掌話 彼等のイベント 九
達人ドールが討たれた様だ。
どれほどの物か一目見たいところだったが、拳姫が単独じゃ絶対に無理だったと驚く程素直に報告して来たので大凡の戦闘力に察しは付く。
被害状況から照らし合わせ、伝聞の技量を鑑みると、レベル30クラスのミドル帯以下じゃ何人いても相手にならないだろう。
はっきり言って、単体戦力なら拳姫は相当強い。
それが単独で絶対に勝てないのなら、俺達の中の誰が相手をしても勝てないだろう。
なんならパーティーでも、相当綿密な連携が必要になる。
レギオンなら却って隙を突かれまくって全滅もあり得るだろうな。
歴史上、知識と技量で軍団を物ともしない者ってのは何人も存在している。
増してやこの世界では、負傷を即座に癒す回復魔法もあれば、小隊程度なら一撃で消し飛ばす攻撃魔法もある。
——強力な個は、並大抵の軍なぞ容易く薙ぎ払える。
……実際、俺達の現時点でのパーティーなら、今の第二陣くらい100人200人平気で薙ぎ払える筈だ。
少なくとも、レベル一桁の当初恐ろしかった蟹の鋏は、今となってはただの握手……は言い過ぎとしても、まともに受けたところで痣にすらならん。
多分だが、達人ドールは一種の掃除屋。遭遇したら終わりってタイプのグリムリーパー。イベントポイントを稼ぐ為にいつまでも穴掘ったりされるのを防ぐ様なボスなのだろう。
必要なレベルはざっと80前後と言った所か。
そんなボスの撃破に掛けた被害は、51が軽傷。48が腕部の欠損。62が脚部の欠損。80がリタイア。
その中には最前線組みも多いし、指折りの強者もいる。
残すワンダリングボスは幽霊だけとは言え、現時点で全体の半分が死傷しているのは痛い。
実の所幽霊を最初に討てなかったから、間違いなく進化してレイドボス級との戦いだ。
流石に残影程じゃないが、それなりにアイテムや戦力がいる。
差し当たり、軽症者には初級や下級のポーションを使用、購入する事を進め、腕部の欠損者には継戦、リタイア、薬草採取による上級ポーション作成依頼を推奨。脚部欠損者にはリタイア、上級ポーションの購入を進めた。
決断はそれぞれだが、その間に壁内部の掃討を実行。
それなりの時間を掛け、入念に隠し部屋の有無等を調べ、幾らかの装飾品や魔法書を誰かしらが入手した所で、天守の攻略に向けたチームの再編を行った。
リタイア人数は、最初の壁外戦、城壁内戦、壁内戦を経て、合計127人。かなりの数だ。
脚部欠損者は半分程度がリタイアとなったが、残った者は上級ポーションにより回復済み。
腕部欠損状態で継戦を行う者は、12人。通常と比べて一人頭の戦力は落ちるが、特段区別する必要は無い。
作戦は至極簡単だ。
373人で一息に天守へ攻め込み、数の暴力でドールを殲滅。途中でゴーストの化け物に遭遇したら、即座に撤退して広い場所へ誘導、速やかに撃破する。
それが終わり次第入念に内部を探索し、確実にある隠し部屋や鍵と金庫を見つけ出し、最上階にいるボスを誰がやるか、クロギリさんルーレットで決める。
それじゃあ、気負わず行こうか。
◇
門番の撃破は速やかに終わり、天守へ侵攻を始めた。
暫しの時が流れ、その報告は、悲鳴と言う形で通達された。
「っ!」
それなりに大きな城内に響き渡る悲鳴と怒号。
これは間違いない、ボスだな。
即座に通知されたフレンドチャットを開いた。
『大剣士! ボスが——うわぁぁーー!!?』
「武技を使え!」
『す、スラッシュ!』
連絡者の安否を確認する前に、全軍へ指示を出す。
「全員、外部へ撤退しろ! レイド級ワンダリングボスが出た! 繰り返す、レイド級ワンダリングボスが出た! 外部へ撤退しろ!」
さてさて、出来る限り死なないで欲しい所だが、天守での出現だ。厳しいか?
天守から離脱し、次々と出て来る者達を西部へ誘導する。
程なくして、それは壁をすり抜けて現れた。
見上げる程の巨体。人の胴から上を模している様に見えるそれは、大きな両腕を持ち、頭部を持ち、肥大し灰に濁った胴体を持つ。
胴からは触手の様に伸び縮みする腕が無数に伸びており、それに捕まったら最後、体内に捕われ、物凄い勢いでHPバーが減少、同時にまるで雑巾でも絞る様に体が捩じ切られる。
幸い、胴体部分に捕われたら、捕まって直ぐなら武技を放てば脱出出来る。
腕部分に捕まったら、戦略級の専用武技を放たないと脱出出来ない。
攻略法は単純だ。
何故か脆い胴部分を、魔法ないしアイテム、武技、魔剣の類による通常攻撃で削り、化け物をどんどん小さくして、頭部にいるコアっぽい透明度の高い人型を露出させ、それへ戦略級武技を叩き込む。
「近づき過ぎるな、遠巻きに囲め! 佐助!」
「承知!」
狩り方は既に確立されている。
特に指示を出す事も無く、佐助は破石を投じて怪物を引き寄せ、全体も動きを合わせて包囲陣を敷いていく。
敵は遅いが、油断できない程度には早く、リーチも長い。
十分な距離を移動し、包囲が終わった所で、指示を下す。
「投擲部隊、用意」
イベント用に集めた残り全部の破石、爆石類を今回で使い切る。
個人的に持ち込んだ奴は使っても使わなくても個人の自由だが、残りのボスと今までの傾向から見ると、大体此処で使うだろうな。
そんな思考をする僅かな準備期間を経て、投擲を命じる。
「——放て!」
投じられた無数の石は、内幾らかに投擲スキルの恩恵を纏い、怪物の腹に衝突、爆発する。
オーバーキルを受けた胴体は一瞬で消滅し、怪物は両腕を地面についた。
体が半分程度まで一気に減少し、胴体が回復する。
そこへ更なる追撃だ。
「剣部隊前へ! 槍はそれに続け!」
駆け足で前へ出る皆に続いて俺達は右腕側へ付き、拳姫に連絡を付ける。
「拳姫、用意は良いか?」
『当然よ、そっちこそしくじるんじゃ無いわよ?』
「ふ、任せろ」
気合い十分って所か。
とは言え拳姫は達人ドールとやり合って消耗してる。あんまり長くは持つまい。
——速攻で決めるぞ。
「剣部隊、槍部隊……攻撃開始!」
鬨の声を上げ、戦士達が化け物へ躍り掛かる。




