第42話 それは確かな前進
第八位階下位
次に、蟹仙人こと転生者の甲殻人。
元より高い防御力でクイーンの打撃を受け、同じ様に拳打を持って対抗している。
差し当たり彼には名付けと言う形で僅かにでも強化を施す事とし、その魂の深淵に宿る残存データを解析したが、彼の名前に関するデータは残っていなかった。
これは獣人に転生した子等や魔物に転生した子等に言える事だが、総じてパーソナルデータが真っ先に消失している。
彼に残っていたのは、おそらくゲームか何かで良く使っていた名のみ。ビルドと言う名だが、おそらく名前に建とかがついていたのだろう。
そこからとってビルグと名付け、おまけでその取り巻き2人には、うるさい方にカルース、静かな方にクレースと名付けた。
尚、クレースの方から何故ルを付けないのかとと言う不満の意志を感知したが、クが付いてると言ったら納得した。
件のビルグ君は、クイーンとギリギリの戦いを展開している。
体格の都合で熊達から選出されたヴェルゲオン。
差し当たり彼にも、戦力向上の為ゲンマと言う名を与えた。
瞬発力が極めて高いゲンマは、それなりに鍛えられた体術と、それを補って余りある操魔力でクイーンと戦い、余裕を持ってその技量を吸収している。
中々に期待させてくれる成長株である。
最後に、ラース君とエンプレスの戦い。
スペックはラース君が上、ポテンシャルや練度では圧倒的にエンプレスに軍配が上がる。
そんな2人の戦いは、最初からクライマックスであった。
ラース君はストイックに己を鍛えて来たが、いかんせん彼は優秀の域を出ない。
それに悔やみ、妬む事は多々あっただろうし、今も嫉妬は彼の原動力だろうが、それでも尚、真っ直ぐに、ひたむきに、例えその歩みが遅かろうと、歩き続けて来た。
自らが劣る事を、彼は当然知っていた。
だから、即座に切り札を切った。
限界突破。
瞬発力を爆発的に増大させたラース君は、即座にエンプレスへ襲い掛かる。
しかし予想通り、エンプレスはただ巧みに魔力を操作し、全力のラース君と平然と渡り合った。
エンプレスは一見余裕がある様に見えるが、それは正しく僕と同じで、演算力に余裕こそあれ、魔力量ではどうしてもスペック差が出る。
その上で、このままではラース君はエンプレスに莫大な消耗を強いるだけに留まり、敗北は免れないだろう。
必要なのは、今、この瞬間の、成長だ。
より肉体を強化したこの状態、この瞬間にしか見えない物はある。
今が一番、成長出来る時なのだ。
◇
《【運命クエスト】『桜雲の剣:百花宮』をクリアしました》
苦戦、接戦、差はあれど、どれも激戦。
ゴレム、吸血鬼達、肉体を武器とする者達、皆戦いを制し、勝利を手にした。
その中で、最も激戦を繰り広げ、成長したのは、やはりラース君。
限界を超えて能力を強化した事でより高次の領域を知覚し、丁寧に技を見せて導いてくれたエンプレスのおかげで、ラース君は大きく力を付けた。
しかし、結果は……両者魔力切れでラース君は地面に倒れ伏し、エンプレスは平然と立っている。
事実上の負けで、譲歩の相討ちである。
まぁ、弱体化されているとは言え相手は神の一柱。手加減譲歩教導の末の魔力切れだが、決して路傍の石では無い事を証明して見せた。
それだけで、十分な戦果だ。
報酬は、スキルポイント21P。結晶質の薔薇の花弁『クリスタルペタル×100』。主な用途は内在エネルギーの爆発による攻撃だろうが、その実数が有れば使い道は幾らでもある。
黄色い粘性の液体が入った小瓶『ルクローサの花蜜×10』。千年蜜晶と同じ進化ないし成長系のアイテムだ。
そして、髪留め型の装備アイテム『大輪のルクローサ』。換装する前は一つの薔薇そのものだったのに、換装したら頭の左右に分かれてツーテールになった。
効果は、身体能力の強化と生命力、再生力の増大。
誰かにあげる……のも良いが、薔薇そのものなら、リェニの力を使えば、それにクリスタルの花弁と蜜も投入すると……もう少し何か欲しいが、付け足せる物が無いか後で探しておこう。
ニコニコしながら僕を撫で摩り消えていった薔薇精達を見送り、皆を労って送還。元の森に帰還した。
次がこの迷宮の最後。
エンプレスから聞いた所によると、何やら色々と話がある様だ。
一体どんな情報が得られるやら、少し期待しつつ、僕は最後の六角プレートへ手を伸ばした。




