第27話 試練は此処に
第四位階下位
今朝見た変な夢。
それはもしかしたら、警告だったのかもしれない。
いつも通り、監視役から吸血鬼がいない迷宮を教えてもらい、たいした事ない迷宮を進んで狩りを進めていたら、突如として迷宮の雰囲気が変わった。
ピンと糸が張る様な嫌な気配が充満し、自然と足が止まる。
まるで強い獣と相対した時の様な気配。一瞬何かの怯えが伝わって来た気がした。
「……撤退するぞ」
「う、うん……」
「なに、これ……? 何が起きてるの……?」
「お、落ち着きましょう、撤退はまだ容易な筈です」
少し遠い場所に、唐突に何か強い気配が4つ現れた。
これが稀に起きると言う迷宮の大変動なのか? ……誰が、何に怯えて、こうなった? それともさっきのは勘違いなのか?
分からない、だが、一つはっきりしているのは、このままでは不味いと言う事。
皆がそれを感じている。
「殿は俺が——」
そこまで言った次の瞬間、地面が光を放った。
赤黒い闇の中で弾けた光、それが収まった時にはさっきと全く違う場所にいた。
「くそッ! 最悪だ……!」
目の前には強力な獣の気配。そして、遠い場所では、3人が3つの強い気配と相対しているのが分かった。
——悪意を感じた。
何者か、意志ある者が、俺達を殺そうとしている……!
もしかしたらそれは……戦士達が口を揃えて言う、迷宮の中でふと感じる視線の様な物。迷宮の主の意志なのかもしれない。
ともかく急いで合流しなきゃならない。特にナターシャとは。
あいつは戦えない。どうにか逃げてくれよ……!
俺は剣を構え、敵を見上げた。
激しく流動する赤が、奴が強い事、決して見逃してくれる様な相手では無い事を告げている。
何と無くの気配だが、スキューアに似ているか?
速度に注——
刹那、高速で飛来したスキューアの針を避け、直撃した足に弾き飛ばされて冷たい床を転がった。
「ぐっ」
早い……! が対処できる!
即座に起き上がり、此方を振り返った敵を睨む。
加速する瞬間に、赤が激しく動くのが見えた。
動き方から見ても、突進は真っ直ぐにしか出来ない筈!
良く見ていれば躱せる、多少無茶でも速攻で倒すぞ!
◇◆◇
ゾワゾワっと変な感じが背筋を駆け抜けた。
それはいつも迷宮で感じていた、血を水で薄めた様な殺意とは違って、より明確で強烈な殺意。
ただ……それだけじゃない。何処か懐かしい……沢山の大人や友達に囲まれていた子供の時に感じていた……怖くない何かの気配……でも、そんな筈ないよね?
「……撤退するぞ」
「う、うん……」
「なに、これ……? 何が起きてるの……?」
「お、落ち着きましょう、撤退はまだ容易な筈です」
皆が慌てている中で、私も気を引き締める。
変な感じはするけど、殺意は本物だ。ぼーっとしていられる状況じゃない。
「殿は俺が——」
ロイがそう言った次の瞬間、地面に変な模様が現れ、目も眩む程の光を放った。
気付いた時には皆いなくなっていて、目の前には大きな獣がいた。
遠くにも似た様な気配が幾つかあって、皆がそれらの直ぐ近くにいるのが分かる。
なんか良く分からないけど、でもナタちゃんとイネちゃんを1人にするのはマズイ。
直ぐに助けに行きたいけど、コレに背を向けるのはキケンだ。
2足で立った獣は、威嚇する様に太い両腕を上げ、大きな胴体の胸元を叩いて咆える。
そこへ私は、棍棒を振り下ろした。
「んッ!」
バスッと鈍い音。
両手で振り下ろした棍棒は片手で止められ、振るわれたもう片方の拳に蹴りを合わせる。
「わわっ」
押し込まれ、後退る。
危ない、凄い力だった。
「むぅ」
直ぐに駆け付けるのは無理かも。
ナタちゃん、イネちゃん、何でも良いからとにかく生き延びて……!




