第35話 仕方ないね
第八位階下位
翌朝。
イベント会場に来て61時間目、日が昇り始める頃、シャルロッテを起こす事とした。
昨夜からずっとベット横の椅子に腰掛け、延々とシャルロッテを見詰めていたアウラをスルーし、シャルロッテに馬乗りになる。
その柔らかい頬をちょんと突き、魂に軽く触れる。
間も無く、シャルロッテはゆっくりと瞼を持ち上げ——
「……神さ……まっ……」
——眠りに着いた。
◇
7回程同じ事を繰り返し、アウラの目が心なしか白くなって来た所で、鼻血を拭きとってあげてからシャルロッテを起こした。
その後朝食を摂り、完治したシャルロッテを筆頭にした9人は戦場へ向かった。
僕は島を削りつつ、それを見守る。
中央の城は今や大樹に飲み込まれ、折り重なる様に聳える木々の殻が皆の行く手を塞いでいる。
現れたのは、5体のゲッシュだった物と、それに率いられた無数の樹木の獣。
前に出たのは、リオン、ルカナ、クラウ、オルメル、桃花。
そして、レベルにして数十程度の樹木獣に対するのは、僅か300名の天使達。
ドール相手なら無駄死にだが、基礎レベル、練度の下がった樹木獣の大群程度なら、十分な時間稼ぎが出来るくらいには仕上げてある。
十数分に及んだ激しい戦いは、リオンと桃花が圧倒し、ルカナとクラウが相性上不得手な近接戦闘で互角に戦い、戦闘経験が少ないオルメルが苦戦を強いられ、無事終了。
5人は天使と共にその場に残り、樹木獣の殲滅と、周辺からエネルギーを吸って元エランに力を与えている木壁の破壊に専念する事とした様だ。
残る4名が外壁を破壊し中に入ると、立ち塞がったのはノーデンス。
前に出たのはルムとナハトロンの2人。その後ろから光がシュパッと弾けてノーデンスは消し炭になったが。
アウラを7割消費して放たれた閃光は、ノーデンスを消し飛ばし、城とその中に蔓延る幹を粉砕して反対側へと突き抜けた。
修羅場を潜ったシャルロッテはまた一段と強くなった様である。
まぁ、何度も戦って対策バッチリのルムとナハトロンなら今回こそは勝てただろうが……シャルロッテはちゃんと、僕が弄ったエランとゼンゼムの脅威、その攻略法を把握出来ている様だ。
唖然とするルムとナハトロンに地下のゼンゼムを倒す様指示を出し、シャルロッテはアウラの残りと融合して十二翼を展開した。
光の翼を羽ばたかせ、樹木の殻に包まれるエラン、セフィロタスへ突撃を敢行。
襲い来る無数の蔓をすり抜け、振り下ろされた腕状の枝を払い、先ずは1発、頭部に蹴りを叩き込んだ。
頬が砕け、大きくよろめいたセフィロタスに、しかしシャルロッテの追撃は無い。
理由はとても簡単だ。
セフィロタスは他者の命を吸うし、ゼンゼムもまた他者の命を吸う。
即ち、両者は同時に倒さないといけないのだ。
シャルロッテが優々と時間稼ぎをしている一方、根に包まれた地下は、夥しい腕で満たされていた。
大怨霊ゼンゼムが吸収した無数のドールの魂による物だ。
元のスペックでは、回収した魂は養分としてしか使えなかったが、僕が設計した魂魄吸収構造で力を得たゼンゼムは、死者の持つ力を大なり小なり行使出来る様になっている。
……そのかわり狂ってるが。
だがまぁ、それが表す事は、例えばエブラィジュの全体強化を使えるし、ギランの猛火を使えるし、何ならリターニァの強化やアガーラの隠密も一定量効果があり、更には強化ノーデンスの大罪にも少し通じている。
これでセフィロタスなんて吸い込んだら、事実上ステージ4級のセフィロタスの亜種が発生する事となる。大災霊・ゼンゼムとでも呼ぼうか。
ルムとナハトロンはあちこちから生える腕を切り裂き、主にルムが魔法に、ナハトロンが物理に対抗してゼンゼムへ迫る。
夥しい腕から放たれる無数の魔法や霊体の武器、劣化した英雄の技はしかし、2人の強者を止められる程ではない。
やはり、混ぜ込むだけ混ぜ込んで整理してないから、ルムやナハトロン程の者には通用しないか。
それでも多少の消耗を強いる事が出来るだけ十分か。
大災霊・ゼンゼムになれれば、核となる巨大な意志、セフィロタスを獲得し、バラバラの意志をコントロールしてもっと上手く力を行使出来る様になるだろうに。
そんな事を思いつつ、ナハトロンの槍の一撃がゼンゼムの中枢を貫くのを見届け——刹那、狙い澄ましたシャルロッテの閃光が、防御に掲げられた樹腕を貫通してセフィロタスを即死させた。
これにて、英雄の与え給う試練は終わり。
残すは、セフィロタスの幹に飲み込まれた天守にいる万色の鎧のみ。
と言う訳で、僕は魂魄吸収装置を操作した。
勿体ないから仕方ないね。
◇
魂の破壊により倒れたセフィロタスとゼンゼム。
その拡散エネルギーを利用して、万色の鎧に極単純な強化を施した。
極単純な、魔力量の暴力である。
そんなロケットエンジンを搭載した万色の鎧に対し、シャルロッテは僕の意志を汲んで後方へ移動。
ルムとナハトロンは爆発的加速と防御力、攻撃力を持つそれを大きく消耗させて戦死、ルムの断末魔の叫びが響いた。誰が馬鹿か。
それに続けて、城の外部まで進出した万色の鎧は、最も弱くまた消耗しているオルメルへ突撃、クラウとルカナの仕掛けた拘束罠を容易く引き裂き、戦斧を振り下ろした。
オルメルはそれを辛うじて逸らすも、蹴りを受けて両腕を全損、胸部が陥没し、荒野となった大地を水切りの様に吹っ飛んで行った。直撃をまともに受けて死んでいないのは、アジムスの面目躍如である。
鎧が追撃に移る前に、拳を振るったのはリオン。その一撃は鎧を凹ませるに留まり、軽々と振るわれた戦斧は桃花が僅かに逸らし、リオンは辛うじて回避に成功した。
その耐久力と一撃必殺の武技、瞬発力。基本的な戦闘タイプはレーベと全く同じであり、技量に関しては当たり前に達人。
レーベならば互角に戦えるだろうが、魔力量を見ればレーベの3倍を上回る。持久力で劣るが故に必敗。
そんな強者に対し、基礎スペックの高いリオンと、技量をメキメキ上げた桃花が連携し、ルカナとクラウが妨害に徹する事で、万色の鎧は無事討ち倒された。
我ながら素晴らしい采配だった。




