第20話 暴君ウェンザード
第五位階上位
さて、虎の一派、深淵フォーレンの戦力を纏めよう。
先ずはフォーレン自身。
直接対峙した訳では無いが、痕跡から見えるその戦闘力は、推測通りレベル600を越える。
極めて高い魔法技術を持ち、当然それを利用した備えが出来ている筈。
実際の戦力はおよそ700程度と見積もって良いだろう。
続けてその隠し玉。
レベル500程度の力を持つ100人の子供達、猛虎会なる秘密組織だ。
投薬と隷属により作られたが故、その性能は一定であり、実力は並のレベル500程度。
ただし、それが100体もいる現状、フォーレンの隠し玉だけで、王家を除く大空洞の全てを制圧出来るだろう。
その戦力をフォーレンがどう運用するつもりなのかは分からなかったが、血の瞳の研究データから、フォーレンは自分の手勢にヴァンディワルの血をあまり入れたく無い様に見えた。
或いはもしかすると、フォーレンは第三の革命軍なのかもしれない。
次に、虎の一派。
数十名のロード、数百のノーブル、ロードやノーブル傘下の吸血鬼達数十万。
頭数こそ多いが、全体的に質は低めだ。
最後に負の化身。
その存在は感知出来なかったが間違いなくフォーレンが負の化身と関わっている。
根拠は単純。
他のエリアと比べて、フォーレンの屋敷周辺の不浄が少し薄いからだ。
複数の欲望が交わる、信仰的な総本山とも言うべきこの場所が、濃いならともかく薄いなどありえない。
それこそが、負の化身がフォーレンの付近に潜んでいる事を如実に表している。
現状得られる十二分な情報は得られたので、次に向かうとしよう。
◇
祭りの様に騒々しい剣の領域に潜入し、現状を把握する。
あちこちで同時に起きた決闘は、全てが下剋上を果たし、手駒のザコッパ達は他の獲物へ決闘を仕掛ける。
そうして剣の一派の末端を蹴散らして回る事で、より上の吸血鬼達の注意を引き付け、やって来たノーブルを蹴散らし、そうこうやってる内に、狙い通りの獲物が釣れた。
僕は遠目に、それを見詰める。
燃え盛る様な赤髪に、飢えた獣の如く鋭い赤眼。引き締まった巨躯からは隠す事の無い強力な気配が噴き上がっている。
これが、吸血鬼の支配者、ヴァンディワルに次ぐ力を持つとされる鮮血の皇帝——
——暴君ウェンザード。
引きつれる配下のロード達からも、永き時を戦い抜いた歴戦の気が感じられる。
狙い通り獲物が釣れたので、ウェンザードの拠点に忍び込もう。
ウキウキ気分でウェンザードを遠回りする様に駆け出した所で、つい今し方僕がいた所にウェンザードが降って来た。
ズドンッと大きな音がこだまし、衝撃で地面が割れ砕けて土埃が舞う中、僕は気にせず移動を続行。
「……ちっ、気のせいか」
辺りを見回し、ウェンザードは独りごちた。
武人ってこう言う所あるよね? 直感に直情的と言うか。
レーベとかも多分リオンが産まれる前はこうだったんじゃ無いかな? ザイエだって、後悔に縛られていなければもっとこんな感じだったろうし。
まぁ、良い拾い物だよね。
そんな事を思いつつ、ウェンザードの拠点に到着した。
そこは、少し散らかってるただの広場。
家なんて作っても壊れるから、ウェンザードは家に住んでいない。
ただし石塊の壁だけは置かれており、縄張りの主張がされている。
広場には、あちこちに強力な魔剣魔槍が刺さっている他、ハイレベルな牛型魔獣の雑に切られた肉が纏められてたり、骨が其処彼処に散らばってたり、鞣された毛皮が布団代わりに何枚も敷かれてたりする。
それ以外には特段何も無し。地下も無ければ異空間も無いので、隠し玉は無いと見て良いだろう。
負に関わる物も無く、至って普通、見た通りの野営地だ。
ウェンザードの戦力を纏めると、先ずレベル700を越えると目されるウェンザード本人。
10人少々のレベル400クラスロード。同じくレベル高めのノーブル数百体に、吸血鬼数万。
ロード達は永く戦い続けて来ただけあり、武装と技量と胆力でレベル500にも匹敵し得るポテンシャルがある。
レベルに対して危険度は高めだが、警戒対象はウェンザードだけ。
それが一番の強敵な訳だが……それにしても、猛虎会含む虎の軍勢と剣の軍勢が衝突したら、良くて虎を2割削れる程度だろう。
……この国にしてはやはり虎は異常な戦力だが……僕がディアリードを神級の怪物と定め、その軍勢に対抗する為に戦力を増強しているのと同様に、フォーレンも何か強大な敵と戦う為に戦力を増やしているのだろうか?
……もしくは……あるあるだが、物があって時間があると、ついやっちゃうよね? やっちゃったのかな?
実際の所、捕食吸収系の力を持つ高位魔物の魔石を使って捕食吸収能力を高めると言うのは中々良いアイディアだ。
それも、吸血鬼と極めて相性が良くもあり、悪くもある蚊型魔蟲の魔石を使おうと言うのは……やはりフォーレンは賢者と言うに相応しい才を持つ様だ。
なんせ、魔石に生前の力が宿ると分かれば、後はそれの取り出し方を調べるだけ。
それが出来れば全ての魔物の力を我が物として、何でも作る事が出来るし、なんなら取り出してる内に一から構成する方法も分かる様になって来る筈だ。
まぁ……1,000年も時間があったならもっと色々出来てても良い…………いや、やめておこう。
さぁ、次はいよいよ、僕本人を使う時だ。
鳥の支配者、美童アンテに会いに行こう。




