第15話 なけなしの兵
第五位階下位
ゲーム開始から29日目の朝。
まぁ、地下には朝とか昼とかは関係ない話しだが、ダンピール達は吸血鬼があまり動かなくなる朝から頑張って動き始める。
それじゃあ、一晩の調査結果等を纏めよう。
吸血鬼達がお金稼ぎでレベリングをしている一方、僕はダンピールの町を入念に調査した。
未知の伏兵や使えそうな遺物、その詳細な戦力や戦力外の者達の状況を調べる為だ。
その結果、色々と面白い物も見つかったし、面白い事も見つかった。
先ずは、壺だ。
ダンピールの墓地。とは名ばかりの、ちょっとした目印程度が置かれたお墓。
街の陰に点在するそれらの下に埋められていたのは、壺に入れられた大小様々なダンピール達の中指の骨。
これが彼等なりの葬送。
……と言うかまぁ、元々の墓地跡地を見た限りだと、集合墓地とかを作ると吸血鬼が荒らすのだろう。獣かっ。いや実際は尊厳を踏み躙る様な罵詈雑言がおまけ付きだろうから畜生以下だろう。
葬送の詳細は、死後中指を切り取り、遺体は迷宮に運ぶ。中指は土に埋め、骨だけになったら取り出し、壺に纏める。壺がいっぱいになると地面に埋める。
詰まる所、迷宮葬と土葬と言えるだろう。
ダンピール達は迷宮からの資源で生き、存在した証を残して迷宮へ帰るのだ。
では、何故中指なのか、何故指を切るのかだが、此方も調べは付いている。
先ず、何故中指なのかだが、中指は腕の延長線の中心にある為、指の中では心臓に直結していると思われている。
その為、死後中指を切り、心臓を通して全身に流れる吸血鬼の血を少しでも多く捨てて行く為だ。
ダンピール達は吸血鬼達の真綿で絞める様な迫害から逃れたいが為に、死後魂は何処かの楽園に行くと信じている。
その楽園には吸血鬼達もいるが、吸血鬼の権力中枢足る強い吸血鬼達は死なない為、数の暴力で吸血鬼を退けていると言う信仰、もとい妄想があるのだ。
死後くらいはどう想像して妄想して信仰しても良いが、実際の流れは……地下空洞の状況的に全部迷宮に吸われてるね。
迷宮にとって、死体も魂もくれるダンピールは良い家畜である。
次に、何故指を切るのかだが、此方は主に3種の理由だ。
第一に、そもそも吸血鬼達は部位欠損を嫌う。部位が欠損している者は目にも入れたくない様だ。
理由は至極簡単で、吸血鬼は欠損しないから。腕が千切れても再生するし、その場でエネルギーが足りなくても、後で何か食べるなりしてエネルギーを補給すれば再生する。
それ故、部位欠損がある者は人間やダンピールのみとなり、必然下等種の中でも更に下等と言う認識になる訳だ。
よって、指を切る理由は魔除けの為と言える。
ダンピールの中には自ら中指を落として敢えて見え易い様にする、生前葬みたいな事をしている奴もいるくらいには効果のある魔除けだ。
第二に、生きた証を残す為。そして、あの世で幸せに暮らしているダンピール達に祈りを届ける縁とする為。
最後に……腕とか足とか頭の骨とかを残すよりもずっと省スペースで済むと言う現実的な理由。
なんやかんや言ったが詰まる所、魔除けと祈りと省スペースの葬送と言う事である。
手に入れた壺と大量の中指の骨は、本来であれば怨念が篭っている筈だが、何らかの理由……と言うかまぁ十中八九、この地に存在する負の化身、もしくはそれに与する者が、純度の高い不浄を回収したから、怨念が入っていない。
全ての怨念を吸われた墓に残るのは、祈りと希望だけだ。
永きに渡りダンピール達が積み上げて来た希望は、僕が精々有効利用してやるとしよう。
次、吸血鬼達の主な行動基準についてだ。
前提として、吸血鬼達は理由の無い暴力を振るわない。
と言うより、暴力を振るいたくなったら理由を付けて来るのだ。
勿論、その理由は何の言い訳にもならないただの仮初。
自らを正当化して正義の為に振るう拳はさぞ軽かろう物だ。
例えば、足引っ掛けて転ばしといて足を蹴られたとか言って殴ったり、手を突いたら壁が壊れたとか言って家屋をボコボコにしたり、とまぁ、聞くに堪えない言い訳である。
では何故、誰憚る事なく暴力を振るえる筈の吸血鬼達が、何かしらの理由を付けて自分を正当化しないといけないのか?
