第9話 ユキミンM中毒
第八位階下位
吸血鬼の国へ分体僕を送り込んだ。
まぁ、僕ならば何があろうと十分な戦果を上げるだろう。
本体僕は万事に対応出来る様に精神力を温存しつつ、色んな処理を進めて行く。
研究開発等新しい事をやるよりも、時間だけは掛かるばっかりに放置していたタスクの処理だ。
具体的には、属性魔法スキルや武術スキルのレベリングだ。
そこら辺は自前の演算力のみでバリバリ熟していたので、魔力操作系や思考加速系、闘気法や念動力等のスキルばっかり上がって他は疎かになっていた。
これらスキルを上げる事で、属性変換の処理を軽減したり武装の固有属性と親和しやすくなるので、あげておいて損になる事は無い。
折角なので、耐性系スキルの強化も並行して行うとしよう。
◇
様々な属性魔法を同時に使いつつ、体を焼いたり切ったり貫いたりして耐性と再生も鍛え、そのおまけに武器を振って武術スキルも上げる。
そんな一種暇とも言える時間を有効活用し、至天霊郷の開発アドバイザーや王国支配の進捗確認をしていると、ある報告が届いた。
取り急ぎ血塗れの大地の掃除はパフィ子達に任せ、浄化で濡れ鼠な僕を綺麗にする。
露出した骨や筋肉も元通りにし、服装をぱぱっと整えた。
「ゆぃ〜」
「おいちぃ〜」
「れろん、んー! れろ」
小さい僕もどきが床をぺろぺろして震えている異様な光景には目を瞑り、しっかり血臭も消してその場を後にした。
……もし吸血鬼達がこの場にいたら……発狂しちゃうかもしれないな。
鍛錬島から転移し、向かった先は王都にある僕の屋敷。
獣人3人組がいよいよ引き篭もりをやめるらしいので、会いに来たのである。
そろそろだとは思っていたが、想定よりもやや早い。
常人の何千倍にも加速出来る思考で戦闘中もかくやと言う甘え具合だったが、分体僕の甘やかしの誘惑を振り切れたのは、数千年に渡り磨き上げた意思が故だろう。
彼女等に特段やって貰う事は今の所特に無い。ただの予備戦力。
差し当たり彼女等には会って貰わないといけない人が……いや、彼女等が会いたい人がいるので、先に案内するとしよう。
◇◆◇
温かくて、柔らかくて、優しい。
何処までも深く、深く落ちていく。
あの人に抱き着き、あの人に撫でられ、あの人の匂いを嗅ぐ。
その体温に、柔らかい肢体に、優しい瞳に、深く、深く、何処までも。
最初は眠るのも怖かった。
夢を見ている様だったから。本当に夢だったら、そう思うと恐ろしくて。
でも、あまりに心地良いから、気付くと眠っていて……明らかに夢なのにあの人は夢の中にも現れた。
いつしか夢と現実の区別も付かなくなり、遥かな揺籠にその全てを晒し揺蕩っていると、声が聞こえた。
夢か現実か、その境の微睡みで、良く聞き慣れた声が。
——いつまで甘えているつもり?
スッと、目が覚めそうになる。
でも、直ぐにあの人の囁きが、私を深く、引き寄せた。
「もっと、甘えて良いんだよ?」
もっと僕を見て、僕を感じて、深く深く、いつまでも。
青い月が輝く夜に、私は深く、沈みゆく。
……あぁ、でも、本当はもう、気付いているの。
いつまでもこうしてはいられないって。
ずっと甘えていたいけど、それを許せない人がいるって。
——私だ。
貰った幸せ、これから貰う幸せ、沢山の愛。
それをちゃんと、返せる様に。
あの人の、ママの隣を歩ける様に。
ねぇママ、私、もう大丈夫だよ。
そっか。そう言ってママは微笑み、私の手を握ってくれた。
◇
意を決して扉を開くと、同じ音が3つ重なった。
出て来たのは、アルティアとシュクラム。
その手を握る違う形のママをお互いに見て、つい照れて笑ってしまう。
皆同時にって事は、ママが調節したんだろうなぁ。
全部手のひらの上かぁ、こんなちっちゃいおててなのに。
手をキュッキュと握ると同じ様に返してくれて、つい抱き着きたくなっちゃうのを我慢……する必要無い?
いざ! と思った次の瞬間——
「やぁ、皆おはよう。良く眠れた?」
——第一のママが現れた。
真っ先に反応したのは、ちゃっかりしている所のあるシュクラム。
「ママー」
狐のママを引っ張って、両手を広げて狐ママとママに抱き締めて貰っている。
もはやママ成分2倍どころの話じゃない。溢れ出したママ波動に自然と足が引き寄せられる……!
「ま、ママー!」
いつのまにか狐ママが消えているけど、それに構わず悪魔ママとママに抱き着いた。
これは……ママパワーが強すぎて抗えないと言う事なの……!?
「ママー」
「よしよーし」
◇◆◇
なんだこいつら、精神年齢が甘えん坊モードのちびっ子達並みに下がっている。
本能と理性が乖離している。
だがまぁ、上手く依存してくれているので良しとして、葛藤していたアルティアも、両手を広げる事で抱き付かせた。
取り敢えず全員撫でて、分霊仕込みのアバターは回収した。
それじゃあ早速行くとしよう。
今日の為に、ちびっ子達はフリーにしてある。




