第37話 天竜
第八位階下位
闘竜には闘竜を、刃竜には剣竜をと言う事で、ジーンには望み通りヴァルトラ。オルガメアにはミルちゃん。レドラには同じ火であり修行を経たガルナ。そして詳細不明の神竜には、動物組からケツァールコアトル君を出した。
広大なこの空間では、竜達がその姿を現しても、十分に戦えるだろう。
並び立つ戦士達を、僕は後方から眺め——
「頑張ってねー」
——そんな気の抜ける応援を合図に、戦闘は始まった。
◇
《【運命クエスト】『桜雲の剣:天竜宮』をクリアしました》
刃竜化したジーンと、ヴァルトラは激しい剣戟を繰り広げた。
刃竜は剣技に置いて剣竜に劣っている物だが、流石に亜神級の刃竜とあってはその限りでは無く、ただ単に元は刃竜であっただけの話である。
幾分制限されたジーンと基礎を履修したヴァルトラ。流石に素体差が出たかヴァルトラ有利で戦闘は進み、ヴァルトラは内心歯噛みしていた事だろう。
後でより踏み込んだ訓練をつけてあげよう。
オルガメアとミルちゃんは、人のまま殴り合いを開始した。
相手も相手で十分強かったし、結果的に技と技のぶつかり合いと言う形になった物の、やはりミルちゃんレベルまで鍛えてあると、そこまで追い詰められる事も無く終わってしまった。
ヒナとの一戦で例えるなら、ルムをぬいぐるみと戦わせた様な物だ。
素体のスペック上、采配ミスと言っても良いだろう。竜には竜を、はあまりに適当過ぎた。
唯一良かったのは、オルガメアが紅蓮のオーラ膜を纏った時で、直ぐにガス欠を起こしこそすれ、瞬間出力はレベル750を越える程。
悪くは無かったが……これならラース君とキース君の良く似た2人を出してぶつける方が良かった。
……今度最前線から一歩劣る子達をイベント会場に集めて、死ぬ程しごいてあげよう。最前線クラスの子達も死ぬ程しごいたしね。贔屓ヨクナイ。
レドラとガルナの戦闘は、ヴァルトラ同様基礎を履修した上スペックで優るガルナと、制限を受けた上人型のままのレドラでほぼ互角。
……その実技量に差があり、更には魔眼持ちとあって、かなりの劣勢を強いられていた。
見ていた感じだと、レドラ……他の多くの亜神達より、頭一つは抜きん出ている様であったので、間も無く神に至るのかもしれない。
相打ちに近い結果となったが、ガルナには酷な戦いであったか……ヴァルトラ同様ちゃんと鍛えてあげよう。
そして最後、メインと言って良い戦い、神竜とケツァールコアトル君の一戦。
取り敢えず彼の不足を補うべく、ケツァールコアトル君に名前を与えた。
ルフトゥーナ。ラニと同じ空にまつわる名前だ。
ルフト君は持ち得る全てを使い、同じ風の力を持つ神竜と戦った。
命運を分けたのは、敵の体躯。
竜化した神竜は……小さかったのだ……!
それはもう、シャクナと同じ、幼竜程度のサイズ。
そこから放たれるありとあらゆる、爪や牙、ブレスによる攻撃は、小さいが故に密度が高く、強靭。
その真に恐れるべきは、スピードだ。
超高速で飛び回る小さな神竜は、ルフト君の攻撃を容易く避け、牽制の範囲攻撃をその強靭な鱗で当たり前に防ぎ、張られた結界を易々貫いて、ルフト君の鱗を抉り取る。
あまりに力が凝縮し過ぎて、本来であれば魂魄と進化した肉体でスペック的に優る筈のルフト君を、肉の性能で上回っていた。
緑の因子の面目躍如と言ったところだろう。
圧倒的不利状況下で勝利に漕ぎ着けた要因は、ルフト君の巨体とそれ故に多かった魔力保持容量。
神竜の爪は所詮ルフト君の表面を抉って治りにくい傷を刻み、血を流させる程度の物。
数が増えれば痛くはあるが、神竜のスピードとルフト君の巨体及び回復速度は、魔力の消耗に目を瞑ればルフト君に軍配が上がる。
また、神竜のブレスは強力だが、魔力量と肉の壁を行使する事で致命傷を避ける事が出来る。
なんだかんだ言って有効打に欠けるし、下手を打てば致命傷と言う状況は変わらないが、ルフト君はその膨大な生命力と風の力により、基本的に格上たる神竜に抗い——勝利した。
……一番の危機は、神竜がブレスの傷口からルフト君の中に潜り込み、内臓や肉を食い荒らした時。
それで魔力を補給されて仕切り直しかとも思ったが……どうやら神竜、ペース配分を深く考えていなかった様で、制限された精神力を技量等で殆ど節約せず、高速軌道にブレス連発の末、ひたすらルフト君を食べ、力尽きた。
まぁ、ピンチはチャンスと言う物で、体内にいたからこそ攻勢魔力を押し付け易かったと言うのもあるが…………もしかすると、ルフト君も亜神一歩手前の力を有しているし、単に信仰を得るだけでなくその身を喰らう事で大きな力が……いや、単に美味しかっただけかもしれない。
クエストクリアの報酬は、スキルポイント21P。小さな竜角型装備『颶風之天脈』。口元を隠す竜型装飾のハーフマスク装備『劫火之天脈』。竜の腕の様なデザインの腕甲装備『闘争之天脈』。長い尻尾型の大剣装備『白刃之天脈』。そして最後に、無色の宝玉『晴天之脈動』。
ざっと見た感じ、角はマレやラニの持つ光の角と似た根源因子を持つ、さながら風の角と言った様子の装備。
折角なので風の属性と竜の属性を持つルフト君の頭に突き刺しておいた。
ハーフマスクはどんな形態でも装着可能の様で、火と竜の属性を持つが為に多少迷ったが、レスタに装備させる事とした。
腕甲は取り敢えずミルちゃんに預けて性質変化を促し、必要に応じて改良を加える事とし、尻尾大剣は悩んだ末に取り置きする事にした。
何か生物を作る時に素材にしようと思う。
最後の宝玉は、端的に言って……進化アイテムだ。
清水大聖心虹雫や進化の奇跡の様な物で、多量の竜属性と生属性、それから夢属性に極めて似通った、希望もしくは理想と言うべき概念属性が込められていた。
希望的な夢属性と言うのが正しいか? ともあれ、何かしらにより一層変じやすい特性を持つ。
これ自体をコアとして生物を生成するも良し、弱い誰かに埋め込んで一気に進化を促すも良し、強い誰かに埋め込んで底上げするも良し。
さて、誰にあげるのが良いか。
先ず、蛇、もとい元蛇組は無くて良い。
マレの撃破報酬でガチガチに武装しており、今はそれを魂に取り込んでいる状況だからだ。
それに加えて、竜の因子を持つアニマルズ、麒麟やズーロンもまだ強化はいらない。
他、モルドやミルちゃん、レスタ、クリカの配下のオルケニウスや、ドラゴンゴーレム、ベルゴも特に必要性を感じない。
竜寝殿の面々は、環境補正でポテンシャルは十分。鍛えて行けばまだまだ上がるので、特別に一体にあげる様な事もなければ、あげたいもとい上げたい対象も…………灼岩竜フランマの副官、神血に適応進化したトルティガン種の現状最上位個体になら入れてみても良いかもしれない。
いやいや、否。お手軽に強化しようとせず、ちゃんと研究検証しながら開発をした方が楽し——確実である。やめておこう。
となれば……。
「……天命獣の天使竜が最良、か」




