掌話 彼等のイベント 七
大量のドールが襲い来る中、テイマー人形とそれが使役する熊と獅子を撃破した。
即座にフレンドチャットを開いたが……カイトの名前は灰色になっていた。
「……うーん」
マジか。達人ドールはカイトでも勝てないレベルなのか?
急ぎレギオンメンバーリストを開くと、この数十分で100人程が灰色になっていた。
野良の死亡率が高い原因はこいつかっ!
「……成る程」
城壁へ入る為の門は門番を倒さないと開かれない。現状を見ると、城壁へ入る為の門が開かれて居るのは東と南のみ。達人ドールは内側に居る筈だ。
となると今確実に仕留める為には、南と東からローラー作戦で挟み撃ちにするしかない。
善は急げと拳姫の顔役に連絡を取る。
「マイト、聞こえるか?」
『ああ、大剣士。カイトがやられたみたいだね』
「耳が早いな。達人ドールを仕留める為に南と東で挟み撃ちにする。行けるか?」
『ああー……うん、行ける』
「よし、なら頼んだ。門を抜けられるかもしれないから背後には気を付けろよ」
『任せて』
さぁ、大捕物と行こうじゃないか。
◇◆◇
「ぅあぁぁッ!!」
響き渡る可愛い声。
声とは裏腹に、振るわれた拳は可愛くない威力でゴリラの腕を粉砕した。
「はぁぁぁッ!」
2度目の拳が、ゴリラの拳と真正面からぶつかり、それも粉砕。更にチ、ヨウは拳を構えた。
「ラッシュブロウ!」
拳術レベルを上げると取得出来る武技だ。
練気の攻撃に比べると一撃は弱いけど、3連続で放たれた拳は無事ゴリラのコアを砕いた。
技後硬直しているヨウに、マイトが大きめな声を掛ける。
「大剣士から要請が来たよ! 達人ドールを仕留めるから西回りに北上するようにって!」
「……出たのね」
ヨウは少し気怠げだ。
まぁ、練気をした直後はちょっと疲れが見える物だからね。
ちょっとだけ全力疾走した様な物。直ぐに治る。
ヨウはほぼ単独で2体もワンダリングボスを狩ってるし、多少疲れ始めるのも仕方ないよね。
「なぁおいっ、カイトがやられたらしいぞ!」
「……ふーん、そう」
あぁ、これはミナモちゃんの事が気になってるかな?
「直ぐに行く?」
「……そうね、そもそもそいつを潰すのは今回の目的の一つだし、急いで行くわよ」
わざわざ理由付けをしている辺り、本当にミナモちゃんの事が気に入ったんだなと分かる。
普段だったらもっと手短で簡潔だもんね。妬いちゃうなぁ。
「城門と城壁門の守護を残して西回りに北上する!」
マイトがあれこれ指示を出し、私達は一途北へ向かった。
◇◆◇
「っ! ミナモ!」
「あ、ヨウ」
やって来たヨウ達に手を振る。
まぁ振る手が無いんだけどね。
ズキリと響く痛みに顔を顰めながらも、取り敢えず上体を起こす。
「ちょっとっ」
「っ……だいじょうぶだいじょうぶ」
「大丈夫な訳ないじゃない……」
視界が半分だから距離感が掴めなくて、ヨウが抱き起こそうとするのに驚いた。
まぁ、我ながら全然大丈夫じゃないのは自覚がある。
ポーションで命こそ繋いだが、欠損は上級ポーションじゃないと治らない。
ニコさんとコヌカさんって方々に外まで運んで貰ったけど、もう戦えないからリタイアしようかな? 痛いし。
ヨウがあちこち見下ろす。その視線は、半分しかない左足から始まり、肘から先が無い右手、肩から先がない左手と来て、最後に見えてない目の辺りで止まった。
「どうしてこんな……」
「兄さん達がやられて、最後まで食い付いたからかな?」
両手落とされたのは銛を持ってると魔法を使われるから。
ここまでこっぴどくやられたのは、それだけ脅威だって思われてたんだと思う。
まぁ、目に関しては自爆だし、それによって足は動いてる事さえ危険と認識されたからかもしれない。
「目は、どうしたのよ」
「えーと……ジェムを髪に仕込んで油断させて体当たりからの爆発を……結局腕を肩から落とされて逃げられちゃったけど」
「そんな無茶——」
心配するヨウを遮り、その危険性をはっきりと伝える。
「——無茶だよ。無茶しなきゃ、傷一つ負わせられない敵だった」
「……仇は討つわ」
割と理解の早い所があるヨウは、コクリと頷いた。
結構素直なんだよね。少し驕りがちっぽいけど、現状把握はかなりしっかり出来るみたいだし。
「うん。お願い……じゃあ私はそろそろ——」
そこまで言った所で、ヨウが宙を見て、小瓶を2つ取り出した。
……これ……上級のポーションとマナポーション……?
「えっと……」
「勘違いしないで。これは哀れみとかじゃない。貴女が戦力として使えるから、相応の価値があるから出すのよ。仇討ちは貴女も一緒にするの。分かった?」
……うーん。なんでそんな目するかなぁ。
「…………分かった。好意に預ろうかな」
「好意……う、うん」
小瓶を受け取りつつも、少し忠告する。
「……一応言っておくけど、私、アレ相手じゃ盾にすらなれないと思うよ」
「露払いくらい出来るでしょ?」
「まぁね」
ドールくらいだったら囲まれない限りどうにかなるかな。
「貸し、返されちゃったね」
「貸し? ……あ、ああ、そうね。これで貸し借り無しよ」
「うん。じゃあ、ポーション。飲ませて」
少し恥ずかしいけど、おくびにも出さずに口を開ける。
するとヨウはぴくっと止まり、ヒラヒラと動かした私の手を見た。手、無いけど。
「ぁ、う、うん。じゃあ、あーん」
「あむ。うく、んく。もうひょっと、はたむへへ」
「う、うん」
初めて飲んだけど……なんだか体がぽかぽかする。
冗談みたいに足と手が生え、視界が戻った。
さて、と、正直もう相対したくは無いけど、ゲームとは言えにぃ達の仇だからね。戦わなくちゃ、海溝漁師の名が廃る。
「ヨウ、ありがとう。直ぐに行こう。うみにぃが言ってた——」
両手や足の調子を確かめつつ、先を促す。
「——アレとまともに戦えるのは、拳姫だけだって」




