第47話 蒙昧の舞台
第六位階上位
第二幕はとても残念な幕引きとなった。
第一幕が大成功に終わった為に、尚更残念で仕方ない。
エングレイ君はそこそこやる奴だと思っていたが、結局そこそこやる奴でしか無かったのだ。
或いは彼に、捨て難く、変え難い、己以外の何かがあったなら、結果は変わっていただろう。
魔力を貯めて練った身体強化は、野趣溢れる、もとい、まぁ、稚拙。
力に物を言わせた強化であり、やはりと言うか練りも甘い。
種を極めて来た筈なのに、魔力を限界まで練り上げていないのだ。
操血も然り、操影も然りだ。量ばかり気にして、質を出来得る極限まで鍛えようと言う気が無い。
もしくは、量が多過ぎて管理が出来ず、質を上げきれていない。
まぁ、フォーレンが強くてエングレイ君に付き合う気が毛頭無いと言うだけの結果だった訳だが。
後は、負の化身を近場に置いておきながら、意外にも境遇の近しいオーダンを見逃す様な人らしさが、フォーレンにもまだあった様だと言うくらいか。
と言う訳で、第一幕、窮鼠の逆襲に続き、第二幕、反逆の牙がぽりんと折れた所で、第三幕、並びに第四幕を始めよう。
初動の第三幕は、題して、唾棄する乱逆。
フォーレン、君の研究結果、血と汗と努力の結晶を、是非是非見せて貰おうじゃないか!
僕はサンディアへと手を振って、開幕の威圧は放たれた。
◇◆◇
フォーレンは茫然と呟いた。
「……なんだ……何が来たッ……!?」
突然の力の出現。
それは、吸血鬼達の公にも匹敵するか凌ぐ程の強者の群れ。
度重なる戦いに、フォーレンは思考を巡らせる。
何故此処まで争乱が続く……! ……まさか、暗躍していたのか!?
だとすると、敵の狙いは? ダンピールと虎の門下をぶつけ合わせ、エングレイに俺を襲撃させた……まさか——
——刹那、雷が迸る。
屋敷の地下を狙った霹靂の強襲に、フォーレンは敵が誰か理解した。
セバスチャンかっ! それも研究所への攻撃……!
ヴァンディワルめっ、小娘どもの出奔はブラフっ、外部の戦力を掻き集めたかッ!!
いつ計画が漏れたっ? いや、まて——
フォーレンはそこまで思考し、ようやく気付く。
現れた複数の敵が、各地に分散している事に。
そこには、黒幕と目したヴァンディワルも含まれている事に。
どう言う事だ? 狙いは俺では無い?
敵の狙いが分からん、だがどちらにせよ、奴を止めなければ……!
フォーレンは影を伝い、迸る雷を回り込む。
阻む尽くを塵へと変えて迫るセバスチャンの雷撃に対し、フォーレンは影の大壁を生成して迎え撃つ。
激しい音と光の嵐。
唸る雷撃は影の大壁を削り取り、僅かな交錯の末、雷が弾けた。
バチリバチリと残留する電撃が跳ねる中、セバスチャンは泰然と立っている。
フォーレンはその姿を見て、愕然と言い放った。
「……貴様、一体……一体何に出会った」
一目見て、その異様な練度に気付いた。
——一千年。
一千年の月日を掛けて、吸血鬼の帝王達は力を磨いて来た。
他を圧倒する強大な力だ。
そこまで至るのに、一千年の月日が掛かった。
凡ゆる手を尽くした一千年だった。
フォーレンは怒りに震えた。
僅か数日だぞッ、一体どうして差が出来るッ!
そう簡単に力が手に入るならば、どうして……どうして俺はッ……!!
指先の赤く光るリングを見下ろした。それは枯れない怒りの象徴。
そして……尽きない悲しみの象徴。
耐え忍んだ一千年を、それでも尚足りないが故の犠牲を、まるで無意味と言わんばかりに立つセバスチャンへ、フォーレンは咆哮した。
「答えろッ! セバスチャンッ!」
セバスチャンは少しの哀れみと共に、指を天へ向けた。
「——神に」
それは、静謐に、敬虔に、ただ訓示するかの様に。
フォーレンは目を血走らせて咆える。
「神だとッ!! そんな物が本当にいると言うのなら、これくらいは越えて見せよッ!!」
神なき夜道を歩んだ己を否定されない様に、神を全力で否定する。
未だ、その時では無いのだとしても。
今、行かなければ、己の戦う意味が無い。
掲げた指に覗く赤い宝石が、輝く。
「吸血鬼どもを駆逐せよッ!!」
定めし呪文を唱えるや、忘れ形見は大きく光を放ち、砕け散る。
ゴポリと地下で音が響いた。
それは100の精兵が目覚める音。
敵の狙いが吸血鬼の殲滅だと言うのなら、こちらもそれに便乗し、敵諸共全てを滅ぼし尽くしてやる。
そんな覚悟と共にセバスチャンを睨み付けていたフォーレンは、再度愕然とそれらを見上げた。
「……は?」
そこにいたのは、吸血鬼の気を宿す六体の公爵級魔獣。
それに加え、同じく鬼を宿す伯爵級に匹敵する魔獣数千。
その魔獣の倍の数の、子爵級に匹敵する魔獣の群れ。
一体いつ、何処から、それらが現れたのかを、彼に知る術は無い。
ただ一つ分かっている事は……彼の一千年を越える戦力が、彼の、覚悟と、怒りと、悲しみと、血の滲む努力を、一笑に付す力の激流が、全てを押し流さんと迫っている事だけだった。
——乗り越えたまえよ、フォーレン君。
不意に鮮烈に照らし出された道。蔓延るは棘の海。
進む以外に道は無く、留まる事は許されない。
惑い、苦慮の果てに茨へ踏み込む赤き人を、月は微笑み、見下ろしている。




