第32話 王の円卓
第六位階下位
王城に到着し、青血会の認証を経て城内に入った。
案内されるがままに城内を進み、円卓の置かれた大部屋に入る。
席は5つ。既に2つが埋まっていた。
1人はフォーレン。もう1人はヴァンディワルだ。
フォーレンらしき男はレベル200クラスのロードを連れており、ヴァンディワルらしき男はレベル300クラスの青血会の精鋭を連れている。
木っ端は置いておくとして、先ずはヴァンディワルをよく見る。
髪の色は肖像画と同じ金。どちらかと言うと美人と言った顔立ちで、瞳の色は真紅。
放つ気配は戦意混じりで、張り詰めた剣呑な気が部屋に満ちている。
服装は王たるが故か豪奢な物だが、王冠や王笏等王権の象徴らしき物は無い。
強いて言うなら、赤い宝石の付いた蝙蝠のブローチから強い力を感じるが、王権と言うには小さ過ぎる。
次にフォーレン。
事前情報の通り茶髪の壮年で、落ち着いた服装ながらも体格は良い方。相対するとそれなりに威圧感がある事だろう。
一方で放つ気配は柔和で、赤い瞳と口端を歪ませ、微かに笑みを浮かべている。
一見して優しげなおっちゃんだが、この顔で人体実験してるんだから狂気的である。
まぁ、僕も微笑みながら人体改造くらいするが。
……それでも不可逆性は無いので僕はまともである。
そんなフォーレンだが、詳しく見るとやはり、その体内に僅かな神血の痕跡が残っていた。
殆どは吸血鬼の血に呑まれているが、彼は間違いなくミシュカと同じ、神の子だ。
また、負の化身に関わる物を保有しているのも確認が取れた。
金と負で対消滅しており気配を殆ど全く感じないが、僕の銀が言っている。そこに金がいると。
どの様な形で保有しているどんな物なのかは分からないが、コントロールされた金が封ずる負の戦力は、予想通り700オーバーと言った所だろう。
それ以外に目立つ装飾は……此方も赤い小さな宝石が埋め込まれた指輪をしている所か。
ヴァンディワルのブローチ程ではないが、吸血鬼にまつわる力を宿しているのが分かった。
ぱぱっと必要な確認を終えた所で、アンテが声を掛ける。
「やぁ、待たせたかな?」
対するはヴァンディワル。
「構わん」
まだまだ遅い連中はいるからと特に気にした様子は無い。
フォーレンの方も同様に、どっしりと構えている。
「今日はいつぶりか、迷宮が溢れたからな。多少遅くなっても気にはすまい」
そう言うフォーレンとヴァンディワルの視線は、抜け目なく僕の全身を見通し、特に警戒する力が無い事を瞬きの内に確認すると、アンテへ視線を戻した。
それを見逃さなかったアンテは、僕の背に触れ指を指す。
「コレが気になる?」
流石の僕でも此処では無礼不遜はしまいと、此処ぞと言わんばかりに僕をコレ扱いしたアンテ。
しかしその顔は自慢気である。
一応因子を操作してアンテの眷属の振りをしているので、アンテは大物を捕ったわんこの如しだ。
「ふふん、ボクのお気に入り。結構色んな事が出来——ひゃぁっ!?」
はしゃいだ顔でいらん事を言おうとするアンテの頬にキスをして、その先を止める。
顔を赤くして此方を見るアンテに微笑み、前に出てイスを引いた。
アンテは頬を抑えながらも席に付き、むむむと唸っている。
その所作から何かを感じたか、フォーレンとヴァンディワルの気が呆れと言う形で微かに揺らいだ。あと黒髪さんことエレノアからナイフの様な殺気を感じる。
チクチクする視線を無視し、微笑みながら黒髪さんの横に並んだ。
僕の唇は安くないので、アンテからは後でちゃんと徴収しよう。
なに、アンテも基礎教育を受ければ自主的に対価を払ってくれるだろうし、徴収は容易い。
それから少し待ち、アンテが落ち着いた所でやって来たのはウェンザード。
