第14話 vs.公明の機士
第八位階下位
軽く体を動かしてから、拳を構える両者。
沈黙は僅か一瞬。
数百の見えざる闘気の衝突の末、活路を見出したらしいリオンが動き、それに応える様にマリアも動いた。
次の瞬間、マリアの動きが爆発的に加速し——拳がリオンの腹を撃ち抜いた。
剣の閃光がリオンの腹を貫き、背中から血飛沫が舞う前に、爆発的な加速を得た掌底がリオンの顎をカチ上げ、閃光が頭を貫通した。
血やら何やらを噴き出しながらリオンが吹っ飛び、マリアはそれを待つ事なく更なる加速を行った。
十分な遠心力を得た高速の回転蹴りがリオンの横っ腹を捉え、弾き飛ばす。
おまけとばかりに吹っ飛んで行くリオンへ実弾が射出され、リオンが壁に衝突すると同時に着弾、爆発した。
「ふむ」
どうやら、地面や壁は衝撃を受けると水面に雫を垂らした様に青白い光の波紋が広がる仕様らしい。
黒い壁に青白い波紋が広がり輝く様は、中々に幻想的で、所々に灯って広間を照らしている青白い光も合わさり、宇宙ないしそれを移す水鏡の様な神秘性を演出している。
……これは子供達が喜びそうだな。作ってみよう。
そうこう考えてる内に、リオンが爆炎を突き破り、残心していたマリアは再度超加速した。
衝突の寸前にマリアが停止、リオンの拳は空を切り、余波で乱気流が発生したり地面の波紋が大きく広がる。
マリアは停止による勢いを利用し、また回転蹴りを繰り出し、リオンは辛うじてそれを腕で受けるも、再度弾き飛ばされる。
当たり前の様に実弾の追撃がされる中、リオンは空中で体勢を整えて壁に降り立ち、しなやかに体を反らして実弾を全て避けつつ、残心するマリア目掛け一直線に飛び出した。
今度は待ち構えるマリアへリオンの拳が迫り、それをマリアは裏拳で払う。
それとほぼ同時に繰り出されたリオンの膝蹴りは、加速により屈み込む様な形で勢いを乗せられた肘が迎撃し、腕の延長線上にはリオンの首。
射出された閃光剣がリオンの首と後頭部を貫通し、動きが鈍ったリオンの顎に捻り込む様な掌底。再度頭を閃光が貫き——リオンの脊髄反射的な蹴りがマリアの腕に直撃した。
しかしマリアの腕部には光で形成された円形の盾が展開されており、殆どダメージにはなっていない。
とは言え時間稼ぎにはなった様で、リオンは肉体を回復させつつ宙で半回転。地面に手をつき足をつき、跳ね上がる様なタックルを敢行した。
対するマリアは加速して後方に離脱しつつ閃光剣を抜き放ち、両腕をバンザイする様に上げてリオンの両腕を根本から切断。勢いそのままバク転し、足先から放たれた閃光剣がリオンの額を貫通。僅かにリオンの動きが鈍った所で、体当たりの射程外へ離脱した。
果敢に攻めてるけどまるで相手になっていない。
そう見える一方で、魔力の消費パーセンテージはほぼ互角。
即ち、事実上の互角の戦いと言える。
……リオンの方が肉体スペックは上とか、マリアは鎧に魔力貯蓄機能が付いてるから魔力量が上とか色々あるが。
ともあれ、リオンは翻弄されてはいるが、ちゃんと学びを得てくれるだろう。
◇
変わらず正面から攻めるリオンに、マリアは緩急を付けた動きで対応する。
何度か見た急制動に対し、リオンは騙される事なく停止、勢いを乗せた回し蹴りを腕で受け、逆の手で足を掴む。
対するマリアは、決して離すまいとガッチリ掴むリオンの力を利用して逆の足で顔面を蹴り、閃光がリオンの頭を貫く。
しかし、そこは流石のリオン。何十回も色んな形で頭を吹っ飛ばされた結果、魂魄での活動を習得し、ここぞとばかりにマリアの両足を掴む。
刹那——マリアの両手が閃いた。
閃光剣がリオンの両手を切り落とし、放たれたリオンの蹴りを辛うじて受け止め、大きく吹き飛ばされる。
マリアは宙で回転しながら足を掴んでいるリオンの手を振り払い、蹴りを受けて拉げた腕を再生、壊れた武装を再構築した。
一方リオンは、とれた手を再生させ、マリアへ更なる突撃を敢行する。
