第18話 鍵なんて無かった
第五位階下位
怪しさ満点のそれぞれ別の所にある3つの扉、そこに仕掛けられたアラート機能等を纏めて解錠し、中を調べた。
1つ目は、墓。
無人の棺に無名の墓碑、それ以外には何も無く、こびり付く様な悲しみだけが満ちた部屋。
他の2つと比べて極めて強力な隠密と鍵が施された部屋だったから何かあるかと見に来たが、どうやら秘密が隠されていたのではなく、心が隠された部屋だったらしい。
墓碑を蹴り倒し棺を真っ二つにしたら、フォーレンの底が見えるかもしれないが、現場を操作するには悪感情の爆発と負の化身は相性が良過ぎる。些か悪手なのでやめておこう。
2つ目は、強力な武装の倉庫。
迷宮産と見られる魔剣魔槍、鎧に装飾品の数々。
その殆どはレア度4、レベルにして100以下程度だが、中にはレア度5、200前後の代物もあり、レベル300クラスの武装も何点か見られる。
そのほぼ全てが、飾りやただの蒐集品では無く、ワンセットの装備として纏められていた。
戦いを想定した装備の置き方だ。
仮に伯爵級にこれらを装備させた場合、どんな愚か者でも侯爵級に届き得る。
ノーブルですら伯爵級に匹敵する力が得られるだろう。それがおおよそ100組程あった。
伯爵級が100体増えると考えると、とんでもない隠し玉だと言える。
最後、3つ目は、大瓶に入れられた血の冷蔵倉庫。
かなりの数の瓶がワインセラーの様に整頓されており、その全てに保存の術式が刻まれている。
含有属性が一定な事から、迷宮産の瓶ではなく何者かが作った物だと推測できる。
保存の術式は治癒系にせよ空間系にせよそれなりに高度なので、作るには知識と技術が必要だ。
そこらのロードやノーブルでも、治癒系くらいなら学べばそれくらい出来るが、何処を周ってもやってる様子は無かった事から、制作者はフォーレンの私兵かフォーレン自身だろう。
単純な量と保存術式、吸血鬼の食性から見ると、血の消費期限は一年、それでおよそ1,000人の吸血鬼を食わせて行ける。
まぁそもそも吸血鬼は毎日食事を摂る必要は無いし、休眠状態にしておけば一年くらい飲まず食わずで行けるだろうが……それも込みで考えると数十万単位で賄える計算になるな。
最も怪しい3つの部屋をぱっと調べただけで、墓やら武装やら備蓄やらとそれなりに重要な物が見えて来たが、特に3つ目、冷蔵倉庫の奥には、更に怪しい物が見つかった。
壁全体に刻まれた冷気を維持する大きな術式と、特に意味もない彩りの模様の中に紛れる、高度で精緻な術式。
それは言うなれば、無縫の扉。
鍵となる術を入力する事で、継ぎ目の無い扉が開かれ、その先にある何かを覆う隠蔽結界に穴が開く様になっており、鍵を外せば継ぎ目は綺麗さっぱり閉じられ、結界の穴も塞がれる。
幾重にも張られ、ひたすらに中の物を隠す為に作られた隠蔽結界は、直ぐ近くで見られるならともかく、レベル600や700クラスでもそれと当たりを付けて見ないと気付かないだろう。
いや、700クラスなら或いは、何かあるくらいは気付けるか? 800ならば遠くからでも何かしらあると気付けるかもしれない。
まぁどちらにせよ、何かを探る気で意識を向けないと気付けない代物。
それだけで、これを用意したであろうフォーレンは相当な術師であると分かる。
おそらくは爺様並みか? いや、数百年の準備期間や使える駒、迷宮なんかを考慮すると、爺様なら転移門やら空間拡張やらやりたい放題出来るだろうし、爺様より一回り二回り下だろう。
独学で頑張ったのだろうからポテンシャルでは爺様に届き得るかもしれない。
ともあれ、鍵だ。
鍵と繋がる術を探るに、ミスリードが幾らか見られるが、解錠は簡単だ。
術式の解読はどこまで目を入れられるか、即ち己の魔力を何処まで細くし、それを完璧に使い熟せるかが重要な訳だが、僕は神気をその粒子までコントロール出来るので、今更物質体に刻まれた術式を解読するくらいどうと言う事もない。
問題は、この貧弱な体と演算力で、自分を完璧に隠しつつ、常に警戒しているであろう扉の解錠を隠匿する事が非常に困難である点……と言うか無理と言っても差し支えない。
他のどの術式よりも高度で広範囲が故に、どうしても手を広げきれないのだ。
と言う訳で、僕は肉体を精霊化させた。
正確には、魔力分解した。
粒子となって術式に入り込み、そうなっては割とザルな隙間をすり抜けて、扉の先へ進む。
……扉を開けてはいないが入れると言う事はつまり開けっぱなしだったと言う事で、これは開けっぱなしにしてる方が悪い。
そんな吸血鬼風の言い訳を考えながら入ったそこには——
——レベル500クラスの吸血鬼が100体並んでいた。




