第4話 一歩進んで五歩下がる
第八位階下位
次に、旧ルベリオン王国転覆。
本日より国民を村単位、町単位で捕らえ、1分程度の教育を施す。
マレビトがいる場所では少し慎重に行動するが、全ての教育工程は30分で終わらせる。
それが終了次第、黒霧による運営を開始する。
国内の完全なシステム構築が終わるまではやや時間を要するだろうが、それも今日中には終わる予定だ。
国内に関してはそれで良いとして、次は帝国。
吸血鬼と相対するに際して、帝国を暫し放置する事になるが、それだと主に時間的資源が勿体ないので、兵士を1人派遣する事とした。
送り込むのは、万が一があっても損害が軽微で済むそれなりの戦力、即ち、イェガの子機。専用にカスタマイズした戦闘人形だ。
イェガにはそれを操り、フィールド制限の解除と村等の魂の回収を行なって貰う。
どう動くか等の細かい部分はイェガに一任してしまって良いだろう。良きにはからえ。
そして最後、吸血鬼。
昨夜、ルベリオン王国への中継拠点であるアンリース伯爵の城に吸血鬼の群れがやって来た。
総数にして60、小隊規模の吸血鬼達は、どうやら王国中の吸血鬼へ帰還命令を通達する任を与えられていたらしく、おおよそ3日以内に王国に潜んでいる全ての吸血鬼が帰還する予定なのだとか。
彼等に曰く、理由は分からんがいよいよ吸血鬼が大陸に覇を唱える時が来たのだとか何とかかんとか。
まぁ、吸血鬼の戦力がどの程度かは分からないが、下っ端の言う事が正しいなら最低でもシスターアルメリアと大賢者デュナークを下せる準備はあると言う事だろう。
そしてそれが負の化身と関係が無いとは思えない。
何も知らない下っ端の発言故、参考程度にしか聞かないが、彼等にその様な気運があるのだと分かっただけでも十分な価値のある情報だ。
取り敢えずゴミはしっかりリサイクルした。
「さて……と」
一応まだ予定は幾つかあるが、これにてひと段落と言って良いだろう。
僕は軽く伸びをして、遥か遠い吸血鬼達の巣窟を思う。
「ふふ……」
敵がどのくらいの戦力かは未知数。伏兵と言うのは往々にしてある物だ。
そしてそれらは、どう転んでも美味しい。
新しいおもちゃを前にした子供の様に、ただ僕は微笑み、策を巡らす。
◇
所変わって吸血鬼の島上空。
邪神の欠片がどの程度の物か、どの様な状況にあるかを調べる為、僕が単身乗り込んで調査する事とした。
勿論、本体では無い。
流石にディアリードやらオリジナルアトラやら天使やらと、僕がしっかり警戒しなければならない敵は多い。
よって送り出したのは、僕の分体である。
ゴミをリサイクルした際に出た生ゴミを更にリサイクルし、こねくり回して作った吸血鬼僕人形。それに分霊身を混ぜた、僕の子機だ。
性能はまずまず。単純なレベル換算なら100程度の雑魚スペックであり、僕を持ってしてもレベル600を1人道連れに出来る程度の能力しかない。
偽装と言う点に重向を置いた為、僕因子も少なめと言う事だ。
そんな吸血鬼僕は遥か天空から島を見下ろす。
それなりに大きな島だ。比較的平坦であり、ちょっとした湖を擁し、畑が多くあり、程々に住民がいる。
ルベリオン王国の領内であり、税の代わりに農産物を納めているが、大陸から離れている為放置されている、事実上搾取されている島。
地上は何の変哲も無い。様に見えて、やはりどこかおかしい。
住民はやけに顔付きが異なり、家屋の数に対して人が多い。
島のあちこちには一見して分からない様な穴が隠されており、そこに至る道は無い。
しかし、それも至極当然だ。
此処は吸血鬼の帝国の支配下にあるから。
吸血鬼の帝国は、この下。
海の更に下に作られた、大空洞の中。
この島は王国を欺く為のペルソナ。住民達は暴力と言う名の首輪で繋がれ、ここは然ながら監獄島。
地獄の口はいつでも開き、住人達を見下ろしている。
そんな島に何故日の高い内に訪れたのかと言うと、指示があったからだ。
吸血鬼達は帰還する様に。取り分け陽光を無効化する道具を貸し与えられた者は、直ぐに帰還する様に。と。
この期に乗じて侵入すべく、急遽分体を作成し、送り込んだ訳である。
僕達はふわりふわりと島に降り立ち、山側にある穴の前に立つ。
此処から先は、吸血鬼の国。
大きな岩の陰に空いた大穴は、遥かな深淵の暗闇を抱き、悠然と構えている。
僕は気負う事もなく、寧ろワクワクと胸を高鳴らせ、暗闇へ一歩、踏み出し——
——回れ右した。
「……ちょっと、先に行って虫を駆除して来てくれないかな? 1匹残らず」
「はっ! 仰せのままにっ」
くそぅ、何処にでも湧きやがって。
まさか地下帝国にもおるまいな? 帰ろうかなぁ?




