第33話 終の夜
第六位階下位
各々の軍勢を率いよと言ってヴァンディワルは退出し、それに続いてウェンザードがいよいよかと立ち去る。
フォーレンは何も言わずにいなくなり、アンテもそれに混じろうとした所で、リブラに声を掛けられた。
「……のう、アンテよ。本当に我が宮には入らぬか?」
「入らないけど?」
「そうか……残念じゃなぁ〜」
ほんの一瞬、リブラの顔が悲し気に歪むのが見えたが、次の瞬間には先と同じ様な楽し気な物に変わった。
その後は特に絡まれる事も無く、ひらひらと手を振るリブラに見送られ、城を後にした。
◇
「……それで、目的は果たせたの?」
道すがらのアンテの問いに僕は微笑んで答える。
「十分だったよ、ありがとう」
「そっか」
どこか嬉しそうなアンテに手を振って、さっさと別れようとしたら、レベル700に迫る力を存分に振るったアンテに両手を掴まれた。
「……ドコニイクノカナ?」
「……まさかアンテが公衆の面前で寝かし付けられたい人だったとは……」
「両手が無ければどうとでも出来るけど?」
「両手が無くてもどうとでも出来るけど?」
あり得ると手を離し、おまけに距離も離すアンテに、僕は再度手を振る。
「…………戻って来る、よね?」
何やら不安気なアンテに、僕は最大限の笑みを浮かべて言った。
「寧ろ捕まえに来るけど」
きょとんとして目を見開くアンテ。
「……ふふ、なんだよそれ…………またね」
「また後でね」
これから僕と僕でホウレンソウで仕込みをアレシテコレシテウンヌンカンヌンで煮込み料理なので忙しいのだ。
正確には本体僕に状況連絡をしてシナリオを煮詰め、素材をどう料理するか決めて仕込みを行なうと言うまぁ実質料理だ。
取り急ぎ分体を地上へ送り、本体僕へ連絡を取ってもらう。
さてさて、いよいよ、戦いの時間が始まる。
◇◆◇
分体の暗躍によって仕込みは終わり、物資の搬入も済ませ、必要な準備は整った。
残念な事に明日は用事があるので僕は寝て英気を養わなければならないが、早朝に起きれば戦いの監視は可能だ。
そう長く寝る必要も無いが、今日は早めに床に着くとしよう。
勿論、寝るからには何かしらの製造は行なう。
これと言う強力な報酬武装を殆ど使い尽くしてしまった現状、作成から行わなければならないが、しょぼい素材ならともかく準試練級の素材は数が十分に無い。
であれば素材から作らなければならない訳で、それだったら現状の消耗率でも無茶をすれば宝珠を4個作れそうなので宝珠を作った方が良い。
と言う訳で、ひたすらに魔力を圧縮して純結晶を量産。4種の宝珠を作成した。
1つは、クリスタロス用の結晶概念を込めた宝珠。
2つめは、ルカナ用の悪魔の宝珠。
3つめは、ラース君用であり、僕が楽する為に太陽の大三角を使って生産した太陽の宝珠。
4つめは、モルド用であり月の大三角を使って生産した月の宝珠。
まぁ、宝珠の強化値なんてレベル400前後程度なので、レベル700クラスからしてみればたかが知れてる。
あって損のある物では無いし、事実上属性操作の媒体として使う代物だ。
これで今夜は終わり。起きたら直ぐに戦闘開始だ。
「……」
送られて来たデータを寝惚け眼でぼんやりリフレインする。
やっぱり1,000年近く生きていれば色々と拗れるんだろうな。
あっちこっちで恋や愛や憎悪が絡み合って面倒な事になってる。
アンテは言わずもがな。フォーレンは誰かの影を追っているし、ウェンザードは……アレは態度の割に純情だ。
一方のカルミエラはリブラしか見ておらず、リブラは女性全般が対象。そしてヴァンディワルは……あの肖像画の女性達、どちらもリブラに少し似てるんだよねぇ。
……もう纏めて一回ぶっ壊した方が良いと思うね……と言うかぶっ壊すんだけど。
それと、ヴァンディワルが突然侵攻を宣言した理由も状況から何となく察している。
ヴァンディワルとリブラが吸血鬼を掻き集めた理由。
両者が三公にすら秘密の隠し玉を持っている理由。
娘達が大陸にいる中で、大陸の潜伏者を引き上げさせ、侵攻を宣言した理由。
唯一の疑問はヴァンディワルが子を成した事だが……焦がれるからこそ恋、与えたいが為に愛。恋愛とは中々どうして御し難い物だ。
まぁ、もし違う理由であったとしても、どのみちヴァンディワルの相手は決めてある。
善かれ、悪しかれ、それは必要な戦いだ。
微睡に誘われるまま、僕はゆっくりと意識を沈めて行く。
明日の朝日は鮮烈に輝く事だろう。
その序章は差し詰め……窮鼠の逆襲、かな?




