「は、ぁ……?」
空気が抜ける様な声を出し、アンテの上半身が後ろへ倒れる。続けて下半身が崩れ落ちた。
綺麗な切り口から血と臓器が溢れ、それもまた、エレノアの時とは違い、ゆっくり灰に変わる。
これでレベル700に迫る強者、か……まぁ、こんな物か。
僕はアンテに歩み寄り、その頭を抱えた。
「……ねぇ、アンテ、がっかりさせないで」
「ぁ、う……なん——」
僕は目を伏せ、囁く様に言った。
「——僕を助けてよ」
これからね。
「っ!!」
目を見開くアンテ。
サンディアは半目で肩を竦めて見せつつ、その実良く分かっている。
不意に、サンディアは、躊躇なく、血の刃を抜き放つ。
鋭い一閃。それは、僕ごとアンテを斬るコース。
刹那——アンテは僕を押し除けた。
放たれたのは、芸のない血の剣。
何かしら意思がしっかり定まったのだろう、その威力は爆発的に上昇し、先に倍する勢いでサンディアの一振りと衝突した。
「ぅぁあッッ!!」
血で体を固定し、咆哮と共に放たれるその斬撃……の勢いを十分に受け止めて、必要量だけ残したサンディアは、弾かれる様に回転し——
——アンテの首を斬り飛ばした。
「ぁ——」
今度こそ本当に空気が抜ける様な音を口から出したアンテ。
その首が地面を転がり、僕は素早く、それを拾った。
落ちた首を掲げ待ち、視線を合わせてニコリと微笑む。
「アンテ、カッコよかったよ」
「っ!? っ?」
もはや訳が分からぬと開かれた大きな目。
そんなアンテへ、僕は小さく囁く。
「またね」
ニコニコ笑みを浮かべたまま、アンテの頭を撫でた。
それはやがて、灰へと変わり、ざらりとそれを撫で潰す。
最後に良い働きをしたな。
そんな事を思いつつ振り返る。
「さぁ、行こうか」
ブンブン剣を振るサンディアへ、僕は次の標的を指し示した。
目的地は、王城。
相手ももう、準備は万端だろうからね。




