第31話 妖怪ユキチミドロ
第八位階下位
夕食を摂り、再度ログインした。
29日目本日、夜を待たずして既に中々の成果を得ている。
先ず、昨日武装の改造と分配により強化した面々だが、イベント会場に赴く事でその練度を上げ、磨き上げた基礎もあり、大幅な戦力向上と相なった。
特に竜寝殿の面々は、単純なレベルも上がり、その実力は新境地の体現者、鏡界竜・シテンに次ぐ程に鍛えられている。
後はもう少し基礎を反復し、エネルギー供給を受ければ、シテンや空華の様な新たな境地の体現者として君臨出来るだろう。
また、獣人3人組や桃花一行も基礎トレーニングを続けており、元よりエネルギーは十分だからそれのコントロールを叩き上げれば、相応の化け物になってくれるだろう。
次に、楽園のアム達。
新たに80人の国民を迎え、彼等が住む城下町の整備が終わった。
まぁ整備と言っても、建築物を移動させるぐらい手間では無いので、拡張は余裕だ。
農地と貯水池、牧場の設置も終わり、申し訳程度の高い石壁も敷設した。
設備に関しては取り敢えずそこまでとし、運用可能な戦士60名を探索と採取に向かわせ、他の動ける者には簡単な魔法の教練を行なった。
流石のレベル500クラスとあり、農業に使える魔法や多少回復出来る程度の魔法、レベル100くらいの攻撃なら耐えられる防御の魔法、基礎の4属性等、簡単な魔法なら直ぐに覚えてくれた様だ。
これらを全員に習得させたら、次の段階の魔法を習得させよう。
探索に関しても順調で、既知の情報と合わせて近辺の地形が見えて来た。
周囲は主に平らな草原で、後は森と湖とちょっとの山。
敵戦力はレベル100程度の雑魚。時間経過でリポップするらしいので、資源が尽きない一方で微妙な脅威も尽きない訳だ。
大した事の無い話だが……リポップすると言う事は楽園は迷宮なのだろうか? そう言った仕様だと言われればそこまでだが、何か理由があるのだとしたら……程良い雑魚を大量配置する事による戦士の養殖とかかな?
レベルが下がる一方と言う設定は、強敵がいない為に戦士のレベル限界が上がらないから。
出口の無いぬるま湯でゆっくり風化して行く……失楽園と言うに相応しい嫌な設定だな。
森や山からは沢山の恵みが得られ、独特ながらも大した事のない薬草と野菜、果実およびその種を回収した。
野生化していて収量は少ないが、品種改良すれば問題ない。
同じく家畜も、猪みたいなのと牛みたいなのと鶏みたいなのがレベル1桁で湧いて出る様で、捕獲及び飼育自体は可能だ。
此方も、アムが直接品種改良して家畜化する。
他にも、山には羊と山羊、湖には大きなザリガニがいた。
レベル1桁だからザリガニは家畜候補なのだろうが……まぁそこら辺はアム達に任せよう。
また、それとは別に湖と山の方にも幾らか氏族がいるらしいと分かった。
仕様的にこっちに来るかもしれないし来ないかもしれないが、どちらにせよ探索するし敵対の可能性もあるので、新たな部下達が狩られない様に先にエイミーを山へ、アンジュを湖に派遣して刈り取って来て貰おう。
次に、月の開拓状況。
開拓なんて言っちゃいるが、その実開拓する土地を作っている様な状況であり、星の活性パーセンテージは現時点でおよそ10%だ。
投入した魔力を撹拌し、泥団子内の含有魔力を活性化させ、不足分をひたすらに投入し続ける。
これが生命体がいたら、急速な活性化は絶滅や異常進化を引き起こしかねないが、何もいないので気楽である。
規模が規模だし、気長にやって行こう。
続けて、王国の発展状況。
既に完全な支配は終わり、凡ゆる外敵の排除と問題の解決が終わった。
王国民全体の基礎教育も終わり、現状ではやがて来るマレビト、プレイヤー向けに町の整備、村の配置換え、魔物の出現ポイントの設置、何かありげな人工、自然問わないランドマークの建造、フィールド制限の敷設を行ない、数多くのクエストを用意した。
