第31話 勝っても及ばず
第七位階上位
あぁ、これは無理だな。
そんな何度目かの感想を抱いたのがつい先程の事。
このナハトロン様が調整とか言う意味の分からんキラピカに包まれ、そうかと思ったのも束の間、今はあのリターニァよりも上とされるアガーラを、奴にとってやや有利な森の中で、単独で防戦一方に追い込んでいる。
勿論、敵が敵故消耗も激しいが、何せ周りを見る余裕すらあるから意味が分からん。
ノーレルの奴めは旧ナハトロン様の黒槍をそう消耗した様子もなく弾いてみせるし、レイめは延々と襲い来るドールの軍勢と大立ち回りを演じている。
英雄級の強敵が全く来ていないのは、ユキがまた吹き飛ばしたからだ。
森に陣を敷いていた複数の英雄とドールの群れを、一息吹き掛け島の反対側へ吹き飛ばす様には唖然とした物だ。
一瞬にかける演算の量が桁違いだった。
ただ一瞬で、それぞれ抵抗のある英雄達を一体一体丁寧に封じ込め、軽々と弾き飛ばす。
尋常ならざる力だ。勿論我ならばドールの群れくらい同じ事を出来るだろうが、英雄は1人2人……3人くらいが限度。
出来ても消耗が激しくて次に続かないから……無意味過ぎる。
それ等を平然とやってのけるユキの奴に、勝てるどころか足元に及べるかすら分からん。
木々を蹴り、巧みな三次元戦闘を展開するアガーラ。
その剣の鋭さ、身のこなし、時折飛来する見えずらく且つ正確な小石。
あまりに戦闘慣れしているそれを槍とその長柄、拳打で迎撃し、的確に放たれる分身を僅かな遅れこそあれ看破し、射程を偽装した剣紙一重で避ける。
一時は逃げようと機を窺っていたアガーラはしかし、今や攻撃に集中している。
それで尚、今の我が身はアガーラを追い込めているのだ。
対面ならば勝率は此方の方が上。だが、状況の変転に備えて周囲の警戒は必須。
巧みな剣技の衝突。
気の抜けない隠密技術。
蔓延る英雄とあまりに硬過ぎる有象無象。
この戦場の全てが、私を高揚させる……!
だが、それもそろそろ終いだ。
数合掛けてアガーラの剣に隙を作り、態と捨て身で腕を切り落とさせ放たれた蹴りを腕でガード。
中々どうして重い蹴り、それが故に生じる大きな隙に、操魔術で黒槍を投擲、アガーラの心臓を貫くと共に地面へ縫い付けた。
最後の追撃に頭部へ槍を突き下ろし、アガーラを撃破した。
「……ふぅ、危ない所だった」
青い粒子の中を立ち上がる。
流石のナハトロン様と言えど一息付き、角に深々と突き刺さった剣を引き抜いた。
心臓貫かれるままに剣を蹴り上げるとか、ちょっと反応が早過ぎるぞ。角が無かったら危うく頭が半分になる所だった。
無貌なる者はきっと、詰めの隙を徹底して狙う様に指導されて来たのだろう。この我とて油断があったのは間違いない事だ。
彼の者は今まで、死兵として戦う事を貫いて来たに違いない。
「うむうむ」
ある種満足とも言えよう。
その身に充足する力を使い熟し、強敵を討った。
これこそ正に神なる者、ユキの奴の思う壺だろうが、しかし満足は満足である。
「無貌なる者、アガーラ……! このナハトロン様が討ち取ったッ!!」
いつぞや以来の宣言を行い、即座にレイと共にドールを薙ぎ払う。
「引くぞッ」
「了解!」
「火球が来ている」
ノーレルの言葉に即座に空へ視線を向ける。
距離はかなりあるが、着弾予測地点は後方。即ち、我等の退路を塞ぐ腹積もりだ。
このままでは不味い、が——
「レイ、火球の真横へ斬撃を飛ばせ! 細かい修正は我がやろう」
「まかせて!」
「ノーレル、貴様は盾となれ……!」
「元よりそれが俺の仕事だ」
「行くぞ!」
刹那、地上から放たれたのは、レイの光の斬撃。
それと同時に彼方からも似た様な斬撃が飛来し、レイの斬撃で軌道を大きくずらした火球が軌道修正された。
「ちっ、やる!」
態と魔力拡散を起こす様に調節して投じた黒槍で、軌道を再度ずらすも……やはり近い……!
「走れ!」
防御の気を練り上げるノーレルを担ぎ、レイに先導させ森を一息に、遮二無二に駆け抜ける。
浜辺へ出た刹那、ノーレルの声が届いた。
「衝撃に備えろっ!」
「レイ! ノーレルの後ろへ!」
急停止し砂を巻き上げながら、ノーレルの背後へ回る。
最早真横と言っていい位置に、火球はあった。
目と鼻の先にあるそれは、中心点からは大きく外れている物の、効果範囲内。おそらくあの後更に軌道修正されたか。
我も即時展開出来る盾状の耐火結界を複数展開し、周辺へ張り巡らせる。
ただの火なら通さんが……これでは紙一枚にもなるまい……!
最悪私を盾に、レイだけでも——




