第36話 異界の竜
第八位階下位
イベント会場から帰還し、直ぐに次に向かった。
夢現の帝王と並ぶ試練の迷宮、月夜桜の園である。
夢現の帝王とは真反対の山にある桜の木。その幹に刻まれているのは、桜の紋章が描かれた盾の六角形。
触れて飛ばされた先は、夜の草原。
目の前には森があり、その先に見えるのは連なる山脈。
背後から吹く風には磯の香りが混じり、遠い浜辺には椰子の木らしき木々が等間隔に植えられている。
製作者が好きなのか、それとも僕の性質が月に近しいからなのか、解放された試練の迷宮5つの内、実に3つが夜である。
改めて森に振り返り、森の中にある構造物へ意識を向ける。
かなり遠く、左側に見えるのが、薔薇の様な大型建造物。
同じく遠く、右側に見えるのが、竜を象った装飾が散見される大型建造物。
そして前に見えるのが、月光を反射して黄金に輝く大型建造物。
更に遠く、木々に隠れてここからは目視出来ない場所に、もう一つ大型建造物がある。
そして僕の直ぐ目の前にあるのが、小さな円形の舞台と、その中央にある六角プレート。
舞台は4つあり、左手にあるプレートには薔薇の紋章、右手にあるプレートには竜の紋章、中央にあるプレートには蜂の紋章が描かれ、奥にある桜の盾の紋章は灰色をしている。
これ見よがしにそれぞれの円形舞台から線が引かれ、桜の盾の舞台に集束しているので、他3つをクリアしたら解放される仕様だろう。
さて、どれから行くべきか、そう悩んだのは一瞬の事。
僕は竜の舞台へ足を踏み出した。
いやなに、薔薇は花精霊の類いだろうし、蜂は試練級の昆虫型がどんなものか気になるけれど、それよりも竜の強者に興味惹かれたからね。
◇
転送された先は、おそらく竜の大型建造物の中。
夢現の帝王の時と同じ様な広大な空間は、竜を象った柱が点在し、天井は高く、床は血の様に真っ赤。
そんな広い空間に、4つの人影。
嵐天竜の幻影 LV650
炎天竜の幻影 LV650
闘天竜の幻影 LV650
刃天竜の幻影 LV650
1番前にいる嵐天竜は、緑のエプロンドレスを纏った幼女。
ニコニコと微笑む笑顔は見た目相応であり、その大きな瞳は間違いなく緑系統の魔眼だ。
緑色の髪はツーテールに纏められており、その付近から生える双角は緑の結晶質。
この中では最も幼げな容姿をしているが、先ず間違いなく最強格。
その緑の幼女の隣に立つのは、炎天竜。
緑の幼女と打って変わって、その装いは身軽そうなショートパンツとノースリーブ。
燃える様な赤髪は短く揃えられ、目つきは鋭く、見た目不相応に老獪な気を感じさせる。実力と経験に裏打ちされる自信があるのだろう。レーベと同じだ。
後方で腕を組み、堂々と仁王立ちする女は、闘天竜。
豪奢なドレスに包まれた肢体はしなやかで、良く手入れのされた赤黒い長髪は、これまた豪奢なリボンで一つ結びに纏められている。
そんな見た目に似合わぬ獣の様な笑みと、呼気に混ざる重い魔力が、彼女が戦闘狂の類いである事を告げている。
そして最後、この中では1番年上に見える、青白い長髪の青年が、刃天竜。
長い髪は高い所で一つに纏められ、幾らかの装飾が目立つ和装に身を包み、腰には一本の刀を下げている。
すらりとしている様に見えてしっかりとした体付き、頭部に生える角は刃そのものであり、元の体は刃竜系の進化種で間違いないだろう。
1番前にいる緑幼女が、微笑みながらお辞儀した。
「はじめまして〜! お兄さんのー? いちのアイボー! ーーでーす! よろしくね〜?」
元気に拳を突き上げポーズを決める不明な少女は、やはり神級。
人形の魔王に曰く、魔眼はホイホイと使える物ではない。ホイホイと使えるであろうこの少女が神級なのは、然もありなんと言った所か。
「うん、よろしくね」
微笑みながら応える僕に、不明な神もニコニコ微笑みながら、真横の幼女の背に触れた。
「……うむ、名乗ろうか。私はレドラ。火天の継承者にして赤の因子を持つ高貴なる炎竜である。不本意ながら此奴の部下だ」
さして不本意でも無さそうに肩を竦める少女。おそらく亜神であろうが、赤系統を持っているらしく、瞳を少し光らせた。
レドラが言い終えるや、ドンッと拳を打ち合わせ、前に出たのが闘天竜。
「さぁ! 戦うぞッ!!」
「この馬鹿者はオルガメア。戦いに悦び浸る戦闘狂だ」
レドラの紹介の通り、オルガメアからは猛る獰猛な気配がはっきりと伝わって来るが、その服装が明らかに戦闘向きでは無い。
正しく誰かのお仕着せなのだろう。
そして最後に、刃天竜。
鋭い目付きで前に出て、牙を覗かせる口を開いた。
「俺はジーン。剣竜がいるな? それを出せ」
「気が向いたらね」
ほぼ皆好戦的だな。やはり竜種とはそう言う物なのだろう。
さてさて、挨拶も終わった所で、誰を出そうかな?




