第1話 太陽は見ている
第八位階下位
遠い山の隙間から、登りかけの太陽が顔を出している。
吹く風は穏やかで、海は静かに煌めいていた。
小さな白い鳥は、そのつぶらな瞳で海の果てに浮かぶ島を見つめている。
気配を絶ち、朝靄に紛れる僕も、同じ視点で島を見詰め、物は試しと同じ見方で島を見た。
そしてそれに気付く。
「あ」
「コケ?」
本を頼りに、金の力を透かして見た島には、確かな金色と邪悪の気配。
感じられる量こそ微かだが、質足るや金色、負両者共にレベルにして600を超えている。
これは……金色が負の化身ないし邪神の断片を封印しているのか……?
少なくともこの質で量が少ないと言う事は、金の力が内側に向いて負の力を抑え込んでいるとしか思えない。
……もしくは逆、負の化身が邪魔な金を取り押さえている可能性もなきにしもあらず。
何らかの封印が成されているのなら、質に関しては最低値の可能性すらある。レベル750クラスの化身がいると見立てて行動した方が良いだろう。
まったく、こう言う爆弾が良くある物だね。
そんな事を思いつつ、鶏を抱え上げる。
特に抵抗も無いので撫で摩る。
「コケッコ」
「うちの子にしよう」
「コケ」
皆探してたよとか、どこに行ってたのとか、無粋な事は聞かない。
見張ってたんだ、負の化身を。
「よしよし」
「クー?」
「テイムっと」
あっさりとテイムが成功したのは、この子が掛けられた首輪を物ともしない、自由の翼を持っているからだろう。
《《【世界クエスト】『聖獣の第10試練:酉の試練』を『匿名』がクリアしました》》
《【世界クエスト】『聖獣の第10試練:酉の試練』をクリアしました》
ルースターって雄鶏……まぁいっか。
空華 LV805MAX
「ちょっと人になってみて」
「コケッ」
人化状態等における装備の調整等を考えながらそう言うと、にわとりはコクリと頷き、僕の手の中で光を放つ。
現れたのは、青白い髪の少女。
毛先が金色で瞳もまた鮮烈な金を宿している。
体は薄く、身長は僕と同じくらい。髪は短いながらも、飾り羽根の様に長い髪が左右から下に伸び、また頭頂付近でぴょこんと毛が立っている。
服は、禅鬼が言っていた様にしっかり着込まれており、真っ白なスポブラとスパッツの様な物にこれまた飾り羽根の様な、金で細工された青白いスカート……と言うよりパレオの様な物を着ていた。
身軽そうな衣装だが、感じられる性質からおそらく、パレオ以外は心器の類いだろう。
パレオの方は、太陽と星々、宇宙の神格を持った神器の類いで、凡ゆる星から力を吸収、貯蓄する力を有している。名前は星系図。
……本当はパレオじゃなくて星図だな。
これ以上に特段武器や防具の類いは要らなそうだが、幾らか装飾品を付けても良いだろう。ちょうど虹の金属も仕入れたからね。
横抱きに抱えられた空華は、ふいに僕の首に手を回すと、頬に数度バードキスをした。と言うか本人的には嘴で突いている感覚だろう。
「ギンイロ、どうして早く来ないか? トモダチ意味ない」
「ちょっと忙しくてね」
何言ってるか良く分からないが、軽く中を覗いてみれば分かるだろう。
◇
吸血鬼の帝国は直ぐにでも調査したい所だが、その実レベル800くらいまでの邪神の欠片だったら優先排除対象程度で飛んで行く程でもない。
何より吸血鬼と言うそこそこ強靭な生命力を持つ生物が物理的な壁になるので、邪神の欠片が突然暴走しても猶予期間がある。
という訳で、先に諸雑事を終えてから潜入する事とした。
先ず最初に行なったのは、空華の解析。
その本来の姿は、黄金の四翼鳥。表記される別名によると、シームルグ・亜種。
正式名称は、空を彩る黄金の華、太陽鳥・空華。
未知の新種として君臨する、頂点の新たな体現者。更には金色の因子の霊合者と来ている。
とんでもない強者なのは疑うまでもない。
そんな空華の先の発言を解析した結果分かった事は、空華がβテスト時にてっきり僕が来る物だと思っていたが、僕の血縁では無い何者か、即ちトモダチが来た事を指して言っているらしい。
そのトモダチは見た感じタクだ。状況証拠的にもタク以外無い。
ではなぜ空華はギンイロに会いたかったのかと言うと、金の加護を受けた際に、望むままに生きよと言われたからだそうな。
……何の理由にもなっていないが、詰まる所、金の神が加護を与え、自由に生きろ(金因の導きに従え)と言ったからだ。
金は銀を求めるし、銀もまた金に引かれる。僕等はそう言う関係にある。
よって強い金因に霊合した空華は、必然的にギンイロを求める様になり、そして今、僕を捕まえた訳である。
ただ、空華は心の赴くままに生きている様に見えて、その実行動指針には義務感が感じられる。
今回は動き出しそうな負の化身を見張っていたし、前回はタクと共に邪神の欠片を討ち祓った。何なら覆禍ヶ刻に備えて負の化身に対するリーサルウェポンである桃花育成の旅に同行している。
