第39話 鬼化せし者達
第八位階下位
サンディアの相手は、シア。
鎧を纏う彼女はレイピアの様な剣を抜き、サンディアと順当に切り合いを開始した。
一方アルネウムは、アンの妨害をして引きつけ、遠距離攻撃を避けつつチクチクと攻撃をしていた。
トップがトップと戦っている為、ブンブンと羽音のうるさい戦場は安定している。
他方、竜寝殿の竜達。
好戦的なバン・バラバスは、積極的に近接攻撃を行い、クイーンの一体と戦闘中。
クイーンの攻撃はエンプレス同様に針と毒の魔法による物で、縦横無尽に宙を駆けてはバン・バラバスに毒針を刺している。
バン・バラバスも基礎訓練を終え、弱くは無いのだが、如何せん及ばない。
毒による身体機能の低下には自前の再生力と生命力の循環および変換による治癒向上で対応しているが、このまま攻撃が当たらなければ先に魔力が尽きるのはバン・バラバスの方。
そして、十分に弱体化すれば、それを見逃すクイーンでは無いだろう。
一撃必殺の針がずっと内部で錬磨されているのは、見ようと思えば皆見える筈だ。
ロノ・クラーレの方は、バン・バラバスと違ってより堅実に、いつでも回避出来る様な立ち回りをしている。
しかしよく見ると、必殺の針を受けた上で、体内の防御を操作して被害を最小に抑え様ともしている。
それに相手のクイーンも気付いている様子。元の防御力の高さで弱い針も通らず、時折来るぶちかましに受け身をとって、どうにか時間稼ぎをしていると言った所だろう。
ロノ・クラーレにとっては、相性の良い敵だったか。
……必殺を受け流せるかどうかは別の話だが。
ガダ・グリオンは、比較的バン・バラバスと似た戦い方だが、違う点は節毎に竜玉を持つ所。
その質こそ弱々しいが、各節の再生力や反射速度は竜玉一つよりも遥かに早い。
最大瞬発力こそ劣るものの、一点集中型の蜂達には極めて相性が悪い相手と言えた。
それ故、バン・バラバスの様に積極的に戦ってこそいるが、リスクは低く抑えられている。
カラバス・ディーモンは、どちらかと言うとロノ・クラーレの戦い方に近い。
防御力が高く、針を甲殻で受け流し、尚且つガダ・グリオンの様に早く動き、鋭い針で攻撃をする。
防御と回避主体の立ち回りはロノ・クラーレが近いが……1番近いのはクイーン達の動きだ。
となると、練度で劣るカラバス・ディーモンに勝ち目はない訳だが……まぁ、負けるのもまた、竜寝殿の皆には掛けがえの無い経験である。
故郷を滅ぼし尽くされたあの時の怒りと後悔に、更に燃料を投下するのだ。
続けて、サンディアの配下達。
他の蜂達と戦っている弱めの子達は、順当に互角である。
スペックで優り、技量で劣る故に互角であり、そして……1,500対1,500ではなく、1対1が1,500ヶ所で起きているだけだからだ。
本来技量で優る彼女等は、連携してこそ真価を発揮した事だろう。
しかし、指揮を執る筈だったリーダー達が皆忙しく、結果的に個人戦となった訳である。
そんな合戦場を他所に、空白地帯を形成しているのが、サンディア軍の幹部級6体。
大焦僧は……獄峰の深部エリアボス。ラルヴァレパーノである。
サンディアに襲われて鬼化した彼は、ヴァンパイア・ラルヴァレパーノとなった……だけで無く、どう言う訳か闇の属性に加えて浄炎の力を保有していた。
どう言う訳かと言うか……サンディアが使える様に鍛えたのだろうが。
眷属が出来ると言う事は、サンディアにも出来る。
レベル600の闇属性が実戦レベルで聖属性を使えている辺り、サンディアも実戦レベルで聖属性を使える筈で……まぁ、それらが出来る様な環境は十分あったし、サンディアがいつのまにか全能になっていても何も不思議じゃない。
