第45話 しめしめ
第八位階下位
旧神時代の話をそこそこに聞き、何でも神とその眷属、神族なる物が繁栄していたらしい事を聞いた所で、旧神時代で聞ける情報は無くなってしまった。
一部深い情報は、まるで僕を餌で釣らんばかりに伏せられていた。
現在判明している神の情報。その眷属の名前含む情報。発掘された遺構、その機能。古の種族の持つ能力に、当たり前に生息していた伝説の獣達。
まぁ、全然聞こえなかった訳だが、神と呼ばれている者達がおおよそ第九位階から第十位階、レベルにして950以上で、神族は最低でも第七位階、およそレベル600。
野を行く獣は第六位階以上、レベル300以上が当たり前で、時には滅神の骸から発生した魔獣や、神族の子孫等が変異したモノ等が第八位階、レベル700クラスで群れを成したり、レベル900クラスで新たな神となって軍勢を率いていたりと、とんでもない時代だった様だ。
レベルとかばっかり聞こえるからタチが悪い。その詳細が気になって仕方ないと言う物である。
唯一聞こえた、と言うか聞かせて貰えたと言うべきか? の情報が一つ。
ちょっとした規模の群れを率いて、神族の村々を襲撃していた魔獣に、オリジン・ケルベロスなるケルベロスの原種がいて、その戦闘力は僕の配下、ケルベロス・ハーディンのネロを一段程上回っているとか何とか。
遥か昔はそう言うのが頻繁に闊歩していて、神々の栄枯盛衰はそれはもう頻繁に入れ替わり立ち替わりだった様である。
そんな情報を得た所で、話を切り上げる事とした。
もうそろそろ夕食の時間になるし、口惜しいがここまでである。
◇
呼び出したるは、メロット。
気怠げな彼女は徐に立ち上がり、僕の頬に啄む様なキスをすると、優雅に武装した。
「……十分な功績」
「皮算用には早いが?」
「……勝っても負けても」
「……それもそうか」
そんなやりとりをして、両者は構える。
「俺も色々と手はあるが、今回はコレで行こう」
言うや、彼のコートが淡い光を放ち、次の瞬間、彼の背後に24の剣が現れた。
「半自動だ」
「……それはズル」
「妥当だろう?」
「……ノーコメント」
「妥当だよ」
メロットのジト目に微笑んで返す。基礎スペックは勿論優っているし、装備や練度では劣っていない。
王権シリーズに宿るのは、僕含む僕の配下達全員、1,000万を越える者達の力の一雫。
その技量や内に秘める神権とその操作能力は、僕の配下の中でもトップクラス。
技量で劣っていればこそ、学べる事は沢山ある。
戦える事が褒美だと思えこのうさぎめッ。
「そちらさんは急ぎの様だ、さっさと始めようか」
「……大丈夫、ユキは強いに甘い。問題なし」
必要十分な実績と実力があれば、特別に指導する必要は無いと言うだけの話だ。
要は、テストで100点取れるなら授業中寝てても構わない。それだけの事である。
最近はテストもしっかり受けるので、寝るなうさぎめッ。と言えない。
「憂いが無いのならば良し」
「……怒ってるのもまた可愛い」
「それはそう」
僕を見てコクコクと頷き合う2人。
メロットはともかく桜の神の方は僕を子供扱いしている雰囲気が伝わってくるぞー。
そりゃあ神から見たら子供だろうな。皆稚児やら幼子やら言ってくるし。
さっさと始めろと言う僕の視線を受け、2人はようやく構えを直した。
◇
衝突は正しく瞬きの内に。
一撃で叩きのめすとばかりに真正面から振るわれたメロットの横薙ぎを、神は両方の剣で受け止める。
「重いな」
「……よく言う」
両方の剣で受けたとは言え、微動だにしていない様には、メロットが悪態をついても仕方ないだろう。
2人がそんなやりとりをしている一方で、宙ではメロットの杖と旗と鎚が獅子奮迅に動き回り、半自動故に反応が鈍めな24の剣を迎撃していた。
メロットは流れる様に両手で握っていた剣から片手を離し、何の予備動作も無く拳を振るう。
拳打は防御に添えられた神の剣身に当たり、剣がメシャリと歪んだ。
瞬時に行われたのは、僕がやる様な力の侵食。
やや荒いながらも、力の流入に任せるばかりでは無い丁寧で流麗な一撃だった。
ある意味奇襲とも言えるその侵食に対し、神は敢えて取り合わず、制限された演算力の節約を実行。折れ曲がった剣は霧散させ、メロット侵食部以外を集めて再構築した。
局所的ダメージが大き過ぎて放棄した訳である。
神は半分程度の長さになった剣を振り、メロットはそれを薄皮一枚で躱す。それと同時に神の腕目掛け蹴り上げた。
ドンッと響く轟音。台地を覆っていた花弁が舞い上がり、広大な暗闇を彩る。
衝突したのはメロットの足と剣の柄。
歪んだ柄を直す暇もなく、メロットの追撃が振るわれる。
上げた足を大きく踏み込み、大上段から振り下ろされる斬撃を、神は長い方の剣で受け流すと共に、足を砕かんと迫る踏み込みには短剣で対応する。
僅か一瞬の後、神の剣は表面を侵食され、短剣は弾かれて丘が陥没した。
メロットの蹴りを食らって消滅しない辺り、丘の土も相当な質だ。
思うに、かつて実在した旧神時代と言うのは、レベル600が当たり前に生息している以上、その土や水も、もっと言うと世界の質が、相当に高位だったに違いない。
それこそ、レベル600なら山一つ消し飛ばすくらい訳ないが、その時代の山なら陥没させられる程度だったりとかするのだろう。
それはそうと……。
「……メロット」
「……」
僕の声に、メロットは耳だけで反応する。
さっきからメロットは、基礎スペックと貯蓄魔力の暴力で神の技を尽く叩き潰している。
これは完全に態とだ。
見えているし、技で対処も出来る筈なのに、とにかくスペック差で捻り潰そうとしている。
チラリと技量は見せるが、それ以上に重機の如きごり押しが目に付く。
……つまり、そう言う事だろう。
「……分かったよ」
「……何が?」
確約を取ろうとするのが彼女のやり方だ。
「……ちゃんとやったらご褒美あげる」
「……!」
ピコンと耳が立った。
「……ならやる」
ふむ……? 内容を詰めて来る物と思ったけど……意外にもやる気だ。
「……頑張ってね」
僕は微笑みながら手を振った。
これなら後で幾らでも誤魔化せるな。
うさぎ「……(たなぼた)」
ゆき「……(後で誤魔化せるな)」




