掌話 彼等のイベント 六
『北門に達人ドールと思わしき個体が出現したらしい! こっちは今ワンダリングボスが3体来てて直ぐに向かえない、そっちは行けるかッ!』
「直ぐに向かう!」
そろそろ隊を分けようとしていた所だ。直ぐにでも出れる!
「全員、聞いてたな? 城壁部隊をそのまま北門の救援に当てる! 外から回り込むぞ!」
しっかし達人ドールか、既に何度もイベントはやってるが、会った事無い。
殲滅戦だとこうも簡単に遭遇するもんなんだな。
◇
急いで向かったその現場にあったのは、死屍累々。
夥しい血の海には体の何処かしらを欠損した連中が倒れており、数少ない五体満足の者は襲い来る無数のドールと相対している。
生き残りはおそらく70人居ない。
その凄惨な現場に、ボスの姿は無かった。
「盾部隊ッ、前へ! 生き残りをドールから守れ! 槍部隊はそれに続いて盾の援護! 投擲部隊は初級ポーションで止血だッ!」
欠損の回復には上級ポーションが必要だし、止血した所で、足が無い者はまともに戦えないし、手が片方無いだけでも戦力はガタ落ち。
資材的に考えてこのまま死んで貰った方が良いのだろう。
だが、この地獄みたいな状況を見せて士気を維持するには生きてる奴を助けるしか無い。
だがまぁ実際の所は、その場でしか必要ない士気よりも、その後の為の人気取りと言うのが正しいだろうが。
人だからな、ゲームとは言え人道に悖るなら離反者が出る事もあるだろう。
非合理的であろうと取れる選択肢は一択だ。
「全員、警戒を怠るな!」
ボスは近くにいるのか? 敢えて殺さずに放置してたんなら相当頭がいい筈だ、潜んで気を伺っていてもおかしくない。
果たして——唐突に鳴ったフレンドチャットに、名前を見るでも無く直ぐに出た。
「どうした!」
『カイトさーん! こっち来ましたーっ!!』
スピリトーゾの悲鳴に、俺は悪態を付く。
くっそ、やっぱりか!
偶然だとは思うが、ここまで読んでたんなら相当賢いぞっ。
今まで全く話題に出てなかったのも、一般ドールにそっくりだからって理由より、読みで正体が露見しない様に立ち回ってたんじゃないか?
……ありえるな。なんせあのクロギリさんみたいな高度AIがあるんだから、敵にそれが搭載されていても何も不思議じゃない。
とにかく——
「……門を死守しろ! 南へ回らせるな! ドールを1匹残らず狩り尽くしてそちらへ向かう!」
『了解っ!』
此方も最低限の戦力を残して門を守らせよう。
「盾部隊、槍部隊は現状を暫く維持! 投擲部隊は立てない奴を門の外へ運べ!」
何せ大至急だ。そこらに転がってる奴を拾っては両脇に抱え、門の外へ置いて回る。
ミナモもアニキもレベルが上がってステータスが高いから、1人くらいなら片手で持って行ける。
第二陣の2人がそんな物だから、レベルが高い第一陣も皆そのくらいは可能で、戦えない者の避難は直ぐに終わった。
「西門部隊、ドールを潰しながら救援に戻るぞ! 北門部隊、戦える奴等で門を死守しろ!」
間に合うかは未知数だが、急いで行くしか無いんだよなー。
◇
「ギャンッ」
「ぱんきちー!!」
そんな悲痛な悲鳴が遠くから聞こえて来た。
直ぐにでも駆け付けたい所だが、ここから投げても当たらないし、むしろ味方に当たる確率の方が高い。
「全速前進!」
無意味かとも思うが、そんな掛け声と共に突撃する。
銛を振るってドールの胸を粉砕し、やけに多いドールの軍勢を雑草を払う様に突き進む。
辿り着いた戦場は、先と同じ……いや、それ以上に凄惨な現場だった。
当然だ。北門と違って頭数も半分しかないから。
何人かの倒れている奴、門に密集し戦っている奴。
それらは当初の半分以下。半分以上が死に戻りしている。
はっきり言って尋常の事態じゃない。
単独の人型ワンダリングボスが、既に50名を越えるプレイヤーを殺し、100名近くに重大な損害を与えている。
第二陣が居てレベルが低いからとかそう言う領域の話では無い。
上手いんだ。立ち回りが、武術が、敵への理解が。
遠目から見えていた。
プレイヤーの隙間を縫う様な移動。それによるフレンドリーファイアの誘発に、その躊躇いを狙った鎧の隙間を穿つ正確な剣技。
後ろに目があるかの様な三次元的回避に、十分な遠心力を乗せた蹴りや殴打。
一瞬たりとも止まる事なく、縦横無尽に人の林を駆け抜け、舞い散る赤と青の花吹雪に舞う姿は、いっそ憧憬すら感じる。
はっきり言って……勝てない。
おそらくレベル自体は俺達とそう変わらないだろうが、その武威が技の頂点に達している。と思う。
少なくともこれとまともにやりあえるのは……きっと拳姫だけだ。
大剣士は強いが、大型の魔物に対して真価を発揮するタイプだ。
だから小型で高い技量を持つ相手と戦えるのは拳姫しか思い付かない。
若しくは、噂に聞く、双剣使い一行。
ともあれ、まともにやってやり合えないなら、まともにやらなければ良い。
「アニキ、ミナモ、囲うぞ!」
「合点!」
「了解!」
声に応じ、それぞれの武器を構えた2人の横で、更に大きく声を張る。
「魔物で奴を釘付けにしろ!! 召喚っ!」
おまけに——
「シャークジャベリン!」
「アサルトファング!」
「ブルージェム、奴を止めて!」
遅れてあちこちから召喚の声が聞こえ、魔物の群れがボスを囲む。
それでも即座に斬りかかろうとしたそれへ、鮫と鱓が喰らい付き、振るわれる斬撃がそれらを撃退。ブルージェムや殺到する魔物達を前に、ボスの剣が光を放ち——
「——ヴォルテクス・ハンマー!!」
渦巻く水流を叩き付けた。
悪いな魔物達、許せ——
「「「やったか!?」」」
誰かがフラグを立てる中、俺は引き戻した銛を構えた。
振るわれたのは、斬撃。
迸る複数の線が渦を割り砕き、魔物達の血肉と青い粒子が拡散する。
その中央目掛け、俺は再度、銛を投じた。
「シャークジャベリン!」
ガクッと重くなった体を他所に、その行く末を見守る。
果たして——響いたのはやけに透き通った金属音。
撥ね上げられた青い鮫は、宙で真っ二つに裂け、2つに別れた銛を残して消滅する。
消え行く刹那、鮫の口には、ボスの物と思われる腕が咥えられていた。




