第37話 死の舞台 二
第四位階下位
敵の剣はおそらく血で形成されている。
破壊に大した意味は無い。ならばやる事は1つ。
横薙ぎに振るわれた剣に私は左手を合わせた。
「っぅ!」
「っ!」
剣は腕の半ばまでを切り裂き、私の棍は吸血鬼の胴を直撃した。
「……やはり、貴方が一番恐ろしい」
「どの口が」
殺す気で打ったのに、まるで効いた様子が無い。
おじさん達がやられたのも納得だ。
……もしかしたら、私達はここで……。
「ふっ!」
「っ!」
弱気を消し飛ばす様に、切り裂かれた腕に力を入れ、それと同時に棍をもう一度振るう。
剣が抜けない事に驚いた僅かな隙に撃ち込んだ打撃は、今度は腕で止められた。
びくともしない棍を諦め、即座に胴目掛け蹴りを放つ。
しかしそれも、同様に蹴りで止められた。
棍を捨てて振るった拳は、同じく棍を離した手で止められ、そこへ私は牙を剥く。
「っ」
ガチンッと牙を打ち鳴らし、手を離した吸血鬼から棍を拾いつつ距離を取った。
私達だけじゃ勝てない……ロイが来るまで時間を稼がないと……!
◇◆◇
飛来する赤い槍を打ち払う。
弾けたそれは地面に散らばり、即座に2本の槍となって復活した。
「このっ!」
コルニが1人で戦ってるのにっ!
それらは何度と無く復活し、分かれたり、元に戻ったりしながら私の行く手を塞いだ。それ所か押し込まれてすらいる。
これじゃあコルニが死んじゃう!
「うぁぁぁッ!!」
被弾を無視し、感知できる全ての赤を全力で打ち砕く。
飛散した赤は小さな刃となって、四方八方から此方を襲う。
見えざる視界の中、それらをどうにか撃墜させるが、それだけ。
まるで前に進めない。
ダメだ、ダメだダメだダメだッ! このままじゃコルニがッ!
何か、何か出来る筈ッ! 何か——
「——そうだッ!」
ハッと思い付いたのは、血矢の操作。
元は気と言う物を使って血で矢を作り飛ばすだけだが、敵が今やっている様に、そしてイーネが影を自由に操っている様に、やって出来ない事は無い筈!
必死に迎撃し、掻き集めた血で十分な大きさの血矢、剣を作る。
それと同時に分かった事があった。血の剣が分裂すれば分裂する程、その動きが単調になり、迎撃が容易くなっているという事が。
生成した血の槍を振るう。
最初は試しに小さな刃へ。撃ち落とした血は地面に広がり、動く気配は無い。
同時に私の血矢剣も、少しの血が制御を離れて床を濡らした。
これなら行ける!
殲滅力を上げる為、此方も血を分散させ、小さな刃のみの撃退に利用する。
とにかく早く、コルニを助けられる様に、2つは3つへ、3つは4つへ、操る数をどんどん増やして行く。
それは思っていたよりもずっと簡単で、直ぐにコルニを助けに行ける。そう、思った直後——足が止まった。
「っ!?」
床に散らばる血の中に、まだ生きている血が隠れていた。
そう気付いた時には、直ぐ目の前に赤い壁——
「——カハッ」
吹き飛ばされ、何かに衝突する。
瓦礫の崩れる音が響き、土煙が巻き上がった。
土煙を吸ってでも呼吸し、無理矢理に顔を上げ、見えたのは——目前に迫る無数の血の刃だった。
あぁ、皆、ロイ、私、ダメだったよ……。
◇◆◇
地面から影の槍が突き上げる。
それを後ろへ大きく飛んで回避し、押し固めた影を叩き付けた。
鈍い音が鳴り、幾らかの影がじわりと宙に吹き出て立ち消える。
それはほんの僅かだけど、確実に削れてはいる。
それだけじゃ足りないのが一番の問題だ。
「はぁぁッ!!」
気合いを入れて影を押し固め、無数に伸び上がる影槍へ影の腕を振るって跳ね除ける。
同時に地面の槍も警戒し、広がる影から飛び退いて再度影の腕を叩き付けた。
「はぁはぁ」
どんどん押し込まれているのが分かる。
直ぐにでも高位吸血鬼と戦っているコルニ姉さんを助けたいのに、まるで攻撃が追い付かない。
もっと強く影を固めてっ、もっと鋭く影を研ぎ澄ましてっ!
質で負けてる、量でも負けてる。それでも対抗出来ているのは、姉さん達に意識を割いているからだ。
だからこそ、早く突破して姉さん達を助けに行かないと!
「うぁぁああッ!!」
更に気合いを入れ影を操り、周囲の石片や木片をも利用して、一気に影を散らす。
それでも、厚い影の壁は半分しか削れなかった。
「このままじゃ……!」
いや、それでも……少しでも削る事は姉さん達の助けになる筈……!
ひたすらに影を振るい、迫り来る槍を撃ち落とす。
前へ切り込み、押し込まれて下がり、左右から来る槍を弾き、また切り込んでは下がり、攻撃を弾く。
少しでも敵に負担を掛ける為に戦い、影の壁を削っていると、ふと、背後からの攻撃が増えている事に気付いた。
振り向いたそこにあったのは——影の壁。
「……?」
なんで後ろに……か、囲まれてる!?
そう気付いた次の瞬間、影の壁が次々と槍を突き出し、急速に迫って来た。
「なっ!? くっ、あぁぁぁッッ!!」
気合いの大声と共に、急いで影を固め周囲へ叩き付ける。
僅かに押し留めた瞬間に、失敗を悟った。
一点に集中して攻撃していれば、貫けたかもしれないのに!
迫り来る影の槍衾に対し必死に影を押し付けるも、止まらない……!
「なんで……!」
なんで急にっ。
「兄さん——」
助けて——
涙が零れ落ちる前に、視界は黒に染まった。