それはまた簡潔な理由だ。
——自らを守る為である。
法を盾に正当性を主張すると言う事は、誰かの威を借りると言う事だ。
ダンピールを迫害する吸血鬼の殆どは、大した力を持たない雑魚か、財力と権力にしがみ付く、ただ長く生きただけの雑魚ノーブルや雑魚ロード。
強者から自分達を守る為には誰かの威を借りなければならない。
その誰かこそが権力であり、権力とは集団の上に存在する先鋭化された和である。即ち弱者が縋り付く先は集団なのだ。
高々数十万のレベル100以下装備無しの群れなぞ、レベル700を優に越えると目されるヴァンディワルには塵にも等しいだろうが。
ともあれ、正当性を持ち、権力と言う縋り付く先を得た吸血鬼達は、それにより上位者の気紛れから自分達を守った気になっている訳だ。
後は、青血会や白百合会がむやみな暴力を禁じてるのも要因の一つか。
ダンピールを迫害するのにも、バレた時の言い訳が有れば正当性の主張もできよう。
上に従っていれば上からの暴力も上が何とかしてくれると思うのは当然の事
弱者がより強者を畏れ、より弱者を甚振る愚かしいスパイラル。
どっかで見た様なカースト構造だな。奴が関わってない社会集団は無い物と見て行動した方がいいだろうね。
さて、そんなカースト構造の1番下にいるダンピール達の詳細な戦力だが……先ず、僕が警戒するレベルの伏兵はいない。
伏兵になり得た筈の怨念はいなかったし、それに付随した希望は僕の手の内に落ちた。
特段強大な力を持った者の転生者もいないし、そう言った者の力の欠片が落ちている様子も無い。
ダンピールの中で最も強いのは、革命軍のボス、ヴォーグ。
闇に適性の高い順当な黒髪の男で、歳のほどは4、 50と言った所に見えるが、長命なダンピールならば80くらい行っていても不思議では無い。
あちこち忍び込んで見た結果分かったのは、ヴォーグ氏がそれなりに天分を備えていると言う事。
魔力のコントロールを独学で覚え、闘気法の操作を体得している。
ダンピール達の持つ知識、技能は、吸血鬼から流出した物がほぼ全てと言って良い。
その流出方法は、職能を持たせられた人間の仕事を見て学び取ったり、ダンピールを産ませた結果親子共々放逐されたり、もしくは吸血鬼の気紛れ等だ。
中にはダンピールの信仰の様に、ダンピールが発展させた思想もあるが、それにしたって真しやかに語られて来た物であり、ただ1人が導き出した物では無い。
その点で言えば、独学で闘気をコントロールして見せたヴォーグ氏のポテンシャルは天武六仙、ナーヤとかに匹敵すると見て良い。
その想定レベルは、ざっと60程か? 迷宮産の武装も込みだとレベル75くらいは行けそうだ。
事実上ノーブル、男爵級の吸血鬼と渡り合える計算だ。
次に強いのは、ギムと言う名の茶髪の男、裏切り者の疑いが強い灰髪のオーダン、革命軍の中では1番年上と見られる白髪のランダ。
レベル想定はざっと 50くらい。ランダ氏はヴォーグ氏と同じくらいに感じるが、老いが進んでいるから 50くらいの実力しか出せないだろう。
ギム氏は槍技において、ヴォーグ氏から学び取った闘気を操れるが、攻撃時以外での錬成は出来ない。
まぁ、吸血鬼をヤるには攻撃時に出来るだけで十分だが。
オーダン氏は、ギム氏よりも錬成が出来る方だが、瞬発力が低い傾向にある。
ランダ氏はヴォーグ氏に次ぐ実力だが、老いている。
実力的には、ノーブルクラス、騎士爵の吸血鬼と戦えるレベルだ。
このトップクラスに次ぐ古参達が、大体レベル30から40程度の実力。
若手は10から20程度で、革命軍の構成員およそ500の平均レベルは20程度であった。
これは地上だと近衛騎士団並みだが、生来の強者である吸血鬼達とはようやく互角と言った所。
迷宮産のしょぼい武器で武装し、劣化吸血鬼程度の力を程々に扱え、日々訓練している革命軍の実力は、精々そこそこな吸血鬼と戦える程度だ。
そんな革命軍の中にあって、これぞ伏兵と言える様な連中が4人いる。




