第19話 それもまた運命
第五位階上位
立ち並ぶと言うのは語弊がある。
正しくは眠っている。もしくは眠らされている。
そこは言うなれば研究所。
白と光と無色のガラスで構成されるその場所は、明らかに今の吸血鬼達の文明レベルを遥かに超越している。
何せ、上では吸血鬼達がほぼ石造りの家に住み、馬車に乗って移動したり、剣を持って獣を狩っている。
それに対してここはどうか?
塵屑一つない白亜の道に歪みの無い強化ガラス、先進的な構造がある中で、調和する術式の数々。
もはや別世界と言っても過言では無いだろう。
そんな研究所の白く長い廊下には、左右にガラス窓が並び、ガラスの先には計100の個室がある。
見えるのは、透明度の高い赤い液体で満たされたガラスの棺。
中にいるのは、15に満たないであろう子供達。
漏れ出る気配から、それらが全てレベル500相当の力を持っているのだと分かる。
奥へ進むと、見えて来たのは赤い液体の研究及び製作所。
その材料は、血と魔石とポーション。
より詳しく言えば、フォーレンの血。レベル300クラスの蚊型魔蟲の魔石。上級ポーションから抽出された生命属性魔力。それからフォーレンの魔力混じりの水。
蚊型魔蟲の魔石は、どうやら血を分解する力を持つ様だ。
血に特化した捕食吸収能力であり、血の持つ力を効率的に分解吸収出来る。
それは即ち、フォーレンの強大な力を、最小限のダメージで吸収出来ると言う事だ。
それに加え、上級ポーションから供給される高質の生命力は、対象の不足を補い、成長を促す。
この赤い液体は、太古の鼓動や無色の誕霊石等から生み出される生命の最適解、半物質に酷似した、吸血鬼を成長、強化する進化薬だ。
それも、ニライカナイの始原命流の様にただ進化させるだけではなく、吸血鬼の血であるが故に、対象は眷属化され、上位者の魂と繋がり、隷属の代償に得難い経験値を得られる。
実に素晴らしい薬だ。
分解が進み過ぎるが故の使用期限とか、エネルギー拡散が起きやすいとか、投与対象が弱過ぎると自由意志の上書きが起きるとか、それにより忠実な僕は出来るが多様化は失われ、自分の下位互換しか作れないとか、欠点は多い。
しかし、配合率が決まっていて管理が簡単で、演算力を割かずに勝手に一律に成長してくれると言う利点は何物にも変え難い。
多少調整すればより良い物が作れるだろう。
この液体は、今うちの研究者達がお熱な霊化粉粒体に通ずる物がある。
此方が0を1に変える最適解なら、彼方は1を100に変える最適解だ。
……まぁ、やってる事は実際僕がいつもやってるのと変わらない訳だが、実際に研究して完成したモノがあると無いとでは研究者達のやる気が違うからね。
後日持って帰ってやろう。
更に進み、幾らかの研究室をチラチラと見尽くし、色んな研究とその失敗の記録をチラチラと熟読した。
血の瞳の研究記録では、それがヴァンディワルに関係する物である為に利用は出来ないと言う一文と、一応とばかりにガラスケースでポーション漬けにされている沢山のダンピール達の眼球があったり。
迷宮の記録では、スタンピードによる地上への攻撃やその迷宮の在り方、また他の地では見られない異常な蚊型魔物、スキューアの発生と、敢えて吸血鬼をスキューアやその進化魔物で殺害しようとするかの様な狙い澄ました配置運用等から、迷宮には明確な意思がある可能性が高いなどと言う記録。
そんな永き時を感じさせる道を行き、幾つか空き部屋を越えて辿り着いた場所にあったのは……ガラスケースに大切に保管された金属片。
「っ……」
砕け、拉げ、半ばで割れたその金属片には、良く見知った文字が刻まれていた。
——ふろう れん。
砕けて読めなくなった部分の欠片から推測するに、正確には——ふろうちれんや。
それは、彼の偉大な機械の神、イヴ・ハルモニアが駆る母船にて、人類から託された新生児達の名が刻まれていた金属プレート。
——息が詰まる思いだった。
「……」
残念な話だ。
イヴが無念のうちに遺した子供達の一人と思わしき彼は——
吸血鬼の帝王、深淵の二つ名を持つフォーレンは——
——ほぼ間違いなく、黒なのだから。