災禍を撒き散らさんとする負の者達を遠巻きに見詰め、いつでも行動に移れる様に備えている。それもバレない様に気配を最大まで抑えて。
野生児2号なんて言われているのが嘘みたいな慎重さだ。
差し当たり空華には、吸血鬼の島とそこにいる負の化身は僕がどうにかする旨を伝え、3人の元へ送り込んだ。
これでようやく白羅、禅鬼、空華、桃花の4人組が揃った訳である。
後はきっちり基礎を鍛え直し、各員の得手を伸ばして、装備を整え、レベルを上げれば、無敵と言っても過言では無いパーティーに仕上がる事だろう。
いつでも覆禍ヶ刻に投入出来る様桃花パーティーの徹底的なしごきをタスクに入れておこう。
クエストをクリアして入手したのは、スキルポイント180P。ロジックポイント360P。
太陽鳥のと名の付く武器『煌輝』『黄金翼』『目醒め』。操具『玉戦車』。それから例によって涙滴結晶。
新たなスキルは、例のプラスパワーに、高速飛行、超速飛行、高速再生、超速再生、再誕。
魔導鎧関連は、理論結晶が『太陽の恩寵』『夜明けの咆哮』。外装は『赤き烏』。
端から見て行こう。
煌輝は、紋章型の装備だ。
常態ではカードであり、換装すると背中に金色の大鳳が描かれる。
主な機能は、オンオフ可能な赤金のオーラを展開する物で、その効果は、まるで太陽が顕現したかの様な熱波を放つと言う代物。
身体性能の強化もあり、実質の火精霊化である。
適当に使えば地面は溶けるわ森は燃えるわでとても使えた物では無いが、ちゃんと対象指定のコントロールをすれば、試練の武具相応の力となってくれる。
……ざっとレベル600程度の火属性コントロール能力が求められるので、僕の配下の中でもまともに扱える者は限られるが、ここは少し改造してレーベにでもあげよう。
保護者枠は贔屓するよ! 皆の指標になって欲しいからね。
次に、黄金翼。
これは黄金の翼が2枚生える装備だ。
機能としては、耐性や適正等の基礎機能強化が主で、それだけなら防具だ。
その攻撃性能は、羽を消費して小型の火の鳥を形成、突撃させる物と、羽ばたきで爆発的な火の風を引き起こす物。
小回りの効く火の鳥でチクチク攻撃するか、大雑把な火の風、紅炎で攻撃するかの2択。
まぁチクチクと言いつつも火の鳥の質は高めなのでダメージは大きいだろうし、紅炎と仰々しく言っているが広範囲攻撃で分散が激しい。
どちらにせよ装備の貯蓄魔力を使うから損は殆ど無いが。
次、目醒め。
此方は、鳥の頭部の様なデザインの腕甲型装備。腕に装着する大砲だ。
口部分から高威力の光線を射出する兵器である。
光線は威力の調整が可能であり、マリアの閃光剣にも似ているが、あちらは貫通に特化しているのに対し此方は光と火で焼き切るのに適している。
次、玉戦車。
これは黄金の船だ。
空を自在に飛び、物凄く頑丈。材質はオリハルコンとヒヒイロカネ、僅かにアボイタカラ、神珍鐡も混じっているか。
そう大きな船ではないが拡張機能があり、魔力をチャージする事で武装の取り付けや内装の強化拡張が出来る。
金属としての質は無霊と言う貧弱さだが、大きくないとは言え船である。然もありなん。
スキルは、例のプラスパワーが、再生力の劇的向上と飛行、火属性の付与等が主な強化スキルで、再生力に物を言わせた近接突撃で敵に消耗を強いるのがコンセプトのスキル。
飛行系スキルは飛行スキルの上位互換で、飛行速度と機動性の向上が見込める。
普段の飛行は念動力で持ち上げて飛ばしているが、そこら辺が少し楽になるスキルだ。
再生系は、貯蓄領域の拡大による基礎再生力の向上と、意識した場合の再生による負担の軽減である。
唯一再誕スキルは特殊で、具体的には再生スキル同様の貯蓄領域の設置と、その貯蓄による死亡時の自動復活及び強化である。
……魂の自在なコントロールが出来るなら無用の長物で、実質ただの巨大な魔力タンク増設スキルと言える。
最後に、魔導鎧系。
理論結晶、太陽の恩寵は、ニルバーナの白い太陽に似た、太陽顕現の魔法だ。
ただし攻撃系では無く、主な効果は味方の性能強化、特に再生力を強化する物。
また副次機能として生命力を活性化し補充まで行う為、成長力にも作用し植物をぐんぐん成長させる力がある。
夜明けの咆哮は、腕甲型装備、目醒めとほぼ同じ効果の閃光を射出する魔法。
目醒めと違う点は、最大威力が低い代わりに周辺の任意の虚空から放つ事が可能な点で、威力は分散するが複数箇所から同時に放つ事も出来る。
外装、赤き烏は、自動迎撃装置だ。
赤い烏型の武器で、知性ある道具である。
サイズは大型で扇烏類に似ており、主な攻撃は炎系。
火を飛ばしたりブレスを吐いたりする他、鉤爪や嘴で攻撃したり、赤いオーラを纏って突撃したりする。
中々に強力なアイテムだが……ここまで来るとゴーレム化してレベリングした方が良いと思う。
次に、夜の内にクリアされた2つの迷宮の報酬。