防衛設備は重点的に配備し、広範囲感知や結界、迎撃、誘導、空間操作等施設の設置、緊急避難の為に元王国民全員の魂に一括転移用のマーカーを取り付けた。
広範囲故に黒霧の出力をどうしても上げきれず、仮想敵はレベル800までだが、後数日あれば900。やがては亜神級にも対応出来る様になるだろう。
次、僕のスキルレベリング状況。
魔法の連発とそれによる自傷、念動力による無数の武器の操作。
やる事が多いだけで大して消耗も無い作業により、メキメキとスキルレベルが上がっていった。
スキルレベルは高い程より正確だったり理解が深かったりする物で、逆に元より正確だったり理解が深かったりすると成長に迷いが無いから早く育つ訳だ。
もはや下位の魔法や武術スキル、耐性系なんかはカンスト間近で、中位の物に関しても勝手に上がっている。
まぁ、上位のスキルはそうそうレベルも上がらないだろうし、まだまだスキルレベリングの道は長い。
最後に、暇潰しがてら装備の開発……をしようと思ったら湧いて出た、妖怪血舐めサンディアの状態再確認。
妖怪血舐めパフィ娘に関しては、親玉である血舐めサンディアの出現により、身を引いて回収した血液の解析と分解に全力を注いでいる。
件の急に湧いて出たサンディアは、どうやら自分の出番が近い事を察してか、昨日の朝から自らに苛烈な修行を課している様であった。
朝から出血を続ける僕の血を一滴残らず搔き集め、そうかと思えば突然僕を全力で殺しに掛かり、2時間おきのイベント会場でまる3日修行しては僕で試して行くと言う、あまり僕を利用しようとしないサンディアにしては珍しく、何十回もスパーリングして行った。
……正直、2時間おきに8割前後まで回復し、更に強くなって戻って来るサンディアを迎撃し続けるのは、僕を持ってしてもかなりの消耗を強いられた。
サンディアは基礎が完璧だし吸血鬼としての凡ゆる技能は最早他の追随を許していない。
不足していた戦闘経験も、今朝から今までのイベント会場合計18日と、およそ6時間に及ぶ僕との殺し合いで鍛え上げ、十指に入る実力から五指に入る実力まで仕上げて来た。
少なくとも昼頃には、2度程イベント会場に同道したセバスチャンを上回ったらしい。
まぁ、僕が付きっきりで直接指導すれば、12時間でサンディアの18日を上回る効果を齎らす事が出来るだろうが……それをせずに満遍なく鍛えているのにはちゃんと理由がある。
サンディアはその理由を承知の上で、僕に付かず離れず挑んだのだ。
その結果、サンディアは爆発的に力を増し、そして今、ウルルやメロットに大ブーイングを受けている。ペロッと舌を出して逃げて行ったが。
僕と一緒にいたい子は多いが、皆我慢して自主練に励んでいる。
言ってしまえば、僕が手を付けるまでは自主練すると言う彼等彼女等の不文律をサンディアはぶち破った訳である。
サンディアが逃げると矛先が僕に向くからやめて欲しいし、何なら黙認した事で黙認を強要される事間違いなしなので最早手遅れとも言える。
ただし、サンディアは流石の物で、吸血鬼の帝国を調べている今この瞬間に踏み込んで来たが故に、通る言い訳がある。
吸血鬼に備える為と言えば、心情はともかく理屈は通るし、皆も納得せざるを得ないだろう。
心情の方は、後日ケアすれば良いのだ。
明日の午後は予定があるが、その前の僅かな時間とその後に、不満が溜まっている子から鍛えてあげるとしよう。
自分の強化を切り上げ、配下や他の吸血鬼達を底上げしに行ったサンディアを見送り、僕もスキルレベリングの大詰めに戻る。
それから少し経ち、殆どの下位スキルがレベルMAXになった頃、分体から連絡が届いた。
吸血鬼の帝国の全てを丸裸に出来たらしい。
送られて来たシナリオを此方の状況に照らし合わせて改良し、分体に準備を任せる。
間も無く、明けない夜は終わる。




