閑話 カナデご飯
第五位階下位
美味しい物を探してぇ、私たちは熱帯雨林の奥地にやってきましたとさぁ。
そんな陽気な事を考えながら、及川雅奏ことクローネ・ザラニアは中位環境迷宮、大森林へとやって来ていた。
『クローネクローネ! ご飯がありますよクローネ! いっぱいありますよクローネ!』
「食べ放題ですねぇ〜」
『食べ放題!? ボインボショクですか!?』
「ぼーいんぼーしょくです。幾らでも食べて良いんですよぉ〜?」
ニコニコと微笑む彼女等に、気負う様子は無い。
レベル差、僅かに50前後。
頭数差、2対数百。
無数の刺す様な敵意が向けられようと、それは彼女等にとって芳香なスパイスでしか無い。
ここは彼女等のダイニングテーブル。
襲い来る敵は贅を尽くしたフルコース。
メーンディッシュ目掛けて味わい尽くすのが彼女等の流儀。
そうと知らない哀れな獣達は、今、茂みを掻き分け動き出した。
「バアル〜」
『はい! クローネ!』
心得た物で、本来気の赴くままに暴食を成す筈のバアルは、クローネ・ザラニアの意のままに動く。
牙を剥く獣に向けられたのは、触腕が変じた顎門。
トラバサミの様に立ち並ぶ顎門は、一つ一つにプリセットされた属性が付与され、飛び掛かる獣へ喰らい付く。
また一方で、数十の触腕から生じた無数の目玉は全てが行動阻害の魔眼を発動させ、獣達の動きを僅かにでも静止させる。
哀れな獣達は満足に動く事すら許されず、殺到する顎門の餌食と変わり行く。
程なくして、前菜の時間は終わった。
『クローネェ〜、あんまり美味しくないですぅ〜』
「ダブリが多かったねぇ〜? 魔力変換以外でぇ、何かあれば良いんだけどねぇ〜?」
青い粒子が消えぬ内に、2人は美味しいご飯を求め、更に森の奥へと歩みを進めた。
現れた、もとい腹ペコの怪物に見つかってしまったのは最初のエリアボス、グレーターフォレストウルフ。
森で優雅に座っていた森狼のボスは、2人の出現にも焦らず立ち上がると、ストンと地面を叩いた。
刹那、突如として地面の草や木が蠢き、クローネへ殺到——
——次の瞬間には蠢く半透明な触腕がそれ等をぺろりと平らげ、態と遅く振り下ろされた触腕を森狼のボスが回避した。
狙い通りバックステップで回避した狼が、何もできない空中にいる間に、剣山の様な指と爪が突き込まれた。
哀れ、体が上下に泣き別れした狼は、死に切る前に触手に捕われ生きたまま体を消化される。
『クローネ! クローネ!』
「植物魔法の補完が出来ましたねぇ〜」
『いっぱい作って食べれます! いっぱい食べれますよ!』
「食べ放題ですねぇ〜」
『ボインボショクです!』
訂正する気の無い気楽なやり取りをしながら、彼女等は進む。
目標の捕捉まではもう少し掛かるだろう。
◇
次々とエリアボスを召し上がり、お腹が小慣れて来た頃に、そこに辿り着いた。
レベル、およそ200。大森林の最深部、樹海の裂け目に潜む脅威。
あまりの狂暴性故に暴竜と称される古代種。太古の大地における頂点捕食者の1体。
その二足は膨れ上がった筋肉の鎧を纏い、その両腕には凡ゆる物を切り裂く鉤爪。
牙は妖しくギラリと光り、呼気に混ざるのは灼熱。身に走る赤い線と鬣は燃え盛る炎の如し。
——暴竜・グラノドス。
実に、実に食い出がありそうだ。
口端に滴る涎を拭い、クローネは、バアルは、暴食の権化は微笑み、手を合わせた。
『「いただきます♪」』
◇◆◇
恐竜が赤く歪んだオーラを纏い、跳ねる様に突進して来た。
すごぉーく早い。でも見えるのは、沢山魔眼系スキルを取り込んだから〜? 思考系スキルは殆ど持っていないけど? スピードに追い付けているのは、戦闘系スキルをちびちび積み重ねたから〜?
食べたい食べたい、早く早くと猛る飢餓の友達をいつも通り宥め、同じ様にお腹を空かせながらも待っているバアルを先導する。
ユキさんが纏めた足に関係するスキルを励起させ、恐竜の突進を回避、同時にただの触腕を叩き付ける。
先ずは様子見? 全力か、全力じゃないか? 分かれば良し。
衝突した触腕はビシャリと広がり、恐竜の表面を溶かし始めた。
しかし、それも束の間、噴出した赤いオーラが消化液を弾き、微かなダメージは直ぐさに治癒する。
打撃は良し、捕食はイマイチ? でも嫌って拭った? 体内でワンチャンって感じぃ?
『どうしますかクローネ、噛みますか? 刺しますか?』
一通り試す? 何が効くか分からないしぃ?
加速された思考でバアルと話しつつ、恐竜を見る。
赤いオーラを纏いながら振り返った恐竜は、口に炎を宿していた。
——避ける? 突進より早い筈、盾の展開。
刹那、爆発。
即座にバアルの触腕を纏い、現状最も強力なアビリスキル、火竜の甲殻を展開した。
防御だと相性良し、今までで一番美味しかったし? 当然の結果?
『火も美味しいですクローネ! あちちです!』
『味わうのはぁ、後でねぇ?』
『はい! クローネ! あちち!』
摘み食いはぁ、仕方ない? でも我慢したら? もっと美味しくなるんだけどなぁ?
次々飛来する爆炎を防ぎ、炎を吐きながら近付いて来ていた恐竜の左右から、魔眼を展開した。
発動させる数は、消耗もあるが計100。全てを足に集中させる。
動きが鈍るのに合わせ、牙と爪を属性毎に刺し込んだ。
魔眼にリソースを割いてるからぁ、威力は低め? 概念の効きやすさとぉ、属性の効きやすさ? 実際は火竜食べたからぁ、火属性が強め? それも計算の内ぃ?
『火が効いてますよクローネ! 火です!』
『いつもそう? 耐性的に水が一番。コスパさいきょー?』
爪と牙は特に変化無しぃ、まぁ? 当然って感じぃ?
弱点部位はぁ、鱗の継ぎ目? 毛皮は硬過ぎ、非効率?
至近から振り下ろされた牙を魔眼で鈍らせ、開かれた顎門を受け止める。
そのまま口内目掛け、水属性を宿した触腕を打ち込み、体内で爆発させた。
次の瞬間、煮えたぎる血と同時に炎が津波の様に押し寄せ、触腕を蒸発。展開された火竜の甲殻がどろりと溶けた。
『クローネ! 火傷してます! 治さないと!』
『びっくりぃ? 追い詰められるとぉ、強い攻撃、ありがちぃ? 優勢』
『成る程クローネ! 流石ですクローネ! 治しましたクローネ!』
『ありがとう?』
焼け爛れた腕は直ぐに再生し、熱波で生じた汗の雫を拭う。
痛みはあるが、飢餓に比べれば安い物。
それより何より、血が美味しい。




