第29話 善意100%
第六位階下位
やはり、曲がりなりにも魔眼を持ち、師を持つロイは強い。
蚊のインセクターは甲殻持つ者と比べて些か弱いとは言え、そのスピードと血を介する呪いには耐性があると言うのに、スピードには既に慣れ、負わされた傷は治癒が遅い。
100%純粋な善意を悪意と間違える様な抜けている所もあるが、十分な強さである。
剣技も程々、操気、練気もまた程良く、意図的か無意識か、負った傷から流れる血煙を操り此方の行動を阻害する。
練気には仄かに隠密が宿り、影は機動力を僅かなりにも押し上げる。
今出来る事を最大限使っている。
ただし、魔眼をもっと深くコントロール出来れば、もっと高みへ昇れる筈だ。
一方コルニは、ロイと同じ魔眼を片目に宿しているが、全体的な練度はロイより下だ。
ロイには無い強みとして精霊由来の直感と、謎の怪力がある代わりに、ダンピールとしての操影、操血能力はからっきし。
まぁ、実のところ怪力もダンピール、延いては吸血鬼由来の力ではあるのだが、それにしたって強すぎだ。パワーだけなら上位クラスのノーブルにも伍するだろう。
後は、再生能力がやや高めと言った所。
戦闘においては腹が座っており、直感故か悪手を踏まず、ベスト寄りのベターで堅実に攻める。
しかし、やはり焦りがあるか、被弾も辞さぬ突撃で確実にダメージを与えて来る。
痛みにまるで怯まない様子からも、根っこの部分が戦闘に適しているのが見て取れる。
ロイと比べて手札は少ないが堅実、順当に育てばレーベの様な頼れる存在になるだろう。ロイの方はセバスチャンだな。
全く心配のいらない2人の次は、ポテンシャルばかりはあるイーネシス。
直ぐに操影術の質の差に気付いたのは流石だが、それを練り上げて対抗すると言う事に中々気付かない。
1人になった恐怖が先行しているからだ。
じりじりと後退りながらがむしゃらに影の腕を振るい、此方の影を迎撃するだけ。
これ見よがしに影の鞭に質の差を付けても全く気付きもしない。冷静になって欲しい。
と言う訳で、もっとあからさまに溜めを作ったり、態と押し込まれてみたりした。
その結果、意外にも対抗出来ているのでは? と少し冷静になったり、溜めて放たれた鞭に少し押し返されてまた冷静さを欠いたり……まぁ、ちゃんと狙って迎撃出来てはいるからセンスはある。後は経験が伴えばちゃんとレベル100にも対抗出来る。筈。
そんなこんなで短いながらも濃密な戦闘訓練を熟して貰う。
なに、適切な負荷を掛けているから無意識でもしっかり成長出来る筈だ。
がむしゃらで乱雑は直に適切な最適解へ変わるだろう。
最後に、大問題のナターシャ。
最早戦闘以前の問題だ。
相対しただけで震え、その割に反射か無意識に一合防いで見せ、へたり込んで泣き出し、怯えて動けなくなる。
まぁでも彼女の持つ因子から、死に怯えている筈が無いと言うのは最初から分かっていたので、適切な揺さぶりとほんの少しの後押しをしたら、当たり前に立ち上がって踊り掛かった。
そもそもナターシャはルムやナハトロンの様な天才肌なので、死ぬ事に恐れなんて端から無い。
ではナターシャは何を恐れていたのかと言うと……調べた話と普段の態度から丸分かりだ。
ロイに助けられて、ロイに恋して、ロイに甘えて、ロイと離れる事を恐れて、死ぬ事を恐れた。
死を前にして身を竦ませるのは、才ある操血により防御力を上げると共に出血を抑え、死に辛くする為。
つまり、ロイを狙わせる事でナターシャは動く。一応コルニとイーネシスも大切な家族だと認識している様なので、そこらへんを突けばナターシャが動く理由としては十分なのだ。
後は、長年の死が怖いと言う思い込みを和らげる為、操血に少し干渉して硬直を解き、ちょっと体温を上げさせる。
動きは精彩を欠くが、格上相手に立ち上がれただけで、彼女には十分な進歩だ。
彼女は元より天才肌。多少戦闘訓練を積めば、数年の遅れなぞ直ぐに取り戻せるだろう。
寧ろ腹が座るから跳ね上がる様に力を得て行くに違いない。
流石は赤系統。量こそ少なくとも、活性化した魔眼は確かに彼等を強者たらしめた。
この戦いの後は、一年も有ればロードクラスとも互角に渡り合える力を全員が手にする事だろう。
まぁ、僕の予言によると明日には皆滅ぶんだけどね。
それまでに頑張って強くなろうと思ってね? いつかは誰にも負けないぐらい強くなるって願ってね?
そして、もっと時間があれば、もっと頑張っていればと思って死んでくれたら、僕はとっても嬉しい。




