第17話 未だ知らぬ事
第八位階下位
残留エネルギーの性質と、意識の端っこの記憶から鑑みるに……アッセリアがプロメテウスを通じて勝利の神性を呼び起こし、不足した魔力を供給させた様だ。
同じ様にサツキも勝利の神性に作用し、そのまま魔力がほぼ空の2人は激しい技の衝突に移行。
その末に、アッセリアのセーフティーがその役目を果たし、アッセリアは倒れた様だ。
サツキがぶった斬られている事や、クエストクリアになったのは、サツキがそれで良いと判断したが故だろう。
……勝利の神性による魔力の補充も、現状原理がよく分からない代物だ。
日々生ける者達は魂の深淵から魔力を生産している様であり、勝利の神権はそれを強化する代物なのだろうが、そもそもの無から有を作っているその原理、魂のブラックボックスがまるで理解出来ない。
これを解明する事が出来たら……多分それは神の所業だ。
それも並大抵の神では無く、大神かそれ以上。な気がする。
差し当たり倒れるアッセリアに歩み寄る。
「……その子、褒めてあげなさいよ?」
サツキはプロメテウスを引き抜き、地面に突き刺した。
「勿論、たっぷりとね」
そんな事を言いつつ、僕はアッセリアを抱き上げる。
アッセリアは剣士の中でも上位だが、上位の中では下位だった。
何せ彼女は死克を果たした事がメインであり、剣に一辺倒だったナーヤや火の剣で火の神霊金属を両断せしめたアルフ君よりどうしても意思が劣っていたから。
サツキの薫陶を受けた今やトップに近いだろうが、その差もきっと直ぐに埋まってしまうだろう。
所詮アッセリアはその程度の才能しか無いのだ。
時間を掛けて、磨けば良い。僕にその時間があればの話だがね。
眠るアッセリアの頭を撫でて、その魂を観察する。
倒れるまで力を行使したのでは無く、倒れるまで勝利の神性を行使した。これは近い様でまるで異なる。
勝利の神性を行使すると言う事は、事実上限界を越えると言う事であり、勝利の神性を行使し続けると言う事は、限界を迎えた演算力を酷使し続けると言う事だ。
そうなれば、当然起きる事がある。
先ず、肉体から今にも剥離仕掛けている魂を捕獲、僕の魂を愛属性と生命属性の神気に変換しつつ、接着剤として慎重に利用。
それから更に、魂深部で広域且つ散発的に起きていた崩壊を、同じ様に属性変換した神気で補強しつつ、その原因を探る。
——ブラックボックスに踏み込む。
「……凄い事してるわね……流石万能神……もう何やってるか分からないわ」
そうこうやってる内に、崩壊の発生は瞬く間に抑制されて行き、完治してしまった。
「むむむ」
まるで見通せないそれに問題ない範囲でアクションを起こしてみたが、分かった事と言えば3つだけ。
補強及び中和を行う事で崩壊をある程度押し留められる事と、崩壊箇所に規則性が無い事。それから神気の注入で高負荷を掛けた部分が、僕の操作を離れた瞬間に爆発的に崩壊を始めた事。
これらの事から……魂の崩壊現象は、生命属性や愛属性の神気を持ってしても……止められない場合があると言う事が分かった。
癒そうとする力が働いて尚崩壊すると言う事は……そもそものエネルギーの重みに耐えられていないと言う事か?
インスタントライフで生み出された魂が神気の加護に耐えられないのと同じ原理だろうか?
だとするならば……魂の崩壊現象の根本たる原因は……土台の損壊……?
気絶の原因は精神力の酷使だ。勝利の神権は精神力を激しく消耗する代わりに魔力を生産している。となれば……精神力とその土台部分は繋がっている、または同じ物と言う事になる。
そして…………無から有を作ると言う事は、そこには必ず無が、即ち……0がある筈だ。
「……ふぅむ」
「? 大丈夫?」
「うん……まだちょっと情報が足りないと思って」
「?」
頭上にハテナを浮かべるサツキに、僕は微笑んでおいた。
「アッセリアは大丈夫。アッセリアを鍛えてくれてありがとね」
「まぁ、お安い御用よ」
ふふんと胸を張るサツキ。壊れた体も服も既に元通りだ。
「次の相手の情報が欲しいかな」
「次、そうね…………一言で表すなら、悪魔かしら? 武術よりも魔術の方が得意で、大罪神性の内5つ、強欲、傲慢、嫉妬、色欲、暴食を持ってて、それですっごく猫被りだけど可愛いのよ」
「好きなんだね」
「ま、まぁね」
…………大罪神性って一つ一つが物凄く強大なんだけど。
メロットなら適性上3つ行ける。シャルロッテだと5つ行けるかどうかだろう。
つまり、適性があってもメロット並みかそれ以上のポテンシャルがあると言う事だ。
控えめに言って化け物。悪魔種だと言うのなら正しく魔王。神であるが故に魔神。
そしてそれだけの強者であると考えられるが、夢現帝本人では無い。
どんな相手が来るのやら。
◇
ちょっと名残惜しい気持ちがありつつも、既に自前で治してしまったが気にせずマリア同様に愛属性を注入してからサツキと別れた。
クエストをクリアして手に入れたのは、スキルポイント12P。武器はサツキが振るっていた聖なる剣、驍勇無双。
プロメテウス同様勝利の神性に通じる剣で、基本性能は光と聖属性。
勇者の剣と言うだけあって、膨大なエネルギーを許容出来る。
性質的にはレイ君にあげるのが良いだろう。僕が適当に拵えたシャスティアの剣よりも高性能だが、せっかくなのでシャスティアの剣を鍛え直し、この剣も調整して二刀流で使って貰うのが良いだろう。
ついでに鎧ももう少しマシなのに鍛え直すか。
剣を調べながらも傷付いたプロメテウスを治し、次のメンバーを選別している内に、次の広間に着いた。
六角プレートに刻まれているのは、サイドテールで軍服の様な服を着込んだ幼女寄りの少女。
精緻な細工が施されたその装備、滑らかな曲線と力強い直線で、そこはかとなく魔法使いっぽい。
あくまでも縁を寄せるだけの装飾の様で、術式が描かれている訳ではない様である。
早速転移。
目の前に広がったのは、広大で薄暗いピンク色の空間。
星やハートのクッションが其処彼処に転がっており、やけに猟奇的な男と幼女っぽいぬいぐるみが赤い糸でぐるぐる巻きにされていたり、ハートの形をした矢尻で縫い止める様に心臓を貫かれていたりしている。
見渡すと人形はやたらと沢山あり、手が縫い付けられてたり顔面が縫い付けられていたり、はたまた赤い糸で縁取られた両面後頭部だったりと、中々バリエーション豊かである。
中には姿勢とか表現とかがお子様には見せられない様なぬいぐるみも多々あり、相当歪んでいるのが見て取れる。
そんな正気を疑う空間に、怪しい影が1つ蠢いていた。




