掌話 彼等のイベント 五
門番と相対する。
体の大きさ、使用する武器、耐久力、どれをとっても、そこらのドールの数倍は上。
だけど、大した相手じゃない。操気も練気も出来ない程度、私の敵では無い。
歩いて近付くと、射程内に入った事で、大きめドールは戦鎚を振り上げた。
足と手に気を纏わせ、それが振り下ろされる前に懐へ入り、拳を叩き付ける。
大きな音を立てて胴体が砕け散り、門番が門に激突、青い粒子になって消滅した。
「おぉ〜」
「はっやっ」
「凄ぇ」
「流石拳姫」
ガヤガヤと騒がしい外野に振り返る。
「大きい獲物は私がやるから、雑魚はあんた達がやんなさい」
返事を待たず、門へ触れる。
了承の声と一部キモイ奴等の声を聞き流し、ゆっくりと開かれた門を見詰め——刹那飛び出して来た虎の顎を蹴り上げた。
「っっ!!?」
咄嗟の蹴りで牙を逸らす事は出来たが、勢いそのまま突っ込んで来たそれは避けられないっ。
「くっ」
ずしっと全身を潰される。
金属の巨獣。重さはそれだけで脅威だ。
「ヨウっ! イグニッションクラッシュ!」
マイトの攻撃に合わせ、気を纏い全力で虎を持ち上げる。
張り付く様に起き上がるや、横に転がったそれの胸部へ気を宿した拳を叩き付けた。
大虎は青い粒子になって消滅した。
ちっ、余計な消耗をっ……!
「ヨウ! 大丈夫? 痛いところない?」
「この程度どうって事無いわよ、ハルキはこっちばっかり見てないで全周警戒なさい」
「アサヒがやるからいいの!」
「えっ俺!?」
全くこの双子は……。
チラリと門を見ると、開かれたそこから次々とドールが出て来ているのが見えた。
「……さっさと進むわよ!」
ぼーっとしてる時間なんて無いんだから!
◇◆◇
——間違えない様にしなきゃいけない。
今では第一陣と呼ばれ、たったそれだけの事でそこはかとなく上位プレイヤーっぽくなっている俺。
実際の所第二陣の9万人には、既に第一陣のトップと並ぶ様な奴もいる訳で、第一陣なんて言葉は強さや正しさを担保する物じゃ無い。
ま、多少は強いし正しいし理解しているだろうが、だからって人の上に立てる様なもんじゃない。
俺なんて第一陣のトップ、大剣士にβの時から声掛けられてそれとなくついて回っただけの未熟者。
サービス開始から付いて回ったからレベルも高いし物資もあるし、だから竜戦にも参加できて、武器も火竜素材の凄い奴を持ってる。ただそれだけ。
——間違えない様にしなきゃいけない。
スキルレベルだって高い。スキル自体も充実している。戦闘経験も団体戦、レイド戦共にそれなりにある。
それでも、間違えない様にしなきゃいけない。
俺は強くない。
レベルが高かろうと、スキルレベルが高かろうと、武器が優秀だろうと、アイテムが潤沢であろうと、それはあくまでも性能が高いと言うだけ。
並の敵ではびくともしない防御力があるだけ。並の敵では耐えられない重い一撃を放てるだけ、並のダメージなら物ともしない回復アイテムがあるだけ。たったそれだけ。
——トップ連中は化け物だ。
この一ヶ月、近くで見てきたからこそ分かる肌で感じたからこそ理解出来る。
あまりに大きな一挙手一投足の差。
——達人だ。
彼等は。
ただ武を納めたと言う事では無く、その道を遥かに進んでいる。
なんてったって面構えが違う。
自信に溢れ、失敗を恐れず、成功に驕らず、痛みに怯まず、弛まぬ努力と理解の果てに前へ突き進み、成功を、いや栄光を掴む。
俺なんて、その足元にも及ばない。
戦いは見様見真似、指揮は付け焼き刃。痛みにも怯むし、ずっと前を向いていると疲れてしまう。
あぁ、だが、それでいいんだ。
——間違えない様にしなきゃいけない。
俺は大剣士達の様な強者じゃない。
ゆっくりと、堅実に、例え牛歩であろうとも、一歩一歩踏み締めて行こう。
「門番撃破だー!」
「よっしゃー!」
「ぶいっ!」
中堅パーティーにより、門番が倒された。
俺は前に出て、声を張り上げる。
「ナイスファイト! 全員、城内へ進軍する、盾持ちは前へ! 投擲部隊はそれに続け! 先ずは陣地を確保するっ」
さぁ、ここからが本番だ。
◇
堅実に、安全第一の陣形を維持し、陣地を確保する中、それは現れた。
「……あれ? ワンダリングボスだ!?」
「嘘だろ、鬼のボスが来たぞ!!」
「まじかよ……」
いや、落ち着け! 来る事は分かってた。
色のチケットに出現するワンダリングボスは10体前後だと言われてるし、確率で言うなら2〜3体程度と遭遇する筈。
むしろ、1体で来た事を幸運と思うべきだ!
先ずは——
「ボスを誘い込み、囲んで潰す! 陣地を縮小しろ!」
合間を縫う様に何人かに声を掛け、内側に戻ってもらう。
後は——
「ボスの道を開けろ、左右展開!」
声に応じて直ぐに丁度いい塩梅で左右に寄る。俺でも直ぐに応じてくれる辺り、大剣士の教えは冗談抜きで偉大だ。
俺は前に出て、挑発する様に戦斧を掲げた。
これで乗って来ないのが、ワンダリングボスの恐ろしい所だ。
だからこそ、次の手が必要になる。
「投擲部隊、破石用意! 目標、鬼のボス!」
言うや、正しく聞いて、鬼のワンダリングボスは此方へ一息に駆け出す。
早いっ、だが——
「——撃て!」
打てば響く、頼もしい軍勢を背に、投じられた破石の行方を見下ろす。
幾らかは飛び過ぎて鬼の後ろへ、幾らかは直撃、更に幾らかは鬼の前に落ち、その進路を妨害する。
だが、もうこのレベルまで来ると、破石じゃ威力が不足する。鬼のワンダリングボスは衝撃に身を揺らしながらも、その鋼の肉体に刻まれる僅かな傷を無視し、一直線に此方へ駆け抜けて来る。
その振り上げられた大剣に、此方も戦斧を合わせる。
「おらぁっっ!!」
気合いの大声と共に、戦斧を叩き付ける。
全力で互角、いや、押されてるっ、ボスってこんな物だよなぁっ!
「全員進軍! 囲めッ!」
全体がそのまま移動しボスの逃げ場を塞ぐと共に、選出した盾持ちが集まり、ボスの背後から攻撃する。
後はこのまま袋にするだけ、問題は新たなワンダリングボスが現れた場合だ。
何も来ないよなと周囲へ視線を向け、気付いた。
——陣地内にドールが一体紛れ込んでいる事に。
見逃し? いや、そんな——
そこまで思考した所で、ようやく気付く。
そのドールの周りにポッカリと空間が空いている事。
そのドールの周りに、青い粒子が散らばっている事。
そのドールの剣が真っ赤に染まっている事。
「ッッ!!? ボスだッ!!」
達人ドール! 討伐実績が無い!
くそっ、不味いっ!
「大剣士に連絡を——」




