第8話 謀略の果てに闇
第五位階下位
にわかに騒がしいアジトの中で話し合う奴等がいる中、何人かは忙しく外へ向かう。
その中から特に吸血鬼の匂いが濃い男、オーダンと言う革命軍の古参らしき男の後を付けると、北区画にある一際大きな屋敷、その近くにある家屋に着いた。
人影の無い路地裏で、カツンと小さな物音が鳴る。
ドアに空いた小さな穴に、絵の刻まれた木片が入れられたからだ。そのまんま割符だ。
「……」
「……」
少し待つと、無言のままに扉は開かれ、下位の吸血鬼がダンピールを迎え入れる。
表面上は取り繕っているが、嫌悪と蔑みの感情はしっかり胸の内に抱いている様子。
そんな演技派吸血鬼に案内され、密閉された地下道を通り、屋敷に入った。
「エングレイ様がお待ちだ」
「あぁ」
案内に現れた吸血鬼の後に続いて、豪華では無いが整った廊下を進む。
地下通路の方から密かに聞こえた舌打ちを聞き流し、何度か吸血鬼とすれ違った末、そこに辿り着く。
気配は少し気を張って入念に隠している。
ノックの音が響き、間も無く強い力を宿す声が聞こえた。
そこにいたのは——
——侯爵級、レベル400クラスの吸血鬼。
何故か紋無しだが実力は確かだ。
寧ろ紋無しだからこそ、実力でのし上がって来たのだと分かる。
ダンピールの男は直ぐに跪き、首を垂れる。
「エングレイ様、ご報告に参りました」
「聞こう」
「はっ」
さて、その報告によると、ダンピール達は3日後の宣言以降、吸血鬼が大陸へ侵攻したら虎を討つ為に動くとの事。
虎を討った後は、その場を占拠し、周辺の幾らかの吸血鬼を人質にダンピールの権利を訴えるのだとか何とか。
それから、ダンピールの襲撃に乗じて虎を討つ好機であるとか何とか。
……………………取り敢えず2つ分かった事がある。
1つは、ダンピールの全滅が確定している事。
2つ目は、エングレイ侯爵はダンピールの後ろ盾では無いが虎を討つ気はある、第二の革命軍であると言う事。
更に付け足すなら……虎が侮られる様に状況を操作していると言う事実。
はっきり言って、レベル400で留まっている程度の者が、最低でも霊験門は越えていると目される三公に、勝てる道理は無い。
霊験門を越えていると言うだけで、猛者の証明としては十分過ぎる。
そこにあるのは、積み上げた時間と潜り抜けて来た修羅場の差だ。
学の無いダンピールは騙せても、自力で生体限界を越えた歴戦の吸血鬼を欺いていると言うのなら、正しく頭脳派。
手駒で関わらせるのはかなり心配な相手だな。
それにそれだけのキレ者なら、負の化身に関わっていない方がおかしい。
他の皇帝級がどんな物か見ない限り、結局詳しい所は分からない訳だが、現状最も怪しいのは虎の公家だ。次点で王家。
そうと分かれば行動あるのみ。
先ずは予定通りちょうど良い戦力を鹵獲し、迷宮を踏破してお金とレベルを稼ぐ。
鳥よりも虎の調査を優先し、鳥に顔を出すのはもう少し後にしよう。
◇
下位吸血鬼の群れに混じり、迷宮の下見にやって来た。
どの迷宮がどの程度のやりやすさで稼ぎがどの程度なのか、それによって吸血鬼達の配置も変わるので、効率的運用の為には必要な調査だ。
入ったのは、中央の町と壁際の廃墟、じゃなかったダンピールの町の間にある、広大な平野の迷宮。
平野の迷宮は月に一度、青血会がスタンピード対策で大規模に狩りをするが、アクセスが悪いのでそれ以外ではあまり狩りがされない。
平野に比べれば明るい迷宮の道を進み、出て来た鼠やら蝙蝠やら大きな蚊の雑魚を屠って一層を抜け、蛇やら犬やらを屠り、大きくなったりした鼠や蝙蝠、蛇に犬と蚊を叩き潰して、五層の最深部に到達、影を操る程度の大型蝙蝠を撃破した。
青血会が迷宮核を潰して階層数を管理しているので、下位の迷宮ならこんな物だろう。
稼ぎとしては、あまり狩る者も居らず、獲物が溜まっているので、単価は安くともそれなりの額になる。
ただし、3日と言う制限があるなら、下位の迷宮の攻略は1回限りで良い。
次は、十層程度の迷宮。
これら中位の迷宮は、十層目が範囲の狭い異界化迷宮となっている。
と言うよりも、異界化した迷宮が狩られず残され、異界が一層増加する度に狩ってそれを管理しているのだ。
発生している異界の種類は、夜森、夜荒野、夜湖、全て夜なのは、入って来る他生物が朝では活動出来ない為。
生命の活性を担う迷宮と言う存在は、他生物が侵入しなければその本分を満たせないのだ。
今回入る中位迷宮は、夜森。
低階層は下位とほぼ同じで、様々な小動物が出る。あと蚊も。
何故か蝙蝠が出ない迷宮はあるのに、スキューアとか言う種族名の蚊だけは必ずいるんだけど……吸血鬼達、迷宮から煽られてない?
吸血鬼達は壁に張り付く様に暮らしているダンピール達をスキューア扱いして馬鹿にしているが、自分達こそが煽られている事に気付いた方が良い。
ルベリオン王国の迷宮に蚊が出て来る迷宮なんて全く無いからね?
それはともかく中位迷宮。
およそ8層までは、小動物やそれが少し大きくなったり、弱々しい魔法を使って来たりするくらいだったが、9層では熊や鹿等の大型な動物が出現。それも少し奥と言うだけあって、それなりに戦闘力のある大型獣だ。
レベルにして高い物で20相当。これはレッサーな一般吸血鬼と互角レベルである。
そして最深部の異界迷宮。ここには小動物は勿論、狭いながらも9層より多く僅かに強い大型獣が散見され、一般レベルの吸血鬼はここまで入って来ない。
ちゃんと人並みの武術と装備が有ればそれでも渡り合えるだろうが……一般吸血鬼達は基本ステゴロで再生力に物を言わせ、それなりの怪力でぶち殺すスタイルなので、そこら辺の研鑽はしていない。
そう言う意味でも、ちゃんと武装するダンピール達の方が強い場合と言うのは往々にしてある訳だ。
急拵えの連携は、ザコッパな下位吸血鬼達をそれなりの戦士に変え、大型獣が何体来ようと安定して退ける。
僕が居らずとも適切な処理が行われ、ボスの電撃を放つ鹿が討たれて、中位迷宮の踏破は完了した。
稼ぎとしては、大型獣が量のおかげでまぁまぁの値が付き、おまけに大型化した蚊の魔物も量の割に高めの値段。
下位吸血鬼の戦闘力を考慮すると、中位迷宮を殲滅して回るのが最高効率と言えるだろう。
最後に上位迷宮……と行きたいが、上位迷宮は王家や公爵、極々一部の侯爵が管理しており、一般に解放されている所も青血会の監視が厳しいので、派手に暴れる事は出来ない。
稼ぎは良いんだろうけど、動きがバレれば目的の達成は面倒になる。
下位の吸血鬼は下位の迷宮をひたすらに巡らせてお金を稼ぎ、それが終わり次第中位の迷宮へ。
他吸血鬼やノーブルクラスは、戦力によって中位迷宮へ分配し、狩りを続けさせる。
上手く回せば、明日までに十分な額が得られるだろう。




