掌話 彼等のイベント 八
随分、高く買われた物ね。
そんな感想を抱いた事に、少し驚く。
その後当たり前の様に出た当然よの言葉は、少し揺れていただろうか。
何故だが、この兄妹に会うと……変な感じになる。
スッと熱い物が抜ける様な、こんがらがった物が解けて流れて行く様な。
そう、言うなれば、凪。
その活躍は知っている。
カイトは水神の残影で著しい戦果を上げたし、ナルミは火神の残影で倒れるまで戦った、ミナモだって物理的に死ぬギリギリまで、欠損の痛みに耐えながら自爆も辞さない覚悟を見せた。
この兄妹は熱い時は燃えたぎる様に喰らい付く癖して、普段はピタッと止まってるのかってくらい穏やかで、正しく凪いだ水面の様なのだ。
そんな事を考えながら何もいない戦場を駆けていると、ふと、その音は聞こえた。
「っ」
「金属音っ」
迸る様に響いた澄んだ音を追う様に、聞こえる悲鳴と怒号。
ドールの群れと戦ってるならもっとガチャガチャ聞こえる筈。つまり——
「——急ぐわ」
「——全速前進!」
他を差し置いて駆け抜けた先、北門前には、今まさに門を突破しようとするただのドールに見えるナニカと、負傷者達の戦いが繰り広げられていた。
いや、戦いなんて物じゃない。
片手が無い者、片足が無い者。そんな戦力とも言えない様な連中が一方的に血の海に沈んでいる。
至極、戦略的な、負傷兵の増加。
敵は知恵深く、的確に全体を疲弊させた。
私にも義憤はある。でもそれ以上に——
ズタボロで地面に倒れていたミナモの姿がフラッシュバックする。
「——全力で行くわッ、ネコシェイプッ!」
——怒りでどうにかなりそうだわ。
◇
更なる加速を得て、一息に接近。
背後から抉り込む様に振るった拳はしかし、何の予備動作も無い跳躍で回避された。
敵は高い天井目掛け身を捻り、此方を向いている。確かに感じられる魔力の残り香。
コイツ、練気法が使えるッ!!
「死にたくなかったら這ってでも逃げなさい!」
周囲のまだ生きてるプレイヤーに警告し、振り下ろされた剣を操気で伸ばした魔力の爪で迎撃する。
そのまま着地した敵と接近戦。
間合いを離せば此方が不利! このままゼロ距離で仕留める!
そう思った次の瞬間には、敵は更に密着する様に近付いて来ていた。
「っ! このッ!」
しなる蹴撃、剣の柄による殴打、練気による急制動。
此方の動きを読んだ回避と受け流し。
あまりにも戦い慣れているッ!
これ程の練度っ、これ程の練気っ、片腕で私と互角だなんてッ!
超近接格闘の距離、満足に剣も振れない癖してッ!
「舐めてんじゃ無いわよッ!!」
まるでステッキでも振る様に滑らかに回転して迫る剣を拳で払い、ここぞと溜めて練り上げていた気を一息に解放した。
ネコシェイプの域を越えて噴出する猫型のオーラは、ネコシェイプのオーラと同様に物理に干渉する。
ただし長くは操れない。
即座にオーラの拳を構え、敵を殴り飛ばした。
……いや、殴り飛ばす事しか出来なかった。
「コイツッ!」
まるで分かっていたかの様に、後ろに跳んだ。
練気が見えてたんだ! 戦闘経験に差があり過ぎるッ!
でも、それでも、地力に差があったとしても——魔力量には限界があるッ!
「逃すかッ!」
じわじわ攻めたら地力差で粘られる。今、一気に決めるしか無い。
なのにッ!
早いッ! 一歩踏み込んだ時には一歩離れている。
不味い、こっちは長く保たないのにっ、これも地力差だって言うの!?
このままでは逃げられる。そう思った刹那、敵は剣を振るった。
2度振るわれた剣線は2歩分の差を縮め、青い結晶がバラバラと散らばる。
そうかと思えば敵は振り返り、飛来した槍を迎撃、立て続けに飛んで来た魔法や光る矢をバックステップで避けた。
距離は十分! コレなら当たるッ!
跳んで避ける敵目掛け、私も跳躍。全ての練気を手に宿し、現れた巨大な鉤爪を——振り下ろす!
凄まじい衝撃音。
大地が割れ砕け、土砂が飛び散り、仄かな青い粒子が舞って、イベントインベントリに土や石が入る。
「くそっ、外したぁぁ!」
直撃の最中、敵の剣と足が光を放ち、オーラの鉤爪と剣が衝突、余波で腕を粉砕したが、その僅かに稼がれた時間で敵はその場を離脱した。
激しい精神消耗を受け、辛うじて着地しながらも倒れ込み、意地で上体を起こして見上げた敵は、やや遅いながらも遠ざかって行く。
魔力が切れかかってる筈っ、ここまで追い込んで逃げられるなん——
刹那、その声は響いた。
「見つけたーー!! ぱんきちの仇! 召喚、ぱんきち! ぱんきちやっちゃえぇーー!!」
「アオォォンッ!!」
「囲め囲め! 逃すな!」
「蟻達! 密集陣形で壁になりなさい!」
「召喚ゴーレム! 持って数秒です! 急いで仕留めて!」
「スライムゥー! 広がって飛び掛かれぇー!」
「大根! 足を狙え足を!」
……。
「……」
「……倒せそうだね」
「……まぁ、良いわよ」
逃げられて奇襲されるのが面倒だっただけで、特別自分の手で倒したい訳じゃなかったし。
暫く呼吸を整え、おまけにミナモにマインドヒールを掛けて貰っていると、敵が倒れた。
魔物の群れに囲まれながら、両手も魔力も無い中で、尋常じゃない健闘だった。
正直、チアねぇよりも強いと思う。
チラッとイベントインベントリを覗くと、そこにあったのは魔鋼の剣。確か魔鋼ってそれなりに高品質のレア物だった筈。ラッキーね。
「ミナモは何か出た?」
「何かの腕の欠片って言うのが出た。やっぱりボス級ユニットだったね」
「そりゃそうよ」
こんなのがぽんぽん出て来られたら溜まったもんじゃないわ。