他方、僕はリオンの手を回収した。
……リオンの手……アトラにあげるべきか、ミンチにして混ぜ物してペレットを作ってペルセポネに運用させてみるのも良いな。
悪魔獣の進化には大きな影響があるだろう。
僕があれこれ考えている間も、高速の戦闘は続く。
バカの一つ覚えよろしく突撃を続けるリオン、緩急を付けフェイントと超高速による奇襲で巧みに迎撃するマリア。
度重なる交錯、豪雨の様に広がる波紋、混じる雷の如き閃光、吹き荒れる乱気流。
2つの生命の衝突は然ながら嵐の様相を呈し、閉ざされた夜を彩る。
——突然の変化は無い。
ただ、吹き荒ぶ嵐の中に、ほんの僅かな異音が混じった。
異音は次第に大きくなり、確かな打撃と破砕音に変わる。
いつしか雷は止み、暴風も鳴りを潜め、葉に溜まった雫が水面を打ったかの様な大きく重い波紋のみが辺りを照らした。
シールド展開による鋭い一閃、屈んで避けたリオンの耳の先端が宙を舞う。
打ち上げる様な拳の一撃、シールドが砕け散り、マリアの腕が大きく弾かれる。
更なる拳の追撃、ガードに差し込まれた腕が加速し、拳は大きく逸される。
しかしリオンは勢いを止めず、残りの魔力を振り絞り、マリアのバイザー目掛けて頭突きを敢行した。
飛び散るのは赤い血と、砕けたバイザーの破片。
そのまま2人は倒れ込み、既に限界を越えているリオンは必死にマリアの胸元へ頭突きを繰り返す。
一方マリアは、波紋の中心で衝撃に体を揺らしつつ、魔力残量を確認。
波紋がどんどん小さくなっていく中、加速すら殆ど出来ない残魔力の使い道を暫し黙考し、その優しげな顔に笑みを浮かべてリオンの切れた耳先に治癒魔法を掛けた。
《【運命クエスト】『夢現帝の花嫁:公明の機士』をクリアしました》
力なく胸元に沈むリオンと、何度も破壊した頭を撫でるマリア。
小さな波紋を広げながら、僕は2人の元へ歩む。
この戦い、最終的には互角とは行かなかった。
技量とは、演算力の節約だ。
魔法系スキルに属性変換や濃度向上の機構がある様に、武術系スキルにも各種武属性の変換や動作予測に調整の機構があり、もっと言えば凡ゆる事には定石と言う名の最善手がある。
即ち技量とは、より演算力を割かずに済む、蓄積された経験から裏打ちされる最善手の総量である。
おそらく亜神であると目されるマリアは、レベル相応まで演算力を制限されているだろうし、スキルも大きく制限されていると考えられるが、経験は殆ど制限されていないのだろう。
僕の時と同じで多少の弱体化はあるだろうが、レベル600相当なら大した事はあるまい。
マリアにはまだ余裕があり、残魔力が少なければ大気中やリオンから賄えば戦えた筈だ。
それをしなかったのは、十分な試練を課せたからだろう。
動かないリオンを抱き上げる。
治す余裕もなかったか、あちこちボロボロだ。
取り敢えずそれらを治しつつ、上体を起こしたマリアを見下ろす。
「そっちも治す?」
「いえ、義体ですからお構いなく」
ニコニコと微笑みそう言う彼女に、お礼も兼ねて軽く愛属性マシマシの治癒を施した。
所詮は義体だし、大した意味は無いがね。
マリアは目を細め、ぐっと伸びをした後立ち上がる。
ゆったりと此方へ歩み寄り、力なく僕に抱えられているリオンの頭を撫でた。
「ふふ……良く頑張りました」
「そうだね」
「ふみゅぅ〜♪」
僕も魔力の手を伸ばし、リオンの顎を摩る。甘える様に尻尾が手に巻き付いて来た。
リオンを労いながら、マリアと話をする。
「……次はどんな使い手が出て来るのかな?」
「……異界で勇者をやっていた方の孫で、光の属性と剣術を得意とします。私にとっては妹の様な物ですが、とっても強いので覚悟しておいてくださいね」
どこか誇らしげに、マリアはそう言った。
僕も微笑み、返答する。
「うん、楽しみだ」
正統派剣士で聖剣使いと言った所かな? さて、誰を出すべきか……。




