第33話 天界と天使
第八位階下位
明けて翌朝。
休憩していたメンバーから、ルカナ、クラウ、白夜、ルム。それから紅花、リムの6名が戦列に加わった。
これで2人が抜けた穴も十分埋まったし、それでも尚敵は強大だ。
味方が強化された一方敵の動きは、ノーデンスがドールを喰らってエネルギー回復をした事と、同じくタンブラがドールからエネルギー補給をした事、ナハトロンとギランもエネルギー補給をした事。
周りの被害を考えないなら一晩あれば十分回復出来るだろうし、精神力の方は疲労が少し残るだろうが、こんな物である。
ドールの殲滅率は、ギランやナハトロンに消耗を強いた事でざっと50%少々。
実質2日目、経過時間的には38時間少々。せっかくなのでもう1体英雄をでっち上げる事とした。
1体目はスタンダードな人身タイプ。これはドールにプリセットされた記憶、スキル構造が人の身を前提としているからだ。
これを改造して獣身タイプに仕上げるのも無理ではないが、最大の効果を発揮するのはやはり人型である。
ハンモックに揺られつつ英雄達の武器を適当に強化、多腕型の英雄もどきを作っていると、ふいに通りかかったルムが僕を見た。
「……」
「……なに?」
問う僕に対し、ルムの意識は彼方此方を行き来して、震える人差し指が僕を指した。
「ばっ、馬鹿がいるのですッ!」
「失敬な」
「敵を強化してる馬鹿がいるのですッー!!」
「味方を強化しているの間違いだよ?」
そんなルムの叫びに、お決まりのメンバー+αが其処彼処から現れる。
「ぐだぐだ騒がしいさね、何を朝っぱ、ら……ゆ、ユキ! 何やってんの!?」
「馬鹿が馬鹿してるのです!」
「うるさい。じじつでもいっていいこととわるいことがある」
「そうよ、ユキが馬鹿な事をするのなんて今に始まった事じゃないわ」
「誰もフォローしてくれない。これは怒って良い……?」
「「「「よくない!」」」」
身長が同じくらいのちびっ子同士でわちゃわちゃやっていると、続々と他のメンバーがやって来る。
このまま朝食にしようか。
◇
皆を送り出し、ほぼほぼやる事を終えた僕に、残されたお仕事は天使の改造だけ。
拠点とは真反対の結界内で魔力操作の修行に励んでいた天使達を、早速とばかりに調整する。
最初は100匹だった彼等も、追加生産して300に増加した。大まかな内訳は人型と獣型で半々だが、今後も数を増やして行くので比率が変わる事もあるだろう。
取り急ぎ行なったのは、基本的な武術と魔力操作のデータ注入。
光輪の基礎機能として操魔力は十分だが、知識と感覚データはあって損の無い代物だ。
その他様々な教導を行いつつ、余った演算力でエルデクロンから進化した獣型達の総称を考える。
そも、天界とは何か?
その深淵こそは分からないが、エルクーンが持つ神性とその発生方法から、ある程度の予想は付く。
——天界は魔界とほぼ同質だ。
違うのは、その構成が純粋な希望で構築されているか、それ以外で出来ているかだけ。
純粋な意志を秘める魂ないしその意志の断片、信仰等は天に昇り、それ以外の多くは地に堕ちる。
それ故に、魔界は極めて広く、天界は狭いのだと考えられる。総人口から見ても予測はそう外れてはいるまい。
……何せ魔界はゴミみたいに悪魔とかその他を使い捨てるからね。天界も天使総軍とか言って使い捨ててるみたいだけど。
その差なんて精々紙ペラと絆創膏くらいだろう。
ともあれ、天界も魔界も現界から流れる魂の行き着く先と言う事である。
では、純粋な意志とは何なのか?
おそらく、赤子や獣だ。
もっと言うと、罪悪感の無い意志。
その行動を悪と思わない、無邪気な意志。
俗世に塗れて欲を知り、欲を知ればこそ悪を知る。それが故に罪悪感は生じ、その意志はより、重くなる。
天界に昇る魂は純粋な赤子や獣が殆どだろうが、流れ行く意志は、罪悪感の網から溢れ出た純粋な意志。若しくは、天界を名指しした信仰だろう。
それらの知恵ある生物の意志や信仰が天界に力を与え、純粋=貧弱な魂を成形、天使へと形を整えるだと考えられる。
この場合の天使とは、その世界における知恵ある生物の形をしている。
故に人が多ければ人の形だし、鬼が多ければ鬼の天使。リザードマンならリザードマンの天使。そしてカエルならカエルの天使である。夢の国で見たラムヒギンの様に。
その理屈で行くなら、魔界における人型の悪魔は、人の性質が強いが為に人型をしていると言える。
そして、悪魔獣は獣の性質が強いが故に獣の形をしている。
では、エルデクロンから生じる獣の天使はどうか?
天界の構造上、エルデクロンが生じるには、純粋な魂が純粋なまま天界へ至る必要がある。
ではどうすればそうなるのか? 純粋な信仰や意志の断片と言う名の汚染フィルターが意味をなさない様にすれば良い。
——天使は純粋だ。
だが、クルーエルの話を聞くと、天使は純粋ではない。
何故か? 天使もまた生物だからだ。
3人寄らば派閥が生まれる。生きるが故に欲がある。
ゴーレムですら行動指針があるのだ。半分とは言え肉の体を持つ天使に欲が無い道理は無い。
生まれは純粋でも、育てば俗世に塗れる。人と何ら変わらない。
天界に欲望を満たせば、信仰のフィルターは消え失せる。
天界が大きく発展すれば、獣型の天使は自然発生し得るのだ。
……或いはもしかすると、天使達が天使総軍と言う形で天使を使い捨てにするのは、天界を純粋に保つ為の足掻き、天界を守る為の必要な間引き、自己防衛本能なのかもしれない。
それはそうと、獣型天使の総称だが……天界と魔界は大して変わらない。その一方、悪魔獣と獣型天使の差はと言うと、神性があるかないかだ。
悪魔獣は基本的に混じり合って進化するが、獣型天使は他の何かと混じって進化する事は基本的に無い。
よって呼称的には、大きな変化が無い、即ち完成されているとして、悪魔獣の最上位、濁冥獣に合わせ、天命獣とするのが良いだろう。
悪魔獣からバフォメットやサキュバスの様な種が発生した様に、天明獣からも聖天狗の様な種が生まれたら、その種の名前は追々考えれば良い。




