第40話 死の舞台 五
第四位階下位
「ぅ……っ……?」
痛みと大きな音で目が覚めた。
軽く頭を振り、額を抑える。
……そうだ、私、吹き飛ばされて、全身に血の剣を……どうして生きて……? ……っ!
「コルニッ」
コルニが戦っていた筈ッ。
見えもしないのに辺りを見回そうとしたその刹那、まるで夢から覚めた様に、鳴り響く激しい剣戟がはっきりと聞こえて来た。
気配で直ぐに分かった。ロイが戦ってる!
でも、それはまるでロイじゃないみたいに重く、強い気配だった。
怒り狂った様に剣が振り回され、吹き荒ぶ剣風が此方まで届いている。
その理由には、直ぐに気づいた。
「……っ!? ……コルニ……?」
コルニの血の匂いが風に流れて来た。
そこにコルニがいる筈なのに、コルニの鼓動は聞こえなかった。
「あ、あぁぁ…………!」
どうしてっ……? どうしてコルニがっ……! なんで——
「ッッ!」
バシッと自分の頬を張る。
ダメだ……! ここは戦場だから、今ロイが戦ってるから……だから……!
「コルニぃ……!」
苦しいよっ……辛いよっ……! こんなの、嫌だよっ……!! でも……でも、戦わないと…………。
なんで……ダンピールの未来の為だ。
……どうして、吸血鬼が襲って来るから、いつ死ぬか分からないから……戦わなきゃいけなかった、命懸けで……。
ただ……死に怯える事無く、皆でのんびり、幸せに……当たり前に、生きたかっただけなのにっ……!
私は戦場へ意識を向ける。
ロイを、少しでも、援護する為に。
「……くっ」
……だと言うのに……!
瞬きの内に幾度も剣戟が鳴り響き、風が吹き荒れ、大地が捲れる。
鋭い影と血が交錯し、溢れた残滓が風に乗って流れる。
——あまりにも早すぎる……!
気配を追い掛けるのがやっとだ。
こんな所に介入すると、却って足手纏いに成りかねない……だけど……一目で分かる、ロイには余裕が無くて、敵には余裕がある。
——遊ばれているんだ。
悔しい。
どうしようもなく弱い自分が。
強いロイよりも敵の方が強い事が。
怒りや悲しみ、いろんな感情が、涙となって溢れて来る。
だけど、泣いても何も変わらない。
私は何かをしなきゃいけない。
例え死んででも……ロイの為なら、命は惜しく無いから。
でも、どうしたら良いの……? 少しでもロイみたいに動けたら、私も戦えるのに……!
じっと戦いを観察する。
明らかに、ロイの一撃の威力や速度が上がっている。ロイが凄く強くなっている理由は、見ていても全く分からない。
いつもはぼんやりとしか感じられない気が、まるで炎の様に噴き上がっているのだけが分かった。
対して敵は、練られた気が石や鉄の様に硬く、鋭い。
しかしその内側は、ロイにも負けないくらい勢い良く……おそらく血を巡らせている。
これを真似したら……もしかしたら強くなれる……?
分からない、わからないけどやるしか無い……!
「ふー……」
息を大きく吐き、自分の内側を意識する。
操作のしかたは血矢術と同じだ。それが内側ならば、より簡単な筈。
深い呼吸を繰り返し、体内の血を操作する。
どうすれば良いのか分からないから、とにかくがむしゃらに、何処までも。
何も出来ない私は、唯一血の操作だけは大人顔負けの力があった。
これでどうにかならないのなら……私に出来る事はもう……。
「はっ……はっ……」
次第に呼吸は浅くなり、鼓動は激しく鳴り響く。それを維持しながら戦場へ意識を向けた。
その戦いは……少しだけ、でも確実に——遅くなって見えた。
これだ……これだっ!!
「はっ、はっ……!」
どんどん血流を加速する。
それと同時に全身の気もまた速く巡り、今のロイみたいに、どんどん強くなって行くのを感じた。
本当は血じゃなくて気を巡らせる事が大事なのかもしれない。そうは思いつつも、今出来るのは血を操る事のみ。
どんどん、どんどん、どんどんどんどん、素早く、大きく、戦いに追い付ける様に……!
「はぁッ、はぁッ!」
血が巡れば巡るほど、全身が熱くなり、それらは少しずつ痛みに変わって来た。
痛みは次第に焼ける様な激痛へと変わる。それでも、止まる訳には行かない。
塞がっていた傷口から血が流れ出そうと、敵を討つ助けになるなら——
——その時は訪れた。
十分な加速。ゆっくりと流れる世界の中、ロイと敵の剣が衝突し、互いに弾かれる。
素早く切り返す敵に、ロイは遅れて剣を引き戻し——
「——ここッ!!」
私は槍を投じた。
持てる全てを込めた、私の、最後の一撃。
それは狙い違わず吸血鬼の胴目掛けて飛び——
——切り返しの斬撃で弾かれた。
その隙目掛け、ロイの一撃が、確かに、吸血鬼の胴体を、斜めに、両断した——
あぁ、良かった……ロイ……勝っ……た…………。




