第17話 深淵フォーレン
第五位階上位
念入りに吸血鬼達を調べて周り、一般からノーブルまでが想定の範疇に収まった事を確認してから、ロードクラスの調査を開始した。
具体的には、住居へ侵入して本や書類を確認したり、倉庫を物色したり、隠し部屋の有無を調べたり、各ロードクラスの立ち居振る舞いと放つ気配を見てその実力を計ったりだ。
分かった事は、ロードクラスが迷宮産の魔道具を複数所持している事。
長年生きているだけあり、中にはかなり強い魔剣の類いもあった。
傾向的には、立ち居振る舞いから地力の低いと判断できる奴程強力な武装、特に防具や金品を倉庫に大量に蓄え、地力が高い奴程強い武器数本と多少の金を適当な所に置いている。
長く生きている連中は所持品を見ればどんな性格で実力がどの程度か分かる仕様であった。
それら込みの実力で言っても、虎のロードはどうせ武器を使い熟せないだろうから幾らでも付け入る隙はある。
剣のロードは現状ダンピール達で撃破するのはほぼ不可能に近く、鳥のロードは1体くらいならどうにかなるかと言った所。
そのほぼ全てが想定を越えない程度なのは、永き停滞の中で日々安寧を甘受していたからに他ならない。
青血会と白百合会のメンバーはノーブルクラスにしてその域を越える程には良く鍛えられているが、所詮は良く鍛えられている程度だ。
そんな中にあって異彩を放つのが、フリーのロード、エングレイ侯爵。
鍛えられた肉体、研ぎ澄まされた技量、磨き上げられた生来の肉体に宿る術、そして何より……天に唾を吐く愚かしくも逞しい野心。
そこそこ頭も良く根回しが出来て、多くの部下を従えるカリスマがあり、中々どうして悪くない駒だ。
惜しむらくはその野望の小さき事。
虎を討ち、自らが公爵となる。その程度の願いしか無いから侯爵止まりなのだ。
足りないのは意志。先鋭化されたそれは往々にして、足りない者達からは狂気に映る物である。
まぁ、足りないとは言え、何も考えない愚かなロード達と比べればずっとマシだ。
吸血鬼達が想定の範囲内に収まった所で、いよいよ公爵家の調査を始める。
◇
鍛え直した荒削りのフリーノーブルや一般吸血鬼を剣の支配地に向かわせた。
そこらで管を巻く剣の一派の末端達に決闘を仕掛け、ボコボコにして剣の公爵の気を引いて貰う。
一方、手駒たる伯爵とその配下には、方々から掻き集めた十分な資金を持たせ、虎の公家へ向かわせた。
僕はその従者や荷物に紛れ込み、虎の公家へ難なく潜入。
ザルな警備を潜り抜け、広い屋敷の調査を開始した。
流石に公爵と相対するとばれるし、何なら少しでも気が残っていると勘付かれるので、ほんの僅かにすら痕跡を残さない様持ち得る全ての技術と小細工を行使する。
送り込んだ伯爵は、少し待って執務室へ通され、他の吸血鬼達は指示通り、尊大な貴族の様に振る舞わせてなるべく散って動いて貰う。
装備類もやたらと雑多な属性を待たせている為、ほんの僅かに僕の気が残っていたとしても気付かないだろう。
気付いたなら気付いたで、サンディアに智将足り得る部下が出来るので良しである。
さてさて、それじゃあ事前に集めた虎に関する情報を再度整理しよう。
先ずは虎のボス。その名を、深淵フォーレン。
闇を操り、敵対者を闇に沈めて引き裂く様に殺す様から、深淵の二つ名で呼ばれる怪物。
その実、おそらく操影術に特化した吸血鬼であると考えられる。
まぁ公爵が戦う姿など数百年前の話で、所詮は尾鰭背鰭が付いた話かもしれないし、過小評価された話かもしれないし、実際に起こす事象のレベルとしては大した事ないどころかイーネシスでも教えれば出来るので、少し影を操って敵を潰しただけかもしれない。
容姿は、茶髪の壮年でいつも落ち着いた服装。特段目立たず、とても公と呼べる程強そうには見えないらしい。
それに関してもまぁ、霊験門を越えた者なら容姿ぐらい自在だ。
成した業績は、貨幣を作った事。
それにより、強い者が獲物を狩り、弱い者が裏方をすると言った形で、人間牧場や人間に職能を持たせ働かせる社会構造、他事務面での発展が見られる事となり、今の吸血鬼社会形成の大きな要因となった。
虎が最大派閥となっているのはお金の力が大きい。お金の力により弱き者も少しは強くなる、そう言った形でフォーレンは吸血鬼全体の質の底上げに貢献したと言えるだろう。
詰まる所、実力不明、容姿不明、その業績だけがしっかりと今に残っている訳だ。
そんな虎の屋敷は、他の公家やロード達と比べて極めて広大であり、申し訳程度の小さな柵で覆われていた。
庭には様々な形の石像が財力を見せ付ける様に置かれ、数人の私兵が巡回している。
屋敷の中は、やたらと部屋があったり物置があったりと見た目相応の広さで、外同様に財力を見せ付けるかの如くあちこちに調度品が置かれている。
差し当たり端から端まで見て周り、怪しい所を調べて行く。
大鏡をスライドしたら隣の密室に繋がる道が出来たり、絵画をずらしたら謎のスイッチが出て来たり、台に取り付けられた壺の底に魔法陣があったり、開けたら警報が鳴る様になっている豪奢な宝箱があったり。
怪しさ満点のおもしろ屋敷と化しているその場所で、特に怪しく、見事な隠蔽と複雑な鍵が施された扉が3つあった。
取り敢えず入るよね。




