第38話 死の舞台 三
第四位階下位
打撃、拳打、蹴撃、咬みつき、出来うる限りの手を使って挑むも、その悉くが通らない。
対して敵の攻撃は、間隙を付いて鋭く、的確に私を切り裂いた。
「……そろそろですね」
「?」
攻撃の刹那、吸血鬼がそう呟いた瞬間——血の匂いが充満した。
「あ——」
良く、見知った。大切な家族の匂いが——
——ナタちゃんとイネちゃんの血の匂いが。
無数の血の剣が突き刺さり、どくどくと血溜まりが広がって行く。
黒い大地から生える黒い棘の柱から、夥しい血が滴り落ちている。
皆の命が零れ落ちて行く。
「——あ、あ、ああぁァァッッ!!!」
視界が真っ赤に染まった。
◇◆◇
咆哮と共に、少女の濁った片目が澄みわたる。
それは産声。
彼の魔眼の、彼の血統の目醒め。
あぁ、だが、しかし、“今”ではない。未だ“足りない”。
本当の覚醒には、後少し、足りない。
僅かに開かれたその赤き瞳は、此方が何をするでも無く、影と血が再生を阻害している事に気が付いた。
再生阻害に割く演算を、俺の邪魔をする事で妨害出来ると気が付いた。
——慧眼だ。
正しく、真に恐るべき、異常にして正当なる後継者。
その瞳を憤怒に歪め、少女は棍棒を振り上げた。
「っ!!」
明らかに速く、重い。
牙と爪が鋭く伸び、瞳孔が縦に開いている。
眠れる怪物の血が、魂が、半端に目醒め始めている。
血の剣を振るう。
先であれば避けていたそれを、少女は避ける素振りも見せず、棍棒を振るった。
重い一撃は鈍い痛みと共に響き、深く刻まれた少女の傷は、ゆっくりと、しかし確実に癒えて行く。
あぁ、これこそが、本当の意味における英雄の姿。
高々数百年を生きただけの凡夫である己では到底敵わぬ才の目醒め。
これ程までに心を震わせる物があるだろうか?
——我等が神は偉大だ。
もう一つの才は、直ぐそこに迫っている。
さぁ、今一度、才の目醒めを——
災禍を身に宿したかの様に暴れ狂う少女へ、俺は血と影の斬撃を振るった。
◇◆◇
助けられる余地がある。
まだ、ナタちゃんとイネちゃんは助かる。
体を切り裂かれながらも何度と無く打撃を叩き込み、少しでも多く此方に意識を向けさせる。
赤黒かった片方の視界は、赤味がかっている物の何故かもう片方と同じ様に見え、それと何か関係があるのか、どんどん内側から力が溢れて来た。
踏み締めた大地がひび割れ、振るった棍棒が歪んで行く。深く刻まれた傷は、自分でも驚く程の速さで治って行った。
これなら、これなら行ける……!
敵も焦ったか、ナタちゃんとイネちゃんの拘束に使っていた影と血を幾らか引き戻し、刃として振るって来た。
私はそれ目掛け棍を振り下ろし——
「っ!?」
——愕然とした。
打撃が止まった。
先程まで大きく押し込んでいた筈なのに、血と影が加わっただけで小揺るぎもしない。
……そんな……そんな……——
「あぁぁァァッッ!!」
がむしゃらに棍を振り回す。
何度も何度も血に影に。
次第に棍は大きく歪み——へし折れた。
「——っ!?」
刹那、血と影の刃が腕を穿ち、血飛沫と共に両手が跳ね上がり——
「十分です」
——吸血鬼の腕が私のお腹を貫いた。
「……ゴフッ」
口から血が滴る。
傷口に敵の血が纏わり付き、再生が止まった。
抗おうと血を操っても、それはぴくりともしなかった。
「……コル…ニ……?」
遠い後ろから、ロイの声が聞こえた。