今日見たそれなりに強い子分を連れている。
ウェンザードを特に変わりばえしないであろう面々を一瞬で見回し、僕で視線を止め、次にアンテを見て、また僕を見た。
少し眉根を寄せた後、特に何も言わずドスドスと部屋へ入って来る。
椅子に座るや、アンテに視線を向け、僕を顎で示した。
「また女を変えたかよ」
「はぁ? ……うっさいよ」
若干バツが悪そうにそっぽを向くアンテに、ウェンザードは訝し気に眉を寄せ、僕を見た。
「……テメェ、どっかで会ったか?」
肩を竦めて見せると、ウェンザードは暫し僕を見て、円卓へ視線を戻した。
「……まぁいい……ババァはまた最後か?」
誰にともなく放った言葉。その返答は部屋の外から聞こえて来た。
「誰がババァか!」
大きな音を立てて扉を蹴破り、ババァことリブラ・ドラクルが入って来る。
「どう見てもぴちぴちの美少女じゃろがい!」
暴風を撒き散らしながらウェンザードへ戯れのキックをかましたのは、白い髪に赤い目の少女。
身長は僕と同じくらい。赤い瞳には赤系統の力が実用レベルで入っているが、常時力を発揮する程の親和性は無い様だ。
やはりと言うか、状況から見て、このリブラが星天の試練をクリアしたのだろう。
赤系の魔眼を持つと言う事は、親和性が如何あれ十分な時間があった筈だから魂は完璧に整理され効率化されている筈。
その想定ポテンシャルは、何も無い叩き上げのヴァンディワルを超えている。
リブラは宙でくるりと回転し危なげなくアンテの前に着地した。
そのままじっとアンテを見下ろし……。
「……な、なにさ」
「……ふむ、お主、随分とこう……良い感じになったではないか。どうじゃ? 我が宮に入らぬか?」
「はぁ? なんだよ急に、うるさいなぁ」
隠し事のボキャブラリーがうるさいしか無いアンテとリブラが話している後ろで、しれっと扉を直して入って来たのがカルミエラ。
円卓が壊れない様に守ったのはフォーレン。この2人はそう言った細かい事が得意な様である。
カルミエラは取り急ぎ奥側の椅子の後ろに回ろうと歩み、そこにウェンザードが立ち塞がる。
「よぉ、今日も良い女だな……俺の所に来いよ、可愛がってやる」
突然の軽薄な告白に、カルミエラはギロリと目を尖らせる。
「……黙れ下郎……! リブラ様だけが我が主君っ、何度誘われようと貴様の下に降るなぞ死んでも有り得んっ」
少しニュアンスに相違がある気がする。
肩を竦めたウェンザードを押し除け横切るカルミエラ、一方アンテを囲い込もうと何やら囁いていたリブラは、不意に僕を見た。
「…………アンテ。我はアレを所望するぞ」
「アレって……いや、ダメダメ!」
「良いではないか! 沢山囲っているのだから1人や2人!」
「はぁ!? 全部お気に入りなんだけど!? ダメな物はダメ!」
「お主はどうじゃっ? 我が宮に来れば——」
「——ダメったらダメッ!!」
チビ共が喚く中、唐突に威圧が放たれ、大空洞全体が揺れた。
——ヴァンディワルだ。
従者としてついて来たレベル300そこらの雑魚は震えて後退り、カルミエラを口説こうとしていたウェンザードは少し不満気に席へ着く。
リブラも肩を竦め、やれやれと席へ向かった。
「急からしいのぉ」
「必要な事だ」
大して気にした様子も無く応えるリブラに対し、我が仮の主殿はこの中で最も慌てて居住まいを正している。体変えたばっかだから不安定なのかな?
一方フォーレンは、特段アクションも見せず、変わらぬ薄笑いを浮かべていた。
リブラが席に着いた所で、ヴァンディワルはあっさりと言い放った。
「……明日夕刻、大陸の侵攻を開始する。最大の武威を持ってこれに当たれ。以上だ」
瓢箪から駒かな?




