第24話 金月と銀月
第八位階下位
激しくも順当な斬り合い。
空間操作に隠密と探知、それらの行使による読み合い。
膨大な魔力が渦を巻き、拳打斬撃の余波で星が震えている。
もはや2人にとって、剣戟なんぞは休憩でしか無い。
事実上経験により勝る夢現帝と、それを奇襲と多彩な技でどうにか互角に持って行ったシャルロッテ。
そんな激戦も、いよいよ終盤。
2人は戦いの果てであっても息を乱す事も無く、示し合わせた様に止まる。
掲げられた剣が大地の輝きを反射して、妖しく光っていた。
「……大したもんだぜあんた。3人くらいは鍛えてやる気だったんだがな」
「神様の御采配です、当然でしょう?」
「はっ、そこらの亜神より練度が高いぞ? 誇っても良い」
「全て神様の愛故です」
「そうかい」
シャルロッテには情報を与えたくらいの事しかしていない、特に指導しなくても勝手に強くなるからね。
知恵を与える事が愛と言ったからその事を言っているのだろう。
「それじゃあ、終いとするか」
「神様、偉大なる主よ……今、シャルロッテが御前に首級を捧げ致します」
首はいらないかな。
そんな事を思いつつ観察していると、掲げられた両者の剣が光を纏い始めた。
「来たれ、金月の化身ッ! 遍く夜を暴く者よ……!」
「神様……シャルロッテは、御身と共に……!」
「……ぅゎ」
片や、おそらく古い儀式を踏襲し、刀に金の月を降ろして、大地から金因を引き寄せた夢現帝。
片や…………おそらく、多重思考の幾らかを一意専心して己を神気の生産装置とし、更にそれを使って神降ろしを行い、幾らかの人格を妄想の僕と意図的に混ぜ合わせ、力と技量を爆発的に増大させている。
これは多分だが、絶対強者の上位能力、亜神化に近いのではないだろうか?
僕化する事で一意専心したシャルロッテを自力で戻す事が可能、その反面時間を掛け過ぎて余力が無くなると一意専心シャルロッテの侵食を受けてシャルロッテは消滅するであろう。また、僕と混じり合ったシャルロッテは多分元には戻らない。これら2つを改善出来れば、完全な亜神化と言えるのではないだろうか?
シャルロッテの狂っている点は、どう転んでも良いと思っている所だ。
一意専心になったら僕の優秀な道具になれる。僕化が進めば僕の優秀な道具になれる。
ルートが違うだけで結局は僕に帰属するから、自己が消滅する可能性を前に躊躇いなく切り込んで行ける。
……後、強いて言うなら、事実上一意専心シャルロッテは神域そのものと言って良く、僕が少し……引っ張られている。
本当に足に纏わりついて来る奴だな。もっと上に行けるだろうに……。
そんなシャルロッテを見て、夢現帝は絶句した。
「っ……!!? まさか……星辰炉かっ……!?」
「詳しく」
「ならこっちも全力で行くぞ!」
言うや、夢現帝は金色の刀を大上段に構えた。
「来いッ、ーー!」
誰かの名前を叫んだ刹那——大地が明滅した。
3度の明滅の後、暗転。
暗闇の中で、夢現帝の金の剣と、シャルロッテの銀の剣が激しい輝きを放った。
——2つの三日月は交錯する。
瞬きの一閃。
一瞬の交錯にあったのは、濃密な読み合い。
斬撃を避け、受け流し、切り捨てんとする戦いの末、勝ったのは——シャルロッテ。
態と一点に収束させた力の衝突でシャルロッテの剣が砕けると同時に、僅かに後方の地面に埋められた前の剣が爆発。
二重の仕込みで生じた隙に、シャルロッテは切り込み、夢現帝の心臓部を貫いた。
深々と突き刺さった折れた剣から、銀色が侵蝕を開始、夢現帝を内部から破壊する。
果たして——
——シャルロッテは振り返らず、背後から振るわれた一閃を折れた剣で受け流した。
良かった。ちゃんと見えていたらしい。
「当たる……と思いましたね?」
「……あぁ、思ったさ。参ったな」
水月は水鏡。
月を降ろす事は出来るだろうが、それもミスリードの内。
彼の世界の金なる者が月の性質を持ち、また夢現帝の協力者であるならば、そこにあるモノが鏡写しで降ろされた月だけである筈がない。
即ち夢現帝は、不可知天帝竜を越える不可知性を持ち、アトラを越える空間支配能力を持ち、白羅に並ぶ剣技術を持ち、シテンに並ぶ鏡面神性の操作力を持っていたと言う訳だ。
……鏡面神性に関してはおそらく自前では無く神剣による物と考えられるが。
現状でこれに勝てるのは……僕を除けばシャルロッテと黒霧くらいか。
努力次第ではパフィ子やペルセポネも間も無く戦える様になるだろうが……本来であれば、アリスと僕が戦った様に、僕が出る程の案件であった。
それを紛う事なき完全な単体で退ける辺り、僕の足先からくるぶしの辺りまで登ってきている。
「さて、どうしたもんかなぁー」
「……」
結果的に総合魔力の8割を削られ、残魔力では強い札を当て切れぬ現状に、夢現帝は継戦するべきか悩んでいる様子。
対するシャルロッテは、鋭い視線で夢現帝を見つつも、意識を僕の方に向けた。
それに合わせて、チラリと夢現帝も僕に意識を向ける。
うむ……続けたまえ。
ぐっと拳を握り、突き出す様にすると、片やニヤリと不敵に、片や穏やかな微笑を浮かべた。
「地味な削り合いだが、やってやんよ!」
「全ては神様の御心のままに」
「気絶するまでやれ」
ニコリと微笑む僕に対し、夢現帝は不敵な笑みの口端を歪めた。
「……笑顔でそう言う事言うタイプ?」
「全ては神様の愛です」
「……薄々分かってたが、お前らやべぇ奴だろ」
失礼な。やべぇのはシャルロッテだけだ。




