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【書籍化】錬金術師ユキの攻略 〜最強を自負する美少女(?)が、本当に最強になって異世界を支配する!〜  作者: 白兎 龍
第一章 Another World Online 第十六節 エルダ帝国の攻略

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第44話 終幕 二

第六位階下位

 



「やはり……貴方が一番恐ろしい」



 小さく呟きながら、私はそれを見上げた。完全に竜の様な何かへと変貌した、その姿を。


 僅か数度。魔力を強く込めた声を掛けただけで、狂っていた意思はある程度の正気を取り戻した。

 その赤い竜の瞳には、大きな狂気と確かな正気が混在している。



 ともあれ、使命は果たされた。


 後は、異常進化したコレへ、全力を持って挑むのみ。


 一見して肉体の性能は相手が上、だが技量に関しては俺が上。

 問題はその技量が奴の甲殻を貫けるか否か。


 竜種は魂の研鑽が無くとも強大であると言うのに、技量まであるのだから恐ろしい。



 振り下ろされた爪の一撃を避ける。


 大地が大きく陥没し、噴き出た闘気が斬撃となって瓦礫を吹き飛ばした。

 暴風が吹き荒び、粉塵が巻き上がる中、少年の死体には傷一つ付いていない。


 少年よりも強い意思を持って竜となり、少年よりも強い精神を持って竜を折伏する。

 今の俺ですら到底及ばぬ魂の輝きに、つい見惚れてしまいそうだった。



 体を振り回す様にして、竜は尾を振るう。


 此方にはそれをまともに止める術は無く、地上を跳ね飛ばしながら振るわれたそれを跳んで避ける。

 回転の勢いをそのままに、振り下ろす様に接近する巨大な鉤爪へ、練り上げた闘気を宿した血の鉤爪で対抗する。



「はッ!」



 交錯は一瞬。


 技を持って受け流す事で、どうにか爪の一撃を弾いた。


 続け様に連続で放たれる爪撃を、避け、逸らし、間隙に血や影の槍を撃ち込む。


 しかし——



「ははッ!」



 ——練気が間に合わんッ!


 魔力の基礎性能が違う。魔力量もまた奴が上だ。

 魂に溜め込まれた力が解放され、生み出された竜玉により力の質が底上げされているからだ。


 此方が気を練るのに対し、竜は素の魔力でも十分此方に傷を与え得る。


 然らば此方も魂を解放する以外に道は無い。


 そして……それが出来る程の才が、俺には無いのだ。



 ……だが——



「はぁぁァッッ!!」

「グルァァッッ!!」



 ——それが諦める理由にはならない。



 血と影の鉤爪が、竜の鉤爪と衝突する。



 成る程、質は奴が上だ。俺も古き吸血鬼故に強いが、奴は竜故に強い。その質は一枚上手であり、それだけで無く僅かながら気を練ってもいる。

 どうしようもなく、此方が不利。


 成る程、量は奴が上だ。俺も伯爵級を名乗るに十分な魔力を持つが、奴は竜故に、その巨体と竜玉に大きな魔力を秘めている。

 その根源たるは魂に溜め込まれた力。故に俺にもその力に勝らずとも劣らない力はある筈だ。


 成る程、正しく奴は才を持つ。故に奴は魂から力を引き出し、古き吸血鬼である俺を上回って見せた。


 見事な才だ。俺には無い物だ。



 そう、諦めるのは簡単だ。


 いつも通りでいれば良い。


 だが、俺は我慢ならない。



 偉大なる神に仕える立場となった俺が……かつての様に、堕落の道へ進む事がっ!


 あぁ、才ある英雄達よ……!


 俺はお前達が羨ましい。


 だからこそ、俺は偉大な月を見上げ、手始めにお前達を目指すのだ……!



「主よ、御照覧あれ……!」

「グルルァァッ!」



 偉大なる御方の御前だ。全てを曝け出し、己が実力を超越して見せねば、俺の生に意味は無い……!


 魂の深淵を引き摺り出す事こそが、俺の示せる唯一の忠誠!!



 全てを懸けて気を練り上げ、全て絞り尽くす様に力を振るう。


 血と影の鉤爪は、竜の鉤爪を——押し返した。



「グルッゥゥアアァァァッッ!!」

「うぉぉォアアァァァッッ!!」



 咆哮と共に連続で振るわれる凶人へ、此方も血と影の鉤爪を合わせる。


 何度と無く衝突するそれは——竜の爪を穿った。


 甲殻を破り、指を切り飛ばし、それでも振るわれる鉤爪。その斬り上げを——



「がッ」



 ——受け損なった。



 成る程。当然だ。


 力を解放するには、意志を研ぎ澄まさねばならなかった。


 意志を研ぎ澄ます事にばかり拘えば、その他の部分がおざなりになる。



 ——見切れなかった。力の流れを。



 刃は胴から肩口へ切り裂き、血飛沫と共に宙を舞う。


 そこに迫るのは、牙。


 気は負けじと血を振るい、放たれた槍は竜の牙を一つ、へし折った。



「ぐッ」



 無数の牙が胴体を貫く。


 竜は首を大きく振るい、俺は地面へ叩きつけられる。



「ごぶっ」



 込み上げて来た血を吐き出し、竜を見上げた。


 もはや体は動かない。何処が欠損しているのかも分からない。


 俺はただただ竜を、英雄を見上げた。


 多少消耗していたとは言え、死力を尽くしても届かぬ、かぁ……。



 俺はゆっくり、手を伸ばす。



 これでこそ、英雄——



 ——振り上げられた竜の鉤爪が迫る。



◇◆◇



 ズドンッと大地が揺れた。



 それは戦士の断末魔。


 竜の腕が振り下ろされたそこには、まみれた血と砕けた肉片が転がっていた。



 敵の死を確認した竜は最愛の人へ視線を下ろす。


 ぱらりと、指先が光に解けた。


 パラパラと、竜身が光の欠片となって散らばって行く。


 解ける光の中から現れたコルニは、ばたりと前のめりに倒れた。


 そこにもはや力は残っていなかった。


 拡散する魔力を引き留める力も無く、ゆっくりと閉じられる意識は、もう目覚める事は無いだろう。


 ——死力を尽くし切った。


 高々数人のダンピールが、アークロードクラスの吸血鬼を1体討ち取った。


 それは正しく快挙だった。


 もはや彼女に、動く力は残っていない。


 それでも……それでも、彼女は前へ進んだ。



 ずるりずるりと、更地となった大地を這いずり、前へ。


 絞り尽くした魂、その器を削りとりながら、ただ前へ。



 ——愛故に。



 狂気と正気が混在するその瞳。それを満たす、愛故に。



 コルニは、最愛の人の、投げ出された手を握った。


 冷たくなったその手を、今度こそ、離さない様に。



 ——コルニは願う。


 もし、次があったなら……次こそは……今度こそは、皆一緒に、幸せになろう……。


 ゆっくりと、瞳が閉じられる。


 ゆっくりと、世界が夜に包まれる。



 ——ふと、光が差した。



 燦然と輝く銀の光が夜を切り裂き、一条の道となる。



 その先に待つのは——



 

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永遠未完『魔物解説』……ネタバレ含む。

よろしければ『黒き金糸雀は空を仰ぐ』此方も如何?
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