第23話 vs.夢現帝
第八位階下位
シャルロッテと夢現帝は黄金の平原で相対する。
徐にシャルロッテは手を振り、そうかと思えばその手には乳白色の結晶が握られていた。
聖宝創造により生み出した剣だろう。その性質はセルケディアとシャスティアの合金に近く、質の方は既に幼霊を越えている。
夢現帝の持つ刀と同等の代物だ。折れたら良いのを作ってやろうかな? いや、素材だけ与えて作らせる方が良いか。
剣を握るや、シャルロッテはそれを掲げ祈りの言葉を吐いた。
「神様、どうか御照覧あれ……!」
どうせ見えているだろうから、ひらひらと手を振っておく。
シャルロッテが剣を構えるのに合わせ、彼もまた刀を抜いた。
「それじゃあ行くぜ、覚悟しろよ? シャルロッテ」
「神様の御前です。須らく、覚悟の上」
「ふっ、上等! 夢現の王、推して参る!」
僅かな口上の果て、戦闘は始まった。
◇◆◇
神様、どうか弱いシャルロッテをお許しください……!
どうか、一時神様を忘れるシャルロッテを御罰しください……!!
そのおみ足でシャルロッテを御踏みください! どうか——
実に愚かしくも神様に許しを乞う祈りを捧げ、私はそれを見上げました。
——所謂“神”と言うモノ。
何処ぞの誰かが決めた、誇大な定義により当てはめられた、数値上の神。
大きく分類し、定義付け、管理を容易とし、ただただ理解した気になる為の、概念的僭称。
あぁ、しかし、これは実に、素晴らしき事……!
神々サマを私が降せば、神様は更に偉大に成られる!!
それを成して、シャルロッテはようやく……ようやく神命を果たす事が出来るのです……!
夢現帝なる男が陽炎の様に消える。
これは不可知なる竜帝のそれと同じ概念属性でしょう。
であれば視の神性を降ろせば良い。
——神様がそうお望みであるのだから。
視界が変じる。
小さな世界を流動する魔力の流れ、大気中に煌めく金色の粒子。そこに混じる微かな因子の残影。
広くも狭い金の大地に存在する、膨大な情報が視える。
それを持ってしても、夢現帝の本体は霞の様に捉えられないが。
背後に生じた微かな空間の揺れ、そこへバックステップで飛び込みつつ、右斜め前へ斬撃を振るう。
刹那、刃は衝突した。
夢現帝の袈裟懸けを迎え撃ち、致死の閃光を突き放った。
「っぶね!!」
「はっ!」
すんでのところで避けられる。ですがそれも織り込み済み。
二の太刀を振るい、同時に空間湾曲により引き戻した閃光を背後から襲わせる。
案の定夢現帝は空間跳躍を発動し、歪めた閃光が私を貫いて背後に現れた夢現帝の腹部を貫通した。
「っ!? まじか——よっ!」
振り返り様に一閃。
振るった刃は夢現帝に防がれ、一気に押し込み鍔迫り合いに持ち込む。
「あんた、やる——っ!」
至近からの魔眼で動きを阻害し、同時に空間属性の魔力を周辺に放って跳躍を阻害、一気に演算力を行使し、剣戟を繰り広げる。
残念ながら剣技は相手が上。なればこそ、周囲へ放った空間属性魔力を行使する。
時に空間遅滞や空間固定で動きを阻害し、時に空間加速や空間湾曲で感覚を乱す。
僅か一瞬、数十合に渡る剣戟は——互角……!
——だからこそ、付け入る隙がある!
変わらない数合の衝突。刹那、私はその身を刃に晒した。
◇◆◇
——鮮血が舞う。
シャルロッテが袈裟に切り裂かれた。
その次の瞬間には、夢現帝の首が飛び、胴が半ばまで斬られていたが。
シャルロッテは半ばで止められた剣を捨て、即座に高出力の閃光を射出、夢現帝も心得た物で、同じ轍は踏まぬと強固に練った空間属性魔力で遠くに転移、空間湾曲を発生させて閃光の進路を空の彼方に向けた。
取れた首も直ぐに付け直し、胴を再生、刺さっていた剣は地中深くへ突き刺した。
大きなダメージを負った割に平気そうな顔をしていた夢現帝は、しかしシャルロッテの手に2本目の剣が現れた事で顔を歪める。
「……冗談みたいな奴だな」
完全再生を終え、夢現帝同様に平気そうな顔をしているシャルロッテ。
確かに、冗談みたいな奴だよね。750になって出たレベル限界値もポロっと外れたし。ウルルやメロットでさえまだなのに。
更に言うと、回復は謎の薬品を使っている様だ。
多分……聖宝創造で半物質を生み出す何かを作ったのだろう。材料は聖属性の半物質と命露の様な物、それから愛属性魔力。
おそらくだが、僕が作った神癒槽を参考に、命露はエイクスュルニルから、愛属性は聖剣ワトワイアのデータに近い、水はレイエルも関わっているか?
配合は自分用に調節されているので汎用性は無いが、正しく神薬と呼ぶに相応しい代物だ。
一本億はくだらないアイテムの消耗こそあれ、精神力の消耗は殆ど無いシャルロッテに対し、本来であればお互い再生させて互角の筈だった夢現帝は呆れ気味だ。
まぁ、強者相手にアイテムを使う経験って言うのも一応……いやでもシャルロッテに今更経験経験言う必要もないかもしれない。
「シャルロッテ、その薬、次は無しね」
「神様の御心のままに」
再生させても互角と言う辺り、ヒナやサツキ、マリアと互角だった皆より飛び抜けて強い証明となっている。
シャルロッテは、神なるモノに何処まで喰らい付けるのやら。
戦いはまだまだ始まったばかりだ。