なにも、不思議じゃ、ない。シャルロッテより強いなんて事は無いと思うけどね。
大焦僧は、炎そのものの棒を振り回し、時に斧に、時に槍にと形を変え、クイーンを追い詰めていた。
並大抵の毒など効かず、多少の針など物の数では無い闇と生命の化身、ヴァンパイアの眷属。
それ故に、基礎スペックでも技量でも劣るサンディア軍は、クイーンと互角以上に戦う事が出来ている。
塞鋼凱は、星隆のエリアボス、アルダンリィと言う名の、黄色い結晶質の鎧を纏うサイの魔物。
単に硬く、大きく、大地を操り、突進する、そんな魔物が、影と血も操り、強大な再生力を持つ。
ロノ・クラーレとガダ・グリオンを足した様な怪物である。
当然の様に優勢。
崩天稜は、氷天のエリアボス、グラキルースと言う名の鹿の魔物だ。
毛皮は青白く、常に冷気を纏っている。角は氷で出来ているが、その質は氷の神霊金属、グリア=ミルレイにやや劣る程度。
氷鎧を纏う為針は届かないが、必殺を受ければそれなりにダメージを負うので、慎重に戦っている様だ。
猛冥導は、塵渦のエリアボス、ザリチュ・ダーサ。
一見して砂と石のゴーレムだが、その内部には根の様な物が張り巡らされており、猛毒の毒液を出す。
内在因子の働きを見る限りだと、本体は毒液を出す根の様な物。しかしそれと同時に、砂や石は鎧であり手足である。
即ち、根は神経や臓器、砂は肉であると言えるだろう。
そして、その砂や石は……根に捕まり全てを吸い尽くされた生物の成れの果てだったりする。
このザリチュ・ダーサ、猛冥導は迷宮産だからただの砂や石が付いてるが、野良のザリチュ・ダーサは不浄を纏う怪物なのだろう。
そんな怪物も例によってサンディアパワーを注入されており、元々明確なコア部分が無い上に神霊金属に準じる強度の砂と石の鎧を纏っているから、相手のクイーンは完全にお手上げ状態。
取り敢えずやや遅い攻撃を避けつつ、毒よ効けとばかりに針をプスプスしていた。
怨翳虎は、アルヴラス・ラヴォーニェと言う名の、深淵にいた黒い虎型エリアボス。
これはアルヴラスと言う何らかの亜神獣級魔獣の眷属と見られ、影と闇を操る力を有している。
体は虎型をしてこそいるが、より詳細に見ると闇属性の魔力粒子で形成されており、実質精霊の様な物だと分かる。
ただし、精霊は体のどの部位を消し飛ばされても平然としているが、この虎君はよりマテリアル依存度が高い様で、消耗は大きい。
マテリアル依存が殆ど無い精霊と、コアが結晶化している亜精霊の中間に位置する種と言えるだろう。
そんな虎君もサンディアに混ざられて、サンディアパワーを獲得、元より不死身で血なんて無いが、操影術と生命力が強化されている。
最後の汐流无は、読み的にはおそらくしおるんであり、元の名前はシオール。
此処に来てセンスが僕とハイブリットしたが、それは置いておこう。
天穹のエリアボスであるシオールは、一見すると天命獣の様に、天輪とそれ同様に何故か体から離れている4枚の白翼、おまけに角があるが、その実悪魔獣の一種らしい。
採取された因子から鑑みて、鯨型の超巨大濁冥獣の眷属であると思われる。
その濁冥獣は、はっきりと分からないがどうやら偏食傾向を持ち、天使を主食とする、もしくは天界そのものを飲み込む様だ。
このシオールと言う魔物は、濁冥獣が喰った4翼の天使から再構築された物だろう。
そんな事もお構い無くサンディア化されたシオールは、例によって毒への耐性や再生力がある為、クイーンも攻めあぐねている。
ルム同様に光と闇を操るシオールは、流石はサンディアの配下と言った所でかなりの練度ではあるが、ルム程の出力は出せていない。
それでもそれなりに威力はある為、レベル600クラスの中では十分な攻撃力があると言えるだろう。




